空中分解2 #1009の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
私の友人にジョヴァンニ・カリェリという眉唾なアメリカ人がいる。この男、 「驚異を狩る男」だの「史上最後にして最大の冒険家」だのと自称している妙な奴 で、アフリカだのインドだの南米だので経験したと称する、どうにも眉唾な秘境冒 険譚をいやがる私に無理矢理語って聞かせる。以前、そのうちのひとつを小説に仕 立ててAWCのお題に転用したら、今回もぜひこの話を掲載しろと言ってきかない ので、仕方がないから小説にすることにする。 舞台はイギリス。というと、冒険家がなぜイギリスなどに用があるのかとおっし ゃる方がいらっしゃるかもしれないが、この話をジョヴァンニから最初にされたと きは私もそう思った。だがジョヴァンニは自分は広い意味での冒険家であり未知の ものにはどんなことであろうと興味があるのだと強弁して私を煙にまき、容赦なく 話を先に進めたので、私もそれにならって話を先に進めよう。 ご存じの方もおられるだろうが、イギリスという国には幽霊屋敷というのがあち こちに点在している。夏目漱石が「英国の歴史を煎じつめたもの」と評するロンド ン塔の「ブラディー・タワー」や、ヨーク・ミンスターの近隣に位置する「イギリ ス最大の幽霊屋敷」トレジャラーズ・ハウス、三十種類以上にものぼる亡霊が幾度 となく現れるあらゆる心霊現象の巣窟であるエセックス州のボーリィ牧師館など、 世界的にその名を知られた由緒正しいホーンテッド・ハウスもたくさんある。ジョ ヴァンニはそんな幽霊屋敷の謎に憑かれて、古色蒼然としたイギリスの古城や人の 絶えて住まない館などを巡りまわったのだそうである。 が、どんなに有名な場所を巡っても、なんとなく不気味で背筋のぞっとするよう な感覚がある、という以外にこれといった手応えが得られない。やはり幽霊などと いうものはこの世に存在しないものなのだろうかと失望のうちにイギリスを去るこ とになりそうな気配だったのだが、行程の最後に少々奇妙な経験をしたというので ある。べつにとりたててどうということもない、言ってみれば気の迷いの一言でか たづけられるようなできごとなのだが、ジョヴァンニはそれこそ自分の前に開陳さ れた超常現象の一端なのではないかと疑っている。 ジョヴァンニの古城めぐりには終始、ひとりの同行者がいた。名をジョセフ・モ ーガンといい、イギリスの古い家系の出の二十四、五の若者だった。英国の古い建 築に造詣が深く、案内がてらジョヴァンニの幽霊屋敷めぐりに同行を名乗り出たの だという。といっても、ジョセフは霊的なものの存在にはロマンティシズムは感じ ていても否定的な意見の持ち主で、ジョヴァンニの探索行も徒労に終わるだろうと ことあるごとに口にしていた。その言葉どおりめぼしい場所はすべてさしたる収穫 もないまま回り終えてしまい、ジョヴァンニはやや落胆の体で最後の予定を消化す るため、曾祖父の代から受け継いだという高価な金時計をしきりに自慢するジョセ フとともにクレモント州のサイラス邸へと車を走らせた。この邸宅はべつに超常現 象が見られるという類の場所ではなく、ただ建築学上見るべき点が多々あるという ことでジョセフの興味をひいたため行程に入れられたという代物で、ジョヴァンニ は単に同行したまでのことだった。 邸宅には現在もサイラス家の子孫であるという品のいい老夫婦が在住しており、 幽霊などの出てきそうな気配など微塵もない明るい田園の只中に燦然と佇んでいた。 老夫婦の歓待を受けて二人はその晩、サイラス邸に宿をとることとなり、クレモン ト州の伝統的な家庭料理に舌づつみを打った後、二階の客用の寝室へと案内された。 ところがその途上、不可思議な絵画に遭遇したのである。 サイラス家の祖先で、若くして病にその一生を終えたというその肖像画に描かれ た、中世風の衣裳を着こんだ青年の顔は、なんと同行のジョセフ・モーガンと鏡に 映したように瓜二つだったというのである。氷のように冴えたプラチナブロンドの 髪といい貴族的な高貴さをたたえた青の瞳といい、まるで双子のように絵のなかの 人物とジョセフとはどこからどこまでそっくりで、実際髪型や服装をとりかえれば 見分けはつかないのではないかと思えたほどであったのだそうだ。館の老夫婦もし きりと不思議がり、もしかすると遠い祖先の代で血のつながりがあったのかもしれ ないと奇妙な一致を喜んでいた。 そして翌日、暖かい朝食をふるまわれた後、サイラス夫妻とジョヴァンニたちと は堅く握手をかわして別れた。以上でこの話は終わりである。が、二、三補足して おくことにしよう。気のせいにちがいないのはやまやまだが、と注釈をつけた上で ジョヴァンニは、どうもジョセフの人柄が変わったような気がしたというのだ。ど こがどうというわけでもないのだが、ふとした仕草や言葉の端々が、サイラス邸を 訪れる前のジョセフと微妙にちがっているように思えてならなかったのだ。 そしてもうひとつ。しきりにジョヴァンニに時間を訊ねるジョセフに、自慢の金 時計はどうしたのだと訊くと、どうやらどこかに落としてきたらしいというのであ る。高価な時計なのに残念だったなと慰めると、なにそれほどのこともないさとジ ョセフは薄く笑ったらしい。 以後、ジョセフとは二度と出会うこともなく今日に至っている。人なつこいジョ ヴァンニには珍しいことなのだが、彼にはできればもう二度と会いたくはないのだ そうだ。ただし確かめてみたいことがひとつ。サイラス邸の肖像画の青年が、腕に 金時計をはめてはいないか、ということを。 (了)
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