空中分解2 #1138の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
◎ クリーブランドの夜 昨年の暮れ、シンシナティからクリーブランド経由でロスへ向かった時のこと である。乗継ぎのクリーブランドに着いたのが夜の一〇時過ぎ、話には聞いてい たがここ数年失業者が増加しているクリーブランドの治安は悪く、ボックスから 取り出したその日のローカル紙にも惨たらしい殺人事件の記事が一面を大きく飾 っていた。 ガランとした夜のディーポ、この時刻になると待合室にも人影はまばらである。 大きな荷物の脇にうずくまるようにして私は乗継ぎバスの到着を待った。五分程 たっただろうか、外を通りかかった警官が二人、私を見つけて待合室に入ってき た。「一人旅か。」背の高い若い方の警官が尋ねた。「そうだ。」私が答えると 二人はちょっと舌うちして互いに顔を見合わせた。この動作の意味はそれから一 〇分もしないうちに分かった。一人の黒人の大男が入口から入って来て待合室の 私に目を留めた。彼は一つ声高に口笛を鳴らしツカツカと私の所までやって来る と、その大きな黒い片手を差しだして「チェンジ。」とひとこと言った。てっき り小銭の両替だと思った私が「ハウ マッチ?」と聞くと相手はすました顔で「 ワン ハンドレット ダラー」と例の母音だけに簡略化された黒人独特の英語( 慣れないと「ワ・ハ・ラ」としか聞こえない。)で言う。「ホワット!」驚いた 私が声を荒げると、とたんに仲間とおぼしき黒人三人がドカドカと入って来てぐ るりと回りを取り囲む。四人はいずれも私より背が高く囲まれると周囲からは全 く見えない。黒人は今度は指を四本突き出して「フォー ハンドレッド ダラー」 と要求をアップする。「払うしかない・・・・」私は観念した。四百ドルと引き換え に命を投げ出すほど世間知らずではない。飛行機の予約が遅れて期日に間に合わ なくなったこと、バス乗継ぎのスケジュールが悪くクリーブランド発が夜半近く になってしまったこと・・・・私は今回の自身の不手際をあらためて悔いた。 サイフごと盗られてもいいように・・・・少額紙幣だけを入れている内胸のポケット に手伸ばした時、突然奥の食堂で誰かが叫んだ。続いてバタバタと人の走る音。 とたんに四人の男達は囲みを解いてもう一方の出口に向かって逃げ出した。 やって来たのは一人の小柄な東洋人とさっきの二人の警官だった。「サンキュー サンキューベリマッチ」私は本当に心から感謝の気持ちを込めてその東洋人の手 を握った。その後に聞いた話によれば彼はラオス人でベトナム戦争終了後に故国 の共産党政権を嫌ってアメリカにやって来たとのことだった。数年前に治安の悪 さから引き受け手のなかったこのディーポの食堂をあずかって現在は一家で経営 しているという。「にらまれて仕返しされるのでは・・・・」との私の懸念に「連中 はただのゴロつきだ、オレ達に手は出さないよ。こっちにも組織はあるからね。」 とすましてタバコをくゆらせた。そうこうしているうちに乗継ぎのバスが到着。 ほっとして荷物を抱えゲートに向かう。別れ際、重ねて礼を言う私に彼ははにか むように微笑むとポツリと一言呟いた。「日本人だったのか、知らなかった。」 刹那、背筋を電流のようなものが駆け抜けた。彼の心の中でカーテンの後ろに隠 されていた何かが垣間見えたような気がしたのだ。どちらかというと色黒で南方 系の血筋を思わせる私の風貌・・・・それはひょっとして遠いアジアからはるばると 海を越えてやって来たかっての彼自身ではなかったか。つてもなく、金もなく、 言葉も通じない異国の地・・・・そこで生きるために必死で苦労を重ねたかっての自 分。「こんな所でなけなしの金までまきあげられてしまったら・・・・」苦しかった その想い出が「見ざる・聞かざる・言わざる」を決め込む人々の中で彼の心を動 かしたにちがいない。私はバスの座席をいっぱいに倒して一つ大きく息を吸い込 むと、感謝と一種複雑な感情を残したまま夜のクリーブランドを後にした。 魔 人
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