空中分解2 #1095の修正
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私はよく「なぜ猫が嫌いなのか」という質問を受けます。そのたびに「とにかく虫が すかん。あっ、ところで、マリリン・モンローは好き?」などと言って逃げ回ってなる べく「猫」から話題をそらすことにしているんです。このきりかえし法は非常に効果が あって、私の統計によると、猫好きの方の多くがマリリン・モンローが嫌いなわけです 。で、その話題から逃げたくなるので、交換条件が暗黙のうちに成立して、猫の話もう やむやになるという具合です。しかし、おそらく愛猫家の方に「なぜ猫がすきなの」と 訊いたら「とにかく好きなのよ」なんていうはっきりしない答が返って来るんでしょう ね。それと同じで、猫が嫌いな人間に「なぜ嫌いか」と訊くこと自体が愚問です。嫌い なんだから。まあ、しかし、それでは話にならないわけで、僣越ではありますが、世の 「猫嫌い」を代表して「嫌いな理由」をやってみますか。 「前世での私と猫との因縁」などというきわめて論理的な話(?)はひとまず置くと して、この問題の性質上、今回はかなり感情的に申し上げてみます。 まず、あの毛並みが気にくわん。毛並みと言っても、猫にも生意気に種類があるわけ で、種類ごとに気色悪くも毛並みが違っているということで、一概には言えないのです が、なでたらおそらく手触りがよさそう、あたりにもに何か罠を感じる。ぶるっ、とく る。男がピアスをしているのを見て鳥肌が立つのとよく似ている。手触りが良いのは女 性の肌だけで十分なわけで、だから猫は一匹残らずリムーバーのプールにたたき込んで 脱毛してしまえば、とりあえず、この毛並みに関しては目をつぶっても良い。 次に目。人の表情、いや心理状態までも読み取ろうというあの「間」がどうにも我慢 ならん。ごみ置き場の残飯を漁っていて見つかった時でもすぐには逃げない。必ず人の 顔をのぞき込んでから約一秒後に逃げ出す。どうしてすぐ逃げないんだ。猫にも理由が あるなんてのは聞きたくない。理由を聞きたくなるのは女が別れ話を持ち出した時だけ だ。もっとも、そんな言い訳は嘘に決まっていて、他に男ができたに違いない。そうい えば、女が嘘をついて、その反応を見ている時の目は猫のそれに似ていなくもない。ま ったく、女も猫も…おっと、だから、百歩譲って、猫の目ん玉が私に見えなければ良い わけだから、一匹残らず濃いめのサングラスをかけさせればこの件に関しては棚上げに しても良い。 次に爪。女性ならば御自分の爪をよくご覧になればわかると思いますが、ヒトの、そ れも女性の爪というのは、これはズングリでも、スラッでもそれなりにかわいい。それ がどうだ、猫のそれは内側に反りかえっている。そして細く鋭い。あれは武器以外の何 物でもない。何を隠そう私は猫に一度ひっかかれたことがあるんです。ちょっと引っ張 っただけなのに、ヒゲを。ひっかかなくてもいいだろう、話せばわかることなんだから 。それが、くい込んで、肉がもげて、未だにそこには毛が生えてこない。この不毛のま ま一生を終わるのかと思うと夜も眠れない。まあ、いいや、ここは、ヒトにおける寛容 と忍耐というほとんど宗教的な立場から過ぎたあやまちは許すとする。はっはっはっ、 猫には「イワシの頭もシンジン」というものがないだろう。食べるばっかりで。が、暫 定措置として、ホームセンターか何かで売っている、ゴム製の「テーブル脚キャップ」 みたいなものをすべての猫に履かせることにする、ならば、大目に見ないでもない。「 それではあんまりだ」という声も聞かないではない。だから、レースのカーテンの切れ 端などで、その上を覆うことぐらいは特例として許す。ところで、女性の中に爪の先を 細くして、さらにマニキュアを塗っている人をよく見かけます。まあ、あでやかで私の 好みに合うのですが、見方によってはあれは猫を意識しての仕業とも受け取れる。それ に、時と場合で男の背中などにその鋭くした爪を立てることがある。女性の側にどんな 事情があるのか男の私には理解できないところで、このあたりは今後の研究に待つしか ない。 ここで余談ですが、余談といっても猫の話しなわけで、私は昔、岩登りを練習したこ とがあるんです。ザイル一本に命を託し、生死をかけて上昇していく感覚がたまらなく て、かなり一生懸命練習したものです。なのに、どうしてもテクニック的になにか最後 の壁が一つ打ち破れなくて行き詰まってしまいました。そこで岩登りのプロに頼んでコ ーチをしてもらうことにしました。ある日、いままでどうしても越えられなかった岩壁 の下までそのコーチと二人で行き、教えを受けることになったのです。その壁は下から 見てもほとんど垂直で、しかもホールド(手がかり)が一つとして見あたらないという 大変に難しいルートでした。もちろんコーチが先行しました。ちょっと想像していただ きたいのですが、最初に登る人間を上から確保するザイルはありません。ですから、よ ほどの自信がなければトップは勤まらないわけです。それを、いとも簡単そうにそのプ ロはスルスルと登っていきます。そして十メートルほど上のちょっとした岩のくぼみに たどりつくと、確保のためのハーケンを打ち込んでザイルを固定しました。それから私 に向かって大声で「よーし、上がってこーい」と叫んだのです。そうは言われても、そ んなまねはできません。私は何度も登っては落ち、登っては落ち、を繰り返していまし た。なかなかたどりつかない私に業をにやして、コーチは怒鳴りました。「猫になれー 。猫みたいに爪をたてるんだー」やってみましたが、やはりだめで、ついにその壁はあ きらめて、ほかのルートからコーチのところにたどりつきました。コーチの爪を見せて もらうと、ガサガサで、しかも分厚い。もちろん先端は天然のヤスリをかけているわけ ですから、すり減っている。コーチは言いました。「オレなんかここんとこ十年てもの 爪を切ったことがねえ」私はそれを聞いて岩登りをやめることにしました。冗談じゃね え、猫になんかなれるか。 次に歯。これは牙と言うべきでしょうね。ここまで同じパターンで進めて来ましたの で、察しの良い方はもうおわかりと思いますが、猿ぐつわ、です。三年くらい前にもら った酒屋のタオルかなにかで後ろからグッと縛る。なんせ危険なんだから。腹を出して 寝るとか、自分の不摂生のためにカゼなどを引き込んでいる猫の場合はマスクでの代用 も一時的に認める。「食事はどうするんだ」という問題は簡単に解決できます。猿ぐつ わをしたまま仰向けに寝かせて、タオルのすき間からチューブを通して流動食を流し込 む。最近は贅沢なキャットフードもあるようだから、そいつを更にすりつぶしてやれば いいんじゃないですか。猫が可愛いならそのくらいはしなきゃ。私は声を大にして言い たいのですが、よく為政者は豹の小型を街に放しておけるものですね、と。今は確かに 人間にかみついて殺したなどという話はあまり聞かないが、あれは「能ある猫は牙を隠 す」というやつで、いつなんどき、豹変するか知れたものじゃない。豹変といえば「あ の女は女豹だ」などと言うと、「色気で男を引きつけて、すきを見て喰い殺す女だ」と いう意味だと思うのですが、猫と豹は仲間で、それが女と結びついた言葉が現にあると いうことは、興味深いところではある。ま、なにはともあれ、今のうちですよ、すべて の猫に猿ぐつわ。 次に背中。俗に言う猫背。この言葉には迷惑している。私は実は背が高く、どちらか というと猫背ということらしい。身長の高い人間は割とこの猫背になりやすいらしいの ですが、これには、歴然とした理由があるわけで、つまり、世の中の生活環境というも のは当然平均的な身長に合わせてつくられているわけで、たとえば、机の高さしかり、 鴨居の高さしかり、なのです。そうすると、必然的に背の高い人間はかがみながら生活 することを余儀なくされる。そのうえ、出る釘は打たれるということもあるわけですか ら、謙虚で背の高い人は猫背になりやすい。しかし、あの猫と一緒にされるのは心外だ 。猫が座っている時やサカリがついてミヒャーウヒャー言っている時の曲がった背中を 見る度に自分もこんななのかと正に背筋が寒くなる。猫の背中が曲がっていることを矯 正すればいつの日にかきっと猫背などという忌まわしい言葉がこの世から消えるはずだ 。やはりこの際、猫にはコルセットをしていただきましょう。コルセットをして背筋が ピンと延びている猫の姿を想像するだけですがすがしい気分になる。ほんとうは鋼鉄製 が望ましいのだがムレてタムシになると、その菌が人間にまで及んで来るおそれもある ので、ギックリ腰の時に使う筋金入りの物で良いでしょう。脱線ばかりで申し訳ないが 、私はギックリ腰で辛い思いをしたことがあるんです。その原因がふがいないものでし て、今まで隠してきたんですが、実は、ちょっと振り返っただけなんです。あまりにも 綺麗だったので、すれちがった女性が。私は腰の激痛のために、その場にヘナヘナと座 り込んでしまってしばらく動けなかった。人には言えないし、辛かった。 またしても余談ですが、私は昔、胃を悪くして困っていたことがあるのですが、親切 な人がいるもので「ヨガがいいですよ」と教えてくれた。病院をいくつも変えてもだめ だった後だけに、その言葉を鵜呑みにして教えられたヨガ道場に出向いたのです。イン ドの服を着た初老の男性の先生は私の話を最後まで聞かないで「猫のポーズだ。猫のポ ーズで猫になれば直る」と叫んで、私をよつんばいにしたうえ、こうやるんだとお手本 まで示してくれて、その猫のポーズを教えてくれました。つまり、よつんばいの姿勢で 深い呼吸とともに背中を丸めたり延ばしたり。その時は藁にもすがる気持ちでいたので 、素直に教えを受けたのですが、やはり猫はいやだ。それでヨガもやめました。どうし てみんな猫になれ猫になれと言うのだろう。 容姿の面から挙げていってもこれではまだ半分くらいです。しかし、このパターンで 攻め続けてもどうもいまひとつ説得力に欠けるような気がしますので、次にその行動面 から、私が決定的に猫嫌いになってしまった事件を紹介しましょう。乗りかかった船が 沈み始めるとネズミがいなくなって猫が死に絶えるという諺(?)もあることだし。 数年前に読んだ本で、宮本 輝の「錦繍」だったと思いますが、その中に猫がネズミ をいたぶるシーンが描かれています。小説であるわけだし、いくぶん誇張もあるだろう し、ひょっとしたら全部創作かもしれないと思っていたのですが、それを読んだすぐ後 、私もそれとまったく同じものを見てしまったのです。どんなであったかと言いますと 、 私は家の近くの自動販売機までコーラとタバコを買いに出ました。陽が西に傾いて暗 くなりかけていました。買い物を済ませてから帰ろうとした時です。5メートル程先の 電柱のかげに猫の姿を見つけました。薄暗くて見えにくかったのですが、よく見ると、 なにかにじゃれているようです。さしづめ気の振れた気違い猫が子供達の置き忘れたゴ ムボールか何かとチチクリあっているのだろうと思って、なおも近づきますと、その相 手はネズミでした。こちらが近づいていることに少しも気づかないようで、逃げもせず 、片手でネズミを転がすようにしています。おそらくどこかで捕まえたネズミを食べて しまう前にもてあそんでいたんでしょう。性悪な猫のしそうなことだ。見ると、ネズミ はあごを出し、両手足は痙攣してつっぱったまま震えています。転がされるたびにネズ ミの白い腹やポッカリと開けられた口の中の赤い粘膜が見え隠れして、そのあわれさは 私の頭の中にある「黒くすばしっこい」というネズミのイメージとはひどく違っていて 、ああ、これでこのネズミの命は終わりなのだと直感しました。 その次の猫の行動が許せない。そのままくわえてどこかに走り去るなら弱肉強食の自 然の掟かと思わないではないのだが、なんと空高く放り上げた。夕焼けの空に。しかし 、落ちたネズミは気を失うどころか逆に正気づいて、あろうことか歩き始めた。ネズミ の千鳥足。その姿を猫はジッと見据えている。猫とネズミの距離が1メートルぐらい離 れたとき、再び猫は襲いかかってネズミを捕らえ、爪をたてた。腹が引き裂かれる。 私も震えていました。無性に腹が立った。とっさに、持っていたコーラの缶を投げつ けようと、身構えたとき、猫がその殺気に気づいたのでしょう、ネズミをそのままにし て私の家の方角にまっしぐらに走りだした。私は惜しげもなく百円のコーラをおもいき り猫に向かって投げつけた。しかし、缶の表面に付着していた水滴が私のコントロール を大きく狂わせ、缶はあらぬ方向に向かって放物線を描く。ところが猫は、缶がまだ飛 行している間に何を思ったか走る方向をほぼ九十度変更して、コーラの落下点に向かい 、缶は見事に猫の脳天に激突した。あたりはしたが、猫は平気な様子でどこかに消え去 りました。 その「跳んで缶にあたる夏の猫」の衝突劇はちょうど私の家のベランダの真下で起き ました。それを洗濯ものを取り込みながら見ていた人がいる。私の妻だ。家に入った私 に向かって「いくらあなたが猫が嫌いでも、あんなことすることないでしょ」と言って 、私の顔を睨みつけ、その後、半日口をきかなかった。妻はあの不幸なネズミのことは 知らない。私も引き裂かれたネズミの腹の事など話す気にはなれなかった。しかし、一 般的に世の中で言われていることは正しかったようで、この事件の翌日、私の家のエア コンが突然壊れた。真夏の太陽にあぶられながら私達家族は三日間修理屋が来るのを待 った。修理屋が言うには「もうこれは寿命です」ときた。それから更に三日間新しいエ アコンが取り付けられるまでが長かったこと。これは、あの猫の生霊がとりついたに違 いない。もし、猫があれがもとで死んでいればたたりということになる。 ところで、この猫嫌いの私も一度だけ猫を飼おうと本気で思ったことがあるんです。 「なんだやっぱり本当は好きなんじゃないの?」というあざけりの声が聞こえてきそう ですが、残念でした、そうじゃない。私の知る限りでも、猫に熱湯をぶっかけてやった 、猫を車でひき殺すとスッとする、などと私の上をいく猫嫌いがいるようなので、その いわば仲間のために大発明をしようと思ったのです。つまり猫の嫌いな物を発見してそ れをスプレーとかにして売り出せば大儲けができると踏んだのです。そのためにはまず 、猫を檻の中で飼って次々と嫌がる物を与え続けて、その中でもっとも効果のあるもの を見つければ良い訳です。しかし、そのアイディアをちょこっと友達に話したら「そん なのもうあるよ。デパートに売ってた」ということで、残念ながら大発明にはならなか った。十年遅かった。 いやはや、猫に関する事を書き始めるとついムキになるようで、自分でもおかしいわ けですが、結論として、私には猫が動物の分際で私がこよなく愛する女性達の領分を犯 していると思えてならない訳です。猫にその気があるのかどうかは知りたくもありませ んが、女性だけで手いっぱいだというのに、女性のような動物の存在は目障りこの上な い。 なにはともあれ猫は嫌いです。
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