空中分解2 #0949の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
うららかな春。私は、俳句を詠もうと思って、庭に出た。若い頃は、小説家 として名をなしていたが、最近は、長い文章を書くのが面倒になって、もっぱ ら短い五七五の句をひねる俳句三味の毎日である。 春うらら津と伊勢渡世とつらら売るは 伊勢は津でもつ、津は伊勢でもつ。しかし、津の人も伊勢の人もこのうらら かな日につららを売っているとはきびしい渡世であることよーーー流石にもと 小説家だっただけに、句にドラマがある。しかも、前から読んでも、後から読 んでも同じ回文じたてになっている、というので、ファンから絶賛を浴びた句 である。私は小説でも絶賛を浴びているので、今さら嬉しくもなんともないが。 我が家の庭では、今はつつじが盛りである。白、ピンク、赤、紫、色とりど りのつつじが咲き誇っている。 流しつつ飲んで流転のつつじかな 一句うかんだ。素人には理解できないかもしれないが、俳句というものは訳 のわからない句の方が高い評価を受けることがある。このリズム感あふれる句 れも後世に残る名作かもしれない、と思いつつ、ふと門の外を眺めると、なん だ、なんだ、あやしげな男がわが家を覗いているではないか。 「もしもし、私の家をこっそり覗いているあなたはどなたですか」、と私は、 たずねた。男は、あわてて逃げようとしたが、思いなおしたらしく、また引返 してきた。薄汚れた服装にサンダルをはいた背の高い男である。肌は浅黒く、 眼鏡をしている。どこかで見た顔だな、と考えていると、男はだしぬけに歯を むきだしにして笑いだした。歯歯歯。 「なんだ、秋本さんじゃないですか」。そんな下品な笑い方をするのは秋本 氏しかいない。しかし、秋本氏ならとっくの昔にお亡くなりになっている。一 度復活したが、すぐにまた、 秋風やあ、おお、秋風や、秋風や という辞世の句を残して、お亡くなりになった。 「最近は、たしか大霊界の方におすまいの筈だと伺っていたのですが、また 復活されたのでしょうか」。すると、秋本氏は人さし指を私に向けて、言った。 「やくそく ヤクソクヤ」 「はて、何か約束をしたことがありましたかね」。そういえば、心当たりが ない訳でもないが、とぼけたふりをして、聞いてみた。 「天才秋本の名前を不滅にする文学賞の創設ですよ」。 「ああ、それでしたら秋本俳句賞というのをつくってちゃんとやりました。 嘘だと思ったら、ボードを見て下さい」。 「さっき空中分解を覗いてみたが載ってなかった」。 「空中分解ではなくてフレッシュボイスの方ですよ・・・ああ、そうか、 PCVANのメッセージは、2000番毎に消えるから、秋本俳句賞の盛大な 興行関連メッセージはもう消えているかもしれませんね」。 「いい加減なことを言わないで下さい。最初からやる気がなかったんだろう。 私が消えたのは一昨年の秋、その直後に第一回の興行をやれば、昨年の秋には 第二回の興行をやる筈だ。昨年の秋のメッセージならフレッシュボイスでもち ゃんと残っていますよ。ところが秋本俳句賞などという言葉は何もない。歯歯 歯という笑い声をたてる奴さえいない。なんということだ。AWCの連中はみ んな天才秋本を忘れてしまったのか」。 憤然として、秋本氏は、私に弁解する隙を与えず、去っていった。ーーー誤 解ですよ、秋本さん、私はたしかに秋本俳句賞の興行をやりました。昨年の秋、 第二回目をやらなかったのは事実です。しかし、それには理由があるんです。 選者の山魚氏が秋本さんの後と追うようにしてお亡くなりになったのだから。 AWCの奇跡とまで言われた天才作家秋本氏の功績を讃える俳句賞の選者に 選ばれたのはセセラギ派の俳人海野山魚氏だった。山魚氏は、期待に応えて、 第一回秋本俳句賞の選者の重責をよく果たした。授賞の栄誉に輝いたのは、女 流俳人舞花さん、次席は甘栗氏である。倫理規程スレスレのきわどい俳句を詠 んだ乱菜氏とただ一人まともな俳句を詠んだ本格的俳人野水淳氏は選外だった。 それから一年たって、また秋風が吹く季節がめぐってきたが、第2回「秋本 俳句賞」の公募はついになされなかった。選者の山魚氏が秋本氏の後を追うよ うにしてお亡くなりになったので、やろうとしても出来なかったのである。 山魚氏の死因は、自殺、他殺、事故死、老衰説から秋本氏への殉死説までと びだしたが、今だに謎につつまれており、真相は明かにされていない。自殺説 の根拠は、「秋本俳句賞」の授賞者である舞花さんが結婚したことである。そ う言えば、山魚氏は、舞花さんが結婚してから一度もAWCに姿を見せていな い。人妻となった舞花さんのMSGを読むのがつらいからだろうか。 他殺説だとすると、犯人は猫である。山魚氏は猫を大の苦手としていた。老 衰だろうと言う人は、 コスモスが搖れてカオスをさし招き 霧たちこめし言語中枢 という辞世の歌を根拠としている。この歌から判断すれば、老衰死もありうる が、私の推理によれば、秋本氏への殉死説の確率が一番高いと思う。 それはまあどうでもいい。私は、AWCで小説を書くのはやめ、PC俳句会 で忙しい毎日を送っている。俳句会では野水淳氏も活躍しておられるが、驚い たことに、この前、あの謹厳実直な野水淳氏が歯歯歯と笑っておられた。 俳句三味で平穏無事な日々を送っている私ではあるが、近頃、ただ一つだけ 気になるのは、約束を破ったと秋本氏に思われていることだ。私には約束を破 ったという良心の呵責はないのであるが、誤解されたままでいるのはつらい。 だからこそ、老骨に鞭うって、お題の小説に応募し、私の無実を訴える気にな った。山椒魚は信義を重んじる動物だ。約束を破るようなことは決してしない。 心ある読者はこれを読んで、秋本氏に証言してほしい。そして、たまには歯 歯歯と笑ってくれ。 痩せ餓鬼あはれ味噌くそ見れば秋風や (了)
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE