空中分解2 #1036の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ロザレッタが社交会に出る十四歳の誕生日がやってきました。生まれてから ずっと、薔薇のはなびらを振りかけられて育った公女のかぐわしい美姫ぶりは 社交会に一大センセーションを巻き起こすのに充分なものでした。しかも、七 年前に病気で亡くなった(公的にはそうなっていたのです)気の毒なディラン ド公妃の伝説と重ね合わされて、たちまちディランド公女ロザレッタはヨーロ ッパ一の花と謡われるようになりました。貴公子という貴公子が公女の興を獲 ようと手だてを尽くし、貴族が集まるところではかならず先の舞踏会で誰が何 曲彼の公女と踊ったかが話題に上りました。 そのころエレオノーラは城の外の森の中で、薬草を摘むロトというジプシー の少年に出会いました。そしてそれ以来足繁くロトの一族のもとに通うように なりました。もちろんジプシーたちは彼女が公国の姫だなどとは知りません。 彼女は身分のある者の着衣をしてはいましたけれども、それがいつも薄汚れて いたので、城の召使いの娘と思われていました。姫がジプシーのもとに通うの には2つの理由がありました。1つは、ロトの母親が、髪をといてくれたり歌 を教えてくれたり、自分の娘のように親切にしてくれるからです。もう1つは 、占師であるロトの祖母に話を聞きたいためでした。ロトの祖母の知識といっ たらそれは大変なものでした。各国を遍歴して歩く彼女は、ヨーロッパのほと んど隅から隅までを識り尽くし、その外の世界のこともいろいろと識っていて 、訊ねられるままに姫に話して聞かせました。この祖母もまた姫を自分の孫娘 同然に遇しました。そしてその他の人たちもエレオノーラをロトのきょうだい のように扱うようになりました。 ロトはもの静かな少年でした。エレオノーラよりも1つ年下の十歳、でも該 博で思慮深い祖母の薫陶を受けて育ち、同じ年頃の子供たちよりも聡明ではる かに大人びていて、しかも少しもひねこびたところのない子でした。彼は祖母 について様々な事を学んでおり、薬作りもその一つでした。エレオノーラ(ロ トや一族の者たちは彼女をレナという愛称で呼びました)は彼と共に森で薬草 を摘みまた祖母の熱心な教え子になりました。 オリーブの穫り入れが始まるとともに島に渡ってきたジプシーが収穫祭が終 わり島を去っても、エレオノーラは祖母の教えを深めることを怠りませんでし た。本を読み、森へ行って植物や動物を観察し収集し、また文献を探りました 。次の年の収穫の季節が巡りくると彼女は毎日城の塔に上ってはそこから港を 窺ってロト一族を乗せた舟の影を求め、彼らが着くやいなや飛んで会いに行っ たものでしたが、この一年で彼女が蓄え磨いた知識はあの祖母をして目を瞠ら せたほどでした。 エレオノーラ姫にも社交会に出る日がやってきました。侍女たちはこの風変 わりなお姫様をディランド家の面目にかけて磨きたてましたが、とうてい姉姫 のようなセンセーションを呼ぶことなどはできませんでした。それどころか、 どんな会合にあっても常に控え目なこの姫は、貴婦人たちのあいだにあってま るで目立たない存在でした。 一方、ロザレッタ姫は相変わらず、いえ、生来の美貌に妙齢の輝きを加えて 、社交会に咲き誇っていました。にもかかわらず十七歳を迎えて未だ成婚に至 らないでいるのは、彼女があまりに高い嶺の上に咲く花だったからです。名高 いディランド公国の第一公女、父公爵はなかば隠棲の身であるとはいえ、それ に代わって伯父・イスパニア王が後見人となっている、しかもヨーロッパに並 ぶ者なしとまで謡われる美姫。なまなかの貴公子ではこれほどの宝石を身に持 す資格がないというわけです。イスパニア王をはじめ周囲の者はこのことに気 を揉んではいたのですが、姫は、ある意味ではどこの国の女王よりも高いとこ ろにいて皆にふり仰がれるその状態を、無邪気に楽しんでいました。 しかし、割れ鍋に閉じ蓋、いえ失礼、このまばゆい宝石を嵌め込むにふさわ しい王冠を、とうとうイスパニア王が携えてきて姫に引き合わせました。ディ ランド公国第一公女ロザレッタはフランク王国第三王子カルロスY世と婚約を 結びました。彼は戦争に行っていて社交会に出るのは4年ぶりのことで、武人 でもあり社交ずれしていないのでかなり傍若無人なところがありましたが、そ こが姫にはむしろ逞しく好ましく思えました。 そしてロザレッタ姫は結婚し、それでも依然社交会の女王でありましたが、 彼女に群がっていた貴公子たちにとって彼女の存在はもう宝石どころか絶対に 手の届かない天空の星になってしまったのです。そうなると、それまでは姉姫 の輝きの陰にかくれてまるで目に入らなかったもう一人の公女エレオノーラに も彼らは注意を向けるようになりました。エレオノーラも少しずつ社交会に馴 れ人とまじわるようになっていました。そして彼女の類いまれな知性と教養が 人を引きつけ、サロンでは、ロザレッタと同じくらいにエレオノーラの周りに 人の輪ができるようになりました。ディランド城を訪れる貴婦人貴公子は、ロ ザレッタをよりもエレオノーラを目当てに来る者のほうが多くなっていきまし た。 私に比べればはるかに見劣りのするあんな子が私の取り巻きを奪うなんて、 ロザレッタ姫はおもしろくありません。やがて子供ができてお腹が大きくなっ ていきます。妊娠による容色の衰えは、彼女の気を滅入らせ、社交の場から足 を遠ざけました。華やかさから疎遠になり、欲求不満が高じていきます。抑え られない焦らだちが彼女を悩ませ、猜疑的にさせていきます。自分から取り巻 きを奪った妹が今度は夫をも奪うのではないかと、ただそれだけの理由から彼 女は夫と妹の仲を疑うようになりました。 (4)へつづく
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