空中分解2 #0934の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ただいまぁ」 良雄君は新入社員、まだ若いというのにえらく元気がない。ある事件があって からというもの、すっかり輪をかけて元気なくなり、アフターファイブは無気力 に時間もてあます毎日が続く。 ただどういう訳か女子には評判悪くなく、貧相な風貌が母性本能くすぐるのか、 なにかいつも彼のまわりにはワンレンやらソバージュやらポニーテールやらシニ ヨンやらがちらちらしている。もっとも当人女の子にもてているという自覚みじ んもなく、まあそれはボケッと座っていれば向こうから勝手に寄ってきて話しか けてくるのだから無理もない、どちらかというと女の子にふりまわされるタイプ ではある。当然ながら、女の子たちにつまらぬ冗談言って笑わせる事で日頃のウ ップンはらす事もできないものだから、ただ家に帰ってはノーッとしている、時 には悶々として時をにごす事もある。 部屋に入った良雄君、さっそく引き出しの奥をゴソゴソやりだして、取り出し たのは一枚の写真、写っているのは良雄君にとって一応もっとも仲がよいところ のいわゆるガールフレンド、同期の女の子ちなみに名前は美絵さんといい、四肢 もあらわなレオタードを身にまとう。良雄君、あるかないかの勇気しぼって恥ず かしがる彼女拝みたおし撮ったもの。苦労して手にいれた写真だけに思いいれも ひとしお、見つめる良雄君、鼻息おのずと荒くなり、おのがズボンのチャックに 手がのびる。男というのはこういう時には元気になりよる。 「何してんの?」 「おわぁ!」 そんなところへ背後から女の子の声が聞こえ、一ヶ所に集中していた血潮スッ と引く。振り返れば女の子、しかも足がなく、吊られたごとく宙に浮いている。 普通なら気絶するところだが、あまりにみっともない場面を目撃された恥ずかし さ先にたち、気絶もできずしばし睨みあいが続く。幽霊以外の何ものでもないが、 見覚えのある顔、しかし美絵さんではない。思い出そうとするが頭は錯乱、汗だ らだらで舌もまわらず、さりとて無視したりしたら、今しがた見せた醜態あの世 でふれ回られるか、それともたたられるかとりつかれるか、ろくな結果になるま い、どうしたものかと迷っていると、先方から声がかかる。 「良雄君、全然変わってないね」 「その声は……思い出した! 律子ちゃん!」 学生時代この男には珍しくけっこう密につき合っていたのが律子さん、もっと も事故でお亡くなりになったはず、以来良雄君、空気抜けたごとく元気なくなり 失意のうちにずるずる就職したのだが、懐かしい顔見て頬ゆるみ元気取り戻す。 「僕の所へ戻ってきてくれたんだね、うれしいよ! でもどうして今ごろ化けて 出たの?」 何か将来責任取らねばならぬような事を彼女にした覚えもなし、ただ当時かな りのぼせてはいたから、将来は所帯持とうなんて口を滑べらせた事あったかも知 れぬ。 「すぐ帰らなくちゃならないの。でも会えてよかったわ」 ちょっと時間ずれてたらよかったどころではなく、男子一生の不覚というやつ、 幽霊とはいえ女の子にえらい場面見られるところだった。が、何も見なかった風 で笑顔浮かべる彼女を見るうち、良雄君も落ち着き取り戻し、学生時代のぬるき 思い出ゆるゆると浮かぶ。あの頃、今に比べてさらに若かった、歯の浮くごとき 台詞、ためらいもなくぺらぺらとしゃべりあったもの、しばし昔の話に華が咲く。 「そう言えば、いつか一緒になろうって約束、したわよね。もう駄目だけど」 「うん……覚えてる……でも駄目なんて言わないでくれよ。折角再会できたんだ、 真似事だけでいいから、その……」 一瞬ためらったが、ここが正念場、この機会逃したら次に会えるのはいつの事 やら分からぬ、多少恥ずかしいが一息に言い切った。 「結婚式をやろう。二人だけの、ここだけの結婚式」 葬式よりはよほどまし、若き日の約束果たすとかよりも、とにかく彼女との思 い出残したい一念で、心はあの学生時代に戻っていた。 「ありがとう」 彼女も心と体でうなずき、良雄君と向い合う。誰も知らない結婚式が始まった。 「私、中崎良雄は、弓場律子を妻とし、生涯に渡って、いや、えーと死後も愛す 事を誓います……たとえ結婚する事があっても」 「私、弓場律子は、中崎良雄の妻となり、死後も変わらぬ愛をささげる事を誓い ます……うふ、変な感じ」 頬を染めて微笑む律子さん、わずかに涙ぐんで、幽霊とは思えぬ。思わず抱き 締めようと腕伸ばした良雄君だが、やはり幽霊、彼女の体にはさわれない。 「そろそろ行きます。うれしかったわ」 「ありがとう、さよなら」 最後は二人ともこれだけ言うのが精いっぱい、彼女ゆっくりと姿を消していっ た。後で振り返れば夢かうつつか幻か、思い出ばかりが頭に残るが、ともかく今 までくすぶっていた彼女との思い出に決着ついた、それだけで十分じゃないか、 そう思ってみれば何となしに気分が晴れた。 「良雄さん、おはよ!」 「あ、おはよう、美絵ちゃん」 途中で出会った美絵さんと肩並べて出勤する道すがら、良雄君ふと美絵さんの 顔を見つめたものだった。視線に気づいた美絵さん、恥ずかしげにうつむく。 「ちょっと今日は、お化粧濃すぎたかしら」 いやそんな事ないよと答えた良雄君、ふと懐かしげな目を空に向け、 「たとえ結婚する事があっても、か」 そう口の中でつぶやき、ため息一つついて首を振ったものだった。その日から 生まれ変わったように明るくなった良雄君、仕事も積極的にこなすようになり、 見る見るうちにたのもしく、男を上げていった。 <おわり>
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