空中分解2 #1170の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
P君は退屈な毎日を過ごしていた。親の七光で何不自由のない暮らしができる。 コツコツと働くなどということは、彼の脳味噌にはこれっぽっちも浮かんでこない のだ。きょうもP君は退屈しのぎの夜間ドライブに出かけた。 P君の運転する車は、いつの間にか人通りのない道路にさしかかっていた。 どことなく、なま暖かい風が吹く夜だ。道は左右に曲がりくねり、一方は断崖に なっている。こんな所で運転を誤れば、間違いなくあの世にいってしまう。ところ が、P君はさっきから眠気を覚えていた。疲労からくる眠気ではなく、緊張感の欠 如からくるタルミなのだ。その証拠に彼の顔は見るからにだらしがない。 「あーあ、つまらん。なにか、もっと死ぬほど刺激的なスリルがないものか」 彼は眠気をさまそうと、大きな声を張り上げた。いつの間にか道沿いのガードレー ルがなくなって、道のすぐ横まで断崖が迫っている。 「おー、これなら運転にもメリハリがつくぞ!」 ようやくハンドルを握る手に力の入るP君であった。 「こんなものでは、まだご不満ではないかな?」 後ろからいきなり声が聞こえた。P君は、バックミラーの中に黒い服を着て不気味 に笑う男をみつけて驚いた。いつの間に後ろの席に…いつ乗り込んだのだ… 「あなたは、いったい誰ですか?」 P君は注意深く運転を続けながら質問した。 「わしか?わしは悪魔じゃ」と男は答えた。P君はニヤリと笑って、 「冗談がキツイ」と言った。 「冗談だとは冗談がキツイ。わしはほんとに悪魔じゃぞ」男は多少ムキになって答 えた。 「さっきおまえが、もっとスリルが欲しーよー、と叫んだのを聞いて、こうして参 上したわけじゃ。実を言うとわしも少々スリルが足りなくて、いまのおまえのよ うにタルンだ顔をしていたんじゃが、よーやく、これで仕事ができそうじゃ」 「しごと?」 「そーじゃ。これからおまえを地獄に連れてゆく」 「はははは、は」とP君は運転を続けながら笑った。 「笑うとは失礼な。どうもおまえは事態を理解してないらしーな」 「事態もなにも、ばかばかしいのもいい加減に…」 P君がそう言い終えないうちに、車はハンドルの意志に逆らって、断崖に向けて走 りはじめた。ブレーキを踏んだが手ごたえはない。 「うぉー!!」 P君は慌ててハンドルを切った。もう少しというところで、車はようやくP君のハ ンドルさばきに従って、元の道に戻った。 「どーじゃ、これでも信じないのか?」と男は不気味に笑いながら言った。 「信じるもなにも、いまのは小石にのりあげてスリップした…」 「うぉ、うぉー!!!」 またもや、車は断崖絶壁に向かって走りはじめ、あわやというところで元の道に戻 った。 「これでも信じないのなら、悪魔の顔も3度まで。次はほんとにほんとじゃぞ」 「わ、わかりました。しんじます。しんじますから、どうかおたすけを」 P君の顔から血のけがすぅーっと引いた。 「助けるわけにはゆかんな。なんといっても、わしは悪魔じゃから」 車はP君の意志に関係なく走りはじめている。 「そ、そこをなんとか。悪魔さん、いえ、悪魔さま」 「いやー、いよいよ面白くなってきた。こうでなくっちゃ。やはり悪魔は人間に恐 れられないと仕事の楽しみがない」 悪魔の顔にみるみる明るい笑顔が戻ってきた。 「おまえはこれから地獄に行くのじゃ」 「そ、そんな無茶な!」 「無茶でもなんでもないぞ。おまえが望んだことだ」 「の、のぞむなんて、そんなわけがない」 「いいや、たしかにさっき死にたいと言ったぞ」 「な、なんということを。わたしはただ、死ぬほどのスリルが…」 「そんなこまかいことに、悪魔はこだわらんのじゃ」 「そ、そんな無茶な!」 「ええい、うるさいわい。とにかくわしは退屈しのぎに、おまえを地獄に連れて行 くのじゃ」 車が再び崖っぷちに向かって走りはじめた。 「た、たすけてくれー、ど、どうか、悪魔さま、神さま、仏さまー」 P君の絶叫とともに、車は断崖の一歩手前で急停車した。P君はおそるおそる閉じ ていた目を開いた。バックミラーの中に悪魔とともにP君を見つめる優しい女性の 顔があった。 そうね」 「それはそうねじゃないぞ。なんでわしの邪魔をするんじゃ」 と悪魔が女性に向かって言った。 「だって、このかたがわたしをお呼びになったんですもの。たまたま、ヒマを…じゃ なかった、とにかく、おお急ぎでかけつけましたのよ」 「じゃあ、あなたは…」P君はわらにもすがる思いだ。 「そう、天使なのです」 「ふん、なにが天使じゃ。えぇい、むなくそわるい」 「あなたこそ、このムシ暑いのに黒い服なんか着ちゃって」 「えぇい、うるさいわい。わしは悪魔じゃ、悪魔がジーパンはいてちゃ、かっこが 悪い」 「それもそうね。そのセンスの悪い服、あなたの顔にはとってもお似合いよ」 「えーい、黙って聞いておれば、この天使め。とにかく、この男はわしを呼んだの だ。呼ばれたから、わしがきたのじゃぞ。後からきて大きい口をたたかれたら困 るのじゃ。この男はわしが地獄に…」 「いーえ。それは違います。このかたはわたしを呼んだのです。ね、そうでしょ?」 「は、はい。そうです。神さま、仏さま」 「わたしは、仏とはなんのかかわりもございませんが、まあ、いいわ。ね?悪魔さ ん、これでおわかりになりました?したがって、このかたはわたしが責任を持っ て天国にお届けしますのよ」 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください」P君が慌てて天使の言葉をさえぎった。 「わたしは天国になぞゆきたくはない…のです…が」 「あら、そうなの?じゃ、やっぱりわたしがお邪魔したのかしら…」 「ええい、ほらみい。わしのいうとおりじゃろうが」 「ちょ、ちょっと二人とも、わたしの言うことをよーく聞いてください!」 P君の大声に、悪魔と天使はP君を凝視した。 「わたしは、つまり、その、退屈しのぎの人間がごく普通に口走る『死ぬほどのス リルがないものか』とたった一言呟いただけで、なにもほんとに死にたいわけで はないのです。地獄はおろか天国になど、この若さでいきたいとは思っていない のです。したがって、どうかこの場をお引き取り願えないでしょうか?」 所にゆだねるというのはどうかしら?」 「…うむ、しかたなかろう。ほんとはわしの仕事じゃったのに…」 悪魔はしぶしぶ承知した。 「で、わたしはどうすれば?」 P君は顔に少しだけ明るさを取り戻しながら天使にきいた。 「ただ、待つのです。1週間か、一年か、あるいはもっと長いかもしれませんけど、 あなたの言うとおり天国にも地獄にもゆかなくてすむかもしれないし、あるいは どちらかの仲間入りかもしれないわ。いずれにしても悪いようにはしませんわ」 かくして、P君はそれからの日々を不安と緊張の連続で過ごしたとか…。 (了)
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