空中分解2 #1040の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
いつもはルウは湖までしか出歩かないのだが、今日はもっと遠くまで行ってみ ることにした。木々に囲まれた小道を歩いていると、道はふたつに分かれた。右 の大きめの道が村へと続く下り道である。ルウが生まれた村だ。 ジッタは、ルウの頭上で元気良く羽ばたいている。 (ねえ、村へは行かないの? ちょうどお祭りの時期だよ) そういえば風に乗って人々の歓声が聞こえてくるような気がする。わたしには 関係ないことだわ。そうルウは思って左の細い道を進んだ。 ルウはたまにザッカーに付いて食糧等の買い出しに村へと出向くことがある。 そんな時の村の人の態度は妙によそよそしい。ルウがひとりで行った時などはも っと露骨だ。彼女が入っただけで、店内は静まりかえってしまう。おつりの銅貨 を渡す時の店の人の態度も、何か汚いものとでも相対しているような素振りだ。 フォウゼル族は確かに魔族だが、外見を除けば人間とほとんど違う部分はない。 そのフォウゼル族との混血というだけでこれほどまでに差別されるのは不当だが、 そういうことになってしまっているのだからしかたがない。よくこんな村の中で 一四年間も暮らせたものだと、ルウは自分でも不思議に思う。 (急になに落ち込んでんのさ。もっと楽しくやろうよ) そう言われてルウは頭上のジッタを見上げる。彼は龍の亜種である火龍との混 血だそうだが、やはり龍族の中で忌み嫌われて育ってきたのだろうか。 「ねえ、ジッタ」 歩きながら足元の小石をルウは蹴飛ばす。小さい石は木の根本に当たって、こ ん、と音を立てた。 (なあに、お姫様) 「あなた、わたしのことどう思う?」 (どう思うって?) 「あなた、わたしがあなたの主人だからしかたなく一緒に居るの? あなたもや っぱりフォウゼル族との混血娘って汚らわしいと思う?」 それを聞いた直後にジッタは地面にぽとりと落ちて、派手に転げ回りながらげ らげらと笑い始めた。 (あはは、ばっかみたい!) 「何よ! 人が真面目な話してるのに笑うなんてひどいじゃない!」 (だってあんまりばかばかしいんだもん。ルウはおいらのことどう思うのさ。お いらだって混血だよ) ルウはそう言われて初めて、このジッタという使い魔だけは今まで自分が会っ てきた人間たちとは違うんだということに気づいた。あのザッカー先生だってわ たしに対しては一歩引いた部分があるような気がする。いくら優しくても先生に はわたしの気持ちは分かりっこない。先生は差別されて育った経験がないからだ。 だけど……このジッタという名の使い魔はわたしの気持ちを完全に理解している。 なぜなら彼もわたしと同じ混血の仲間外れだから。 もうわたしはひとりぼっちじゃないんだ……。 「ちょっとこっちに来なさい」 ルウはジッタを手招きした。ジッタはゆらゆらと羽ばたいて、お気に入りの場 所であるルウの肩に乗ろうとする。その直前でルウはジッタをひっ掴んでぎゅう っと胸に抱きしめた。 (ちょっと、何するの!? やめてよう!) ジッタはルウの胸の中でばたばたともがいた。ルウは龍を放さない。 「駄目よ。このまま歩きましょ」 そのうちに龍はルウの腕の中でおとなしくなった。 「そろそろ帰ろうか?」 胸の中のジッタにルウが話しかける。さっきから長いことルウはジッタを放さ ないでいる。 思ったよりも遠くまで来てしまった。日も暮れてきたことだし、そろそろ帰っ たほうがいい。 ジッタはくねくねとルウの腕の中で身をよじる。 (それはどうでもいいから、いいかげんにおいらを放してよう) 「駄目。もう少しこのままでいるの。……あっ!」 一瞬の隙を突いてジッタはルウの抱擁から逃れた。 (べーだ! おいら先に行ってるからね!) そう言って片目をつむって長い舌をべろりと出すと、ジッタは凄い勢いで飛ん で行ってしまった。 「んもう……」 自分も帰ろうと、今来た道を振り返ったルウの動きが止まる。 「誰!?」 誰かが隠れている。道の両脇の茂みに生命エネルギーの発散がひとつづつ。計 ふたり。しかも黒い波動。邪悪の色。 反射的にルウが印を組む。ルウの手持ちの呪文で素早く効果を発揮するのはこ のくらいしかない。 道の両脇から男がふたり現れた。ふたりとも既に抜刀している。得物は小さめ の偃月刀である。 「勘のいいお嬢さんだ。だが一対二ではかなわない。おとなしくしていれば命ま では取らないぜ」 背の高い方が下卑た笑いを浮かべる。 ルウはぞっとした。おとなしくしていれば命までは取らないというのは、たい がい嘘だ。ふたりとも身なりからいって明らかに追い剥ぎ。このタイプの人間は、 犯した後に平気で女を殺す。 先手を取らなければ殺られる。 三つの音節からなる古代語がルウの口から発せられ、結ばれていた印が解かれ た。それと同時に、空気の固まりが土煙を巻き上げながら背の高い方の男に突き 進む。衝撃波の呪文。見習い段階の魔道師が不意の攻撃に対して多用する極めて 初歩の呪文である。 完全に油断していた下卑た笑いの男は、正面からまともに衝撃波を食らい、吹 き飛ぶ。空気塊が命中した瞬間、男の身体は完全に宙に舞った。それを見て、自 分の力はこんなに強かったのか、とルウは驚いた。 「てめえ、魔道師か!」 言いながら背の低い方の男がルウに飛び掛かる。相当場数を踏んでいるらしく、 立ち直りも踏み込みも速い。 印を組み直す前にルウは偃月刀の柄で鳩尾に一発食らった。身体をくの字に折 ったところを男に押し倒される。偃月刀がルウの鼻の下に当てられ、男の臭い息 がルウの顔にまともに当たる。 「喋るな。動くな。瞬きもするな。俺の目も見るな。妙なことしやがったら即座 に鼻を削ぎ落とす」 瞬間催眠を仕掛けられないようにルウの眼に注意しながら、男は横目で相棒の 背の高い男をちらりと見る。背の高い男は地面に大の字になってのびている。 「ったく、油断したぜ。魔道師だったとはな――。それによく見りゃ混血の豚じ ゃねえか。てめえみたいな奴を抱いたら病気が移っちまう。……畜生、どうした もんか」 冷汗をかきながら、男が苦々しげな顔で吐き棄てる。 ルウが豚と言われたのは二年ぶりだった。ザッカーの元に弟子入りしてからは 初めて聞く侮蔑の言葉だ。何故だか無性に悲しくなったルウの目にじわっと涙が 滲む。こういうのには慣れっこになってたはずなのに……。 「けっ! 何泣いていやが……」 そこまでで男の声は途切れた。鈍い音と同時に男は白目を剥いてルウの上に倒 れ込む。男の上では龍がぎゃあぎゃあと鳴きわめいて羽ばたいている。 マ ス タ ー (このばっか野郎! おいらの御主人様になんてひどいこと言うんだよう! 謝 れ、こら!) 謝れと言われても男は既に失神している。 「ジッタ!」 (大丈夫? でも痛いなあ、こいつすごい石頭だよ) 男に頭突きを食らわせたらしいジッタは、痛そうにしかめっつらをする。ルウ は、ぐにゃりとしている男を、自分の上からそろそろとどけた。 「死んじゃったの?」 (ううん。気絶してるだけ) ルウは慎重にもうひとりの背の高い方の男に近づく。その男も死んではいなか った。ただし、衝撃波で肋骨の二本や三本折れているようだ。 「どうしよう……」 (さっさと逃げようよ。とどめをさすなんてどうせルウにできっこないだろ。お いらがやってもいいけど……どうすんのさ) 人を殺すなんて今まで考えてみたこともない。ジッタに殺させるわけにもいか ないし……。 「ううん。いいから早く逃げましょう」 気付いた時に武器を持って追ってこられると困るので、二本の偃月刀を掴むと、 ルウは駆け出した。 【つづく】
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