空中分解2 #0986の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
サムイ島はタイのシャム湾に浮かぶ小さな島である。私がこの島 を訪れたのは、もう今から10年も昔のことになる。タイ本土側の スラタニという町から高速ボートが出ていて、それに乗ると3時間 ほどでサムイ島に着く。 高速ボートが船着き場につくと、客引きたちがどっと押し寄せて きた。乗客が桟橋を渡り、島に上陸すると、客引きたちは一斉に大 声を張りあげて、客の勧誘をはじめた。 私は、バンコクで聞いてきたチョウインビーチのバンガローに行 くことにした。客引きにそのことを告げると、彼は後ろの軽トラッ クを指して、それに乗るようにという身振りをした。タイでよく見 かけるTOYOTAの軽トラックで、後部の荷台が改造されている。 座席がついていて、かなりな人数を乗せることができるようになっ ているのだ。 荷台の座席はすでに満杯であった。いずれも外人旅行者ばかりで ある。私は向かい合わせになっているシートの中央の通路部分に、 自分の身体を割り込ませた。 やがて、軽トラックは動き始めた。 道路が舗装されいたのは、町なかのほんの数百メートルで、あとは 赤土のでこぼこ道であった。その道を、軽トラックはもうもうと砂 煙りをあげて走っていった。 海外を放浪して歩いている貧乏旅行者の間で、サムイ島が注目さ れだしたのは、その時からほんの数年前のことである。 タイの有名なリゾートにプーケットがある。 当時、まだ日本人には知られていなかったが、プーケットはすでに かなり開発されたリゾートになっていた。このプーケットも、最初 に入り込んで開発していったのは、貧乏旅行者たちである。そして、 海外でその名が知られるようになると、大資本が入り込んできて、 普通の観光客むけのリゾートにしたてて売り出したのである。 そして、貧乏旅行者たちは、しだいに歓迎されざる存在になって いった。 そういう状況が進行していたので、貧乏旅行者たちは、プーケッ トに替る次の場所を求めていた。そこで登場したのがサムイ島であ る。サムイ島はまたたく間に貧乏旅行者の集まる場所になった。 その当時の日本人はサムイ島のことは全くしらなかった。いや、 それどころか、プーケットのことさえ聞いたことがないひとが殆ど だったのではないか。 かくいう私もバンコクへくるまでは、プーケットもサムイ島につい ても知らなかった。バンコクの安宿に、日本人の貧乏旅行者がよく 集まるところがある。楽宮旅社というのだが、私もここに泊まって いて、そこで初めて聞いたのだった。 チョウインビーチはこの島で最もバンガローが集まっているとこ ろである。最大のビーチなのだ。各バンガローは中心に食堂があっ て、それを取り巻くようにバンガローが建てられている。もっとも、 バンガローといっても、いわゆるリゾートにあるあれを想像しては ならない。壁は丸太で組まれ、屋根はニッパ椰子の葉でふいた、ほ とんどほったて小屋である。内部はベッドがあって、その他多少荷 物を置く場所があるくらいで、本当に狭い。 このようなバンガロー群が10ほど集まって、チョウインビーチ はできあがっている。 私が乗った軽トラックは、そんなチョウインビーチのバンガロー のひとつに着いた。どやどやと乗客たちが降りる。私も降りる。バ ンガローのマネージャーと簡単なやり取りをしたあと、それぞれ自 分に割り当てられたバンガローに向かう。私のは波うちぎわに建て られていた。ドアは海の方を向いている。私はこれがかなり気にい った。海を見ながら昼寝ができるからだ。 バンガローの食堂で夕食を食べた。やきそばとスープである。率 直にいってまずい。素人料理である。バンコクの安食堂はけっして まずくはないから、この食堂のコックの腕が悪いのだろう。次の日 に、他のバンガローの食堂に食べにいったが、どこも同じようなま ずさであった。バンコク、スラタニ、サムイ島という順序できっち りまずくなる。 そのあと、食堂の裸電球の下で持ってきた文庫本を読んだ。この 電球の電源は自家発電で、9時で打ちきりだそうである。 南の島のバンガローの食堂で、磯風に顔をなぶられながら読む文庫 本はなんともいいものである。もっとも中身は東海林さだおである が。 いつの間にか陽が落ちてあたりはすっかり暗くなった。他の外人 たちも、それぞれ数少ない電球の側に集まり、飲んだり食べたり話 したりしている。電気が切られる9時までに、私はその文庫本を読 み切ることができた。 9時少し前に、私は食堂を出て自分のバンガローへ帰った。バン ガローにも裸電球がひとつあって、何ともかぼそい光りを放ってい る。電気が切られるまえに身支度を整えて、といってもズボンを脱 いでパンツひとつになるだけだが、ベッドに横たわった。しばらく して電球の光りがふっと消えた。さっきまで続いていた発電機のう なりも消えて、あたりは急に静かになった。波の音が耳につくよう になった。 しばらくして、私のバンガローの横あたりで話し声がするように なった。誰か通っているのかな、と思ったが、それにしては長く話 し声が続く。どうしたんだろうと思って、起きてドアを開けて見て みた。闇のなかで4〜5人の人間が車座になって座っている。その 中心にろうそくが一本立てられていて、それぞれの顔をぼんやり照 らしだしている。 ははあ、と私はぴんときた。 挨拶して、仲間にくわえてもらうことにした。ひとりの男がすこし 場所を空けてくれたので、そこに座った。 すぐジョイントが回ってきた。ジョイントというのはいわゆるマ リファナたばこのことである。すばやく吸って隣へまわす。隣はま たその隣に回す。こうして1周してきたジョイントをまた吸う。こ れが数回繰り返されると、もうすっかり効いてしまった。すごい効 き目である。よほどいいマリファナなのだろう。その次に回ってき たときは、もう結構と、手で制した。もういっぱいである。これ以 上吸ったところで気分が悪くなるだけである。 私は自分のベッドに帰ることにして、立ち上がった。すると、それ が潮だったようにほかの男たちも立ち上がってそれぞれのバンガロ ーめざして帰りはじめた。 たちまちそこには誰もいなくなった。 私は自分のベッドに倒れこんでじっとしていた。けだるいような 妙な気持ちのよさだ。そのまま眠ろうかと思ったが、ふと、やるこ とがあるのに気がついた。 パンツからちんちんを引っ張りだす。それはみごとに縮んでいた が、数回こするとたちまち元気を取り戻した。 マリファナの効き目は吸った量にもよるが、だいたい30分から1 時間くらいは効いているのが普通だ。もちろん時間がたつにつれだ んだん効き目がゆるくなっていく。だからこういうことは十分効い ている最初のうちにやらねばならない。 その夜、私はオナニーを2回した。非常に気持ちがよかった。そ の後ぐっすり眠って朝まで目を覚まさなかった。 いつも不思議に思うのだが、白人はなぜ太陽光線に照らされて、 あんなにじっとしていられるのだろう。それこそ、朝から晩まで、 じっと肌を焼いている。それからほぼ全員といっていいくらいペー パーバックを読んでいる。サングラスをかけてね。白人がビーチで やっていることは例外がなくそれである。 私もまねしてやってみたことがある。1時間と持たない。30分 くらいで、もうどこかへ行きたくなる。じっとしているといらいら してくるのだ。本当に彼らはどこかおかしいのではないかと思った。 それから、文庫本を読むものやってみたが、日の光りの照り返しが 強烈でまともには読んではいられない。目がチカチカする。かとい ってサングラスをかけてまで読もうという気にはならない。 結局彼ら白人のやっていることは、我々日本人には不可解というし かない感じだ。 さて、元気で活動的な日本人の常として私も、その日はチョウイ ンビーチを歩き回って探検をした。次の日はバイクを借りて島内1 周にいどんだ。そして3日目になるとやることがなくなって、退屈 していた。 学生が現れたのはちょうどそんな時であった。 私が食堂で早めの夕食を取っているとき、バンガローの車が港から 帰ってきた。その車に乗っていたのが、秋田大学鉱山学部の学生で あった。車から降りてくると、さっそく私のところに来て、「日本 人ですか」と聞いてきた。私がそうだと答えると、ほっとしたよう な顔をした。 日本から直接バンコクに来て、その数日後にもうこのサムイ島に 来たらしい。何でも私が泊まっていたのと同じ安宿に泊まって、そ こでこの島のことを聞いたのだという。 そりゃいいことだ。と私は言った。バンコクにいたところでどうせ 売春宿がよいして金を使うだけである。それより、この南の太陽の 下でのんびりするのもいいもんだよ。 彼が来てくれて、実のところありがたかった。話し相手に飢えて いたのだ。ここにいる外人は、やはりアメリカ人が一番多かった。 次がドイツ人だろう。そしてフランス人が続く、という感じだ。い ずれもグループで来ているみたいで、お互い何やかや話して時間を 潰していた。 私としても彼らのなかに入って話しをするほどの語学力はないし、 昼間はなんとか時間を潰すことができるからいいとしても、夕食か ら消灯までの時間の長さにまいっていた。持ってきた文庫本はとっ くに読み終えていた。 そんなときにかっこうの話し相手が現れたのだから、私が歓迎し たのも無理ないであろう。 夕食を食べてしばらくしたら、学生が私のバンガローを訪ねてき た。手にウイスキーを持っている。 「どうです、これ」 と学生が言う。 「どうです、と言われてもね。私は下戸で飲めないんだよ」 「ははあ、人生の楽しみの何割かを失っているわけですか」 学生は感に耐えぬという顔をした。 「たばこはどうです」 「いや、それも私はやらないんだ」 「そうすると、もっぱらあっち一筋というわけですか」 「相手がいないよ」 「そうすると、いったい何が楽しみで生きておられるのですか」 私は苦笑した。 「そうだな。古典文学を読むとか、クラシック音楽を聞くとか、人 生の楽しみは色々あるじゃないか、あるじゃないか」 「そんなものが楽しみになりますかね」 「ま、ひとそれぞれだよ」 「じゃ、酒、ひとりでいただきますから」 しばらくして、学生はちょっと思いつめたような顔をして私に話 しかけてきた。 「あのう、このあたりでマリファナ吸えるんでしょうか」 「吸いたいの」 「はい、一度は経験しておきたいと思うんです」 「このあたりで売っていると思うんだけれど。食堂の女の子にでも 聞いてみようか」 ..
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