空中分解2 #1169の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
落ち葉が散る秋の森を少年は静かに歩いていた。 まだあどけなさの残る少年だ。革製の服に身を包み、矢筒を背負い、左手には ちいさめの複合弓を握っている。 少年は突如、その歩みを止めた。獲物である。 それはまだ毛の変わりきらない野兎だった。耳をそばだてて、黒い瞳をくりくりと させてあたりを警戒している。 少年は矢筒から矢を取り出すと、弓につがえた。そしてゆっくりと左手を上げて 狙いを定め、弓を引き絞った。 少年は初めての狩りの時からこの瞬間が好きだった。この張り詰めた力が解放 されるこの瞬間が。 少年が放った矢は与えられた力でまっすぐに野兎に向かって飛んだ。 しかし野兎に当たる事無く矢は地表に突き刺さった。 はずれたっ。 少年は急いでもう一本、矢を取り出した。 野兎は背中を見せ、自分の巣穴へと向かっている。巣に入ってしまえば野兎を しとめる事はできない。幾つもの出口を野兎はもっているからだ。 当たれっっ。 速射だった。当たれば儲け物のような射ち方だったが矢は何とか野兎の後ろ足を かすめた。 兎は弱い生き物だ。足を傷つけられればそれで終わりだ。森の中では生きて 行けない。 少年に射たれた野兎も必死に逃げようとするが傷ついた足では逃げきれるわけが なかった。 少年は野兎に追いつくとナイフを取り出した。野兎の首をつかみその喉にナイフを あてる。 少年はこの時、自分の腕を呪う。射殺して入れば、こんな方法をとる事はない。 少年はナイフを引いた。やわらかな野兎の喉はそれだけで切れ、鮮血が溢れ出る。 血は少年の手を汚したが、それを少年は汚いとは思わない。 森と動物を敬うべし。 小さい頃より教えられた狩人の掟である。 ともかく少年の今日の狩りは終わった。村の掟でその年齢によって狩りの量は 決められているのだ。 必要以上とるべからず。 森と人とが共存して行くための掟が狩人の掟だった。 掟を破った狩人は森の怒りで身を滅ぼすと、そう言い伝えられている。 だが大人になっていない少年にはすべての掟は理解できていない。必要の なさそうな物も幾つもあるのだった、少年にとって。 少年は村へ帰る途中、泉のほとりで休んでいた。 動物達の水飲み場であった。ここでの狩りは禁止されているため考えごとを するには最適の場所だった。 少年が木の根に腰掛けるとちょうど対岸に一匹の子鹿が姿を現した。美しい 毛並みの子鹿だった。 不安げに少年の様子を見ていたが少年が動かないと水を飲み始めた。 少年はそんな鹿を見ながら考えていた、いとしい彼女のことを。 メイア、それが彼女の名だ。村長の娘で少年の恋人でもあった。 彼女は今年で16になる。村の娘は16になると結婚する。相手は掟にしたがい 競技により勝った男だ。 その競技とは狩りだった。森に入り獲物を早く、そして立派なものをとった者の 勝ちなのだ。 少年も出るつもりでいる。が、まだ狩人としての経験の浅い少年は不安でいっぱい だった。 本当に自分は勝てるのだろうか? わからない、自分には経験がない。もっといっぱい狩りをして腕を上げなくては 勝てないだろう。 思えば思うほど少年の心は霧に包まれ、黒い不安が煙のように立ちこめた。 また少年の心には不安以外の感情が泉のように湧き出た。 いとしいメイアを失うことの恐怖である。 「誰だ?」 突然少年は名を呼ばれた。聞き覚えのある声だったがその声の主がこんな所に いるはずがない。 「メ、メイア?」 だが姿を現したのはまぎれもなくメイアだった。 長い黒い髪と白い肌、澄んだ瞳。どれもメイアのものだった。 「どうして・・・・ここに?」 「あなたが心配だったの」 メイアは澄んだ声でそう言った。 「もう競技の日は近いけど、あなたの腕では勝てないわ。もっとあなたは狩りを するべきなのよ」 普段のメイアの発言ではなかったが少年は自分に対する思いやりからの言葉だと 信じきっていた。 メイアは右手を上げ、ほっそりとした指で対岸を指さした。 そこにはさっきの子鹿がいた。水を飲み終わり休んでいる。 少年は立ち上がり矢を弓につがえた。 黒い不安と恐怖は少年の心を犯し冷静さを失わせていた。 狙い澄ました矢は狙いをはずさずに子鹿の胸に突き刺さった。 その瞬間、子鹿は断末摩の叫びと言うには美しすぎる一鳴きをした。 それを聞いたとき少年の心は空白となった。 森ノ掟ヲ破ッタ・・・・ さっきまでとは違う異質な恐怖が少年の心を支配し始めた。 森の掟を破った恐怖。 尊ぶべき命を奪った恐怖。 それは幼い頃よりの教えを破った恐怖・・・・・・・。 「メ、メイア・・・・」 少年はメイアの方を向いた。 「オマエハ森ノ掟ヲ破ッタ・・・・」 メイアの姿はそこにはなかった。 そこには巨大な黒い蛇がとぐろを巻いて笑っていた、少年を。 「オマエハ森ノ掟ヲ破ッタ・・・・ツグナワナケレバナラナイ」 ゆっくりと蛇は巨大な口を開けて少年に迫った。 少年は動けなかった。 ゆっくりと蛇に飲み込まれていき、意識の薄れる中、少年は一つの掟を思い出して いた。 森の中で迷うべからず。自分に勇気と自信を持つべし。 当たり前の事だと思っていた。しかし当たり前の事を守るのは難しいのだった。 若さ故の、取り返しのつかない過ちを少年は犯したのだった。 9/13(金) 道化師
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