空中分解2 #1122の修正
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○ ジャズクラブ・ソールトレイン(夕方) 店内は北室と春美とマスター以外に誰もいない。マス ターが春美の前にコーヒーを差し出す。 川 原「さあさあ、遠慮しないで飲みなさい」 春美、おずおずとしながらもコーヒーカップに手を伸 ばし、口をつける。 北 室「お前さんが阿倍野の恋人の娘さんとは偶然だな」 春 美「…………」 北 室「それでこの俺の後ろ姿を阿倍野と間違えて刺そうとした訳 か……」 川 原「あんたと阿倍野の後ろ姿が似てるって? 今度、一緒に並 んで見せてくれよ」 北 室「マスター……」 川 原「しかしなんだな、あの北室進悟がこんな小さな女の子に殺 されたとあっちゃあ形無しだろうな」 北 室「茶化さないでくれよ」 春 美「あの…………」 北室と川原、春美を見る。 春 美「本当に申し訳ありませんでした」 北 室「(微笑む)意外と素直なんだな」 春 美「私、皆さんには関係ない事でご迷惑をかけてしまいました」 北 室「関係はおおありだよ」 春 美「…………」 北 室「君は自殺しようとして周りの人間を騒がせたんだ。決して 関係なくはない」 春 美「でも私は誰にも迷惑をかけずに一人で死のうと思ったんで す」 北 室「人に迷惑をかけないで自殺するなんて出来っこないよ。そ れがわからない歳でもあるまい」 春 美「……それは……」 北 室「でもまあ君は本当にそれが正しいと思ってしたことなんだ ろうけど」 春 美「…………」 北 室「俺を殺そうとした事は結局は両親の為にと思ってした事な んだろう?」 春 美「…………」 北 室「両親想いはいいけどやり方がマズすぎるぜ。お袋さんの愛 人を殺す娘なんてマスコミが喜ぶだけだ」 春 美「じゃあどうすればいいんですか?」 北 室「さあね、とにかく大人のする事にはあまり首を突っ込まな い方がいいんじゃないか?」 春 美「北室さんはどうして他人の事に首を突っ込みたがるんです か?」 北 室「だから言ってるだろう。自殺されるのははっきりいって迷 惑だからさ」 川 原「お嬢ちゃん。その男はね、前に一度アメリカでね……」 北 室「(怒鳴る)マスター!」 川原、肩をすくめる。 春 美「(不思議そうに)アメリカがどうかしたんですか?」 北 室「別になんでもないよ」 春 美「アメリカに行った事があるんですか?」 北 室「昔ね……。実はまた今度行くんだ」 春 美「旅行? それとも出張か何かで?」 北 室「……サンディエゴという所に派遣されるんだ。数年はそこ で暮らす事になる」 春 美「まあ!」 北 室「アメリカに興味があるのかい?」 春 美「私の父がよく仕事でアメリカに行くんです」 北 室「俺の先輩だな」 春 美「父は仕事一本槍のタイプで家に帰って来るのはたまになん です」 北 室「なるほどね」 春 美「母はそんな父に愛想をつかしてしまって……」 北 室「アメリカに親父さんをとられたってわけかい」 春 美「北室さんはアメリカが好きなんですか?」 北 室「お前さんは嫌いなのかい?」 春 美「……ええ、アメリカも嫌いだし、それにかぶれた人も嫌い です!」 北室、やれやれといった表情。 春 美「あっ、私は父の事を言ったんです。気に触ったらごめんな さい」 北 室「いや、別に謝る事はないさ」 春 美「北室さんはどうしてアメリカが好きなんですか?」 北 室「そうだなあ……いろいろ全部話すと長くなるけど……一言 でいうならアメリカは努力すればそれがちゃんと報われる 国だって事かな」 春 美「…………」 北 室「アメリカンドリームって言葉は聞いた事があるだろ? ア メリカは自由な国で個人個人がそれぞれ尊重されるんだ。 そしてこれはと思う者が出てきた時は国民全体がそれを歓 迎する」 春 美「…………」 北 室「日本は違う。法律で自由は認められても日本人全体の意識 の仲で個性は迫害され、夢は押しつぶされる。自分が本当 にやりたい事が……絶対にやれないとは言わないがやり難 い国なんだ」 春 美「私の父も似たような事を言います」 北 室「そうだろ? 少しは親父さんの気持ちも理解できたってわ けだ」 春 美「(不機嫌そうに)ええ、ほんの少しですけど」 二人、苦笑い。 北 室「お前さんは何か夢はもってないのかい?」 春 美「夢?」 北 室「やりたいこととか」 春 美「強いて言えば一つだけ……」 北 室「どんな夢?」 春 美「ちょっと変わってるんですけど……」 北 室「言ってごらん」 春 美「私、本当に好きになった人のお嫁さんになりたいんです」 北 室「(怪訝な表情)それのどこが変わってるんだい?」 春 美「友達はみんな言うんです。結婚するんなら自分の好き嫌い で選ぶんじゃないって。その相手の地位や財産、相手の親 が一緒に暮らすのかどうかとか、とにかく少しでも玉の輿 にのれるように決めるのが大事なんですって」 川 原「中学生でもうそんな考え方をしてるのかい? せちがらい ねえ」 春 美「私は違います。……私、地位も財産も関係ない、本当に好 きになった人と家庭を築きたいと思ってるんです」 北 室「それが普通だと俺は思うな」 春 美「それが子供の為にもいいと思っているんです」 北 室「子供って……誰の事?」 春 美「(戸惑いながら)……私の……」 北室、笑い出す。 川 原「(笑いをこらえて)北室ちゃん。そんな笑うもんじゃない よ!」 北 室「(笑い続ける)だって……」 春 美「夫と子供とで幸せな家庭を作りたいと思ってるんです!」 北 室「(笑い続ける)わかる。わかる」 春 美「…………私の子供には、私みたいな思いはさせたくないか ら……」 二人の笑い、凍り付く。川原、皿洗いにもどり、北室 はコーヒーを飲み干す。春美は、再び寂しげな表情。 北 室「マスター、バーボンくれ」 川 原「バーボンって?」 北 室「ボトルキープしてあるバーボンだよ」 川 原「何言ってんだ。この前全部飲んじまった癖に……」 北 室「じゃあ新しいのを出せばいいじゃないか」 川原、しぶしぶボトルを出す。 川 原「春美ちゃん」 春美、川原の方を向く。 川 原「親が仲良くして欲しいと思うのは当然だよ。しかし人間っ ていうのは必ずしも自分が望むようにはなかなか生きられ ないものなんだ。夫婦は仲良くした方がいい。一生懸命勉 強していい大学に入れ。いつまでも病気をせずに健康でい ろ。……そして一度は別れた恋人ともう一度よりを戻した い……」 北室、びっくりして川原を見る。 川 原「みんな当たり前の事なんだ。しかし彼らはある何らかの間 違いでそうする事の出来なかった、或いは出来ないでいる 連中なんだ。私が言いたいのはそんな人間でもそれはその 人の生き方として尊重してやって欲しいという事さ。ひょ っとすれば君の親は離婚するかも知れない。しかしそれは ある意味で仕方のない事だろう。大事なのは君がその事実 を冷静に受けとめて、それぞれの親の生き方を尊重し、君 自身の人生に従って両親といつまでも仲良くしていく事な んじゃないのかな」 ○ 同・数時間後 春美と北室、帰り仕度を整えている。 北 室「(春美に)先に表で待っててくれ。すぐに出るから」 春美、先に外へ出る。 北 室「マスター、ありがとよ」 川 原「(笑って)いいんだよ」 北 室「あの娘も少しはわかってくれたと思うよ」 川 原「お前さんはどうなんだい?」 北 室「……俺は初めからわかってたさ」 川 原「……どうかな。まあ人間の感情なんて演説によって変わる もんじゃないしな」 北 室「それじゃあ行くよ」 川 原「北室ちゃん」 北室、振り向く。 川 原「……アメリカで起こった事は忘れな」 北 室「……」 川 原「それがお前さんの人生に重い負担をかけてる」 北 室「……忘れてるさ」 川 原「本当にそうか?」 北 室「…………ああ、……本当だ」 川 原「……そうか、それならいいんだ。余計な事を言ったな」 北 室「じゃあな」 川 原「ああ、気をつけてな」
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