空中分解2 #0872の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
やわらかな、まるで上等の絹の布が通り過ぎていったような風。 −−−− 皆んなが帰ってくるまで寝てようかな そう美里が思ったとき、廊下でペタペタと裸足で歩く音がした。 大の時になっていることがふいに恥ずかしくなって、美里は体を起こす。 「……誰?」 ゆっくりと部屋を見渡してみるが、風鈴がまた、ちりーん、と鳴る以外は何も …………いや、部屋の端、障子の陰からこちらを覗く一つの影と瞳。 それは、こちらをうかがう子供のものだった。 知っている人でなくてほっと安心すると、美里は目と手招きで『こちらへいら っしゃい』と合図した。 しかし、子供はじっとこちらを見ているだけで、決して近寄ろうとしなかった。 子供にありがちな、妙な警戒心をその子供も持ち合わせていたようだ。 「怖がら無くてもいいのよ。ここの子?」 子供は美里の質問にも答えず、さっと廊下を走って逃げた。 あっ……と思う間もなく、ぱたぱたぱたと足音だけ残し、子供はどこかへと消 えてしまった。 後に残ったのは、風と、蝉の声と、風鈴の音だけ………。 美里は首をかしげた。 「何だろう、あの子」 田舎の子にしては少し長めの柔らかな髪。鋭さの無い、澄み切った瞳。 何となく、綾に似た子だったな……と思いながら、美里は畳の上にごろんと寝 転がった。 いつもの癖で、あの少年はいったい何者だったのか……? といろいろと思考 の足をのばしていたが、やがて風のように忍び寄ってきた睡魔が体を通り抜ける と、いつのまにか深い眠りの湖底へと沈んでいってしまった。 外では相変わらず蝉が、騒がしいほどに鳴いていた。 ☆ 「降霊っていうと、やっぱり御両親を?」 「ええ」 綾は複雑そうな笑顔をした。どうも、死んだはずの両親と会う、と言うことが ピンとこないようだった。 綾の両親が死んだのは一年前。死因は交通事故。 それ以来の保護者が、綾の行っている学校の理事長でもある、あの叔父。 榊達から言わせれば「理事長にはとても見えない」彼は綾に対してとても優し く、長く両親の死を引きずることなく一年を過ごすことができたのも、まったく 彼のおかげだった。 一年 −−−−−− 長いような、短いような。 この一年が過ぎたのはあっという間だったが、この家から離れ、両親と離れて からはずいぶん長かったかのように、綾には思えた。 親、と言う言葉を口ずさむ度に、ある種の郷愁を感じるほどである。 それでも、榊とこうして話しているうちに実感がわいてきたのか、何か明日が ひどく待ち遠しく感じる。 綾以上におっとりとしていて、優しかったお母さん。 痩せていて、いつも必死におっちょこちょいな二人を助けてくれたお父さん。 その様子が脳裏にくっきりとその姿が思い出され、一年前にたち帰ったような 気がする。 会いたい。 一年ぶりに、その思いが綾の心をさ迷いはじめた。 「降霊師の方の名前ってわかりますか?」 未杉の言葉が、体を離れかけていた綾の心を引き戻した。 「えっ………あっ、はい。確か、阿綜先生とかおっしゃる方です」 その言葉を聞いて、榊と未杉が同時にうなずいた。 「やっぱり、阿綜のじいさんか」 「そうですね」 「お知り合いなんですか?」 角を曲がると、やっと家が見えた。 広い芝生の庭、あとは一直線のコースだ。 「その筋では有名な人ですから。学園の方にも、一度お招きしたことがあるんで す」 「そうなんですか」 綾は納得したようで、にっこりと微笑んだ。 降霊の話は、それで終わった。 榊達は靴できていたので玄関の方に回り、綾だけが縁側から部屋の中に入って いった。 「あら」 障子を開けたすぐそばに、けっきょく部屋の端の方で寝てしまって美里を見つ けた。 ゆっくりとした寝息をたてる彼女の様子は、いつもの迫力のかけらも見受けら れず、いつもより幾分幼く見える。 何かかけるものを、と思いたって綾はいったん部屋を出た。それと入れ替わっ て、騒がしい榊達が部屋に乱入してくる。 それでも、榊がすぐに美里が寝てしまっていることに気がつき、皆んなを静か にすると、 「静かに遊ぼう」 といってにこやかに笑った。 榊にしては穏やかな提言だったが、皆に異存はなかった。 日本の夏はいい。木の家に入ると、夏の暑さが肌に心地よいのだ。 蝉の声も遠くに聞こえると、聞いている者の涼しさを増してくれる。 風鈴の音、そよ風はなおさらである。 くつろいでいるのは美里だけではない。柱を背にして本を読む弥生も、縁側で 将棋をさしている斉藤と未杉も、その横で盤を眺めたり庭を眺めたりする御影も、 部屋の中央で綾と話している由岐も、そして理事長と話している榊も、久しぶり の自然との接触に心を開き、真からくつろいでいた。 日はだんだんと沈み、ばあやと小林さんが夕食を机に置き始めると美里も目を さまし、全員で夕食の手伝いを始めた。 いつしか庭では蝉の鳴き声がやみ、変わって夜の虫が静かな鳴き声をあげ始め ていた。 夕食はなかなか豪華であった。 山菜と言った山の幸から、明石の鯛といった海の幸まで、広い机がいっぱいに なるほど置かれていた。食べ盛りが集まったのを気遣ってだろうか…………だが、 まだまだ読みは甘かった。豪華で美味しいものが多くならぶ卓上では、すでに激 しい食べ物争奪戦が繰り広げられ始めていた。 貧困な食生活を送っていたわけではないのだが、数人の箸を運ぶ手が早くなっ ていくと、負けず嫌いの他の連中の手の動きも速まり、いつしか争奪戦となって しまっていたのだ。 的確に箸を運ぶ未杉や、悠々自適ながらしっかりとした勢力範囲を作り出す榊 など、箸の運び方はその人の個性をかなり強く反映していた。 もちろん争奪戦に参加はしていたが、ふと視界の隅に障子の姿を認めた美里は 昼間にあった子供の事を思い出し、ゆっくりと自分のペースで箸をはこぶ綾に聞 いた。 「そう言えば、昼頃に子供を見たんだけど、ここの子?」 綾は箸を運ぶ手を止め、やや首をかしげた。 「どこででしょうか」 「えっと、そこのあたりで」 美里が指をさすと、一度綾もその方向を見る。 「たぶん、ふもとの子だと思います。……この家には、ここにいるだけで全員の はずですから」 綾と理事長を含め、知った人をのぞけば「ばあや」と呼ばれる老婆と「小林さ ん」とよばれる40才ぐらいの男性だけ。 「ふもとの子供ってよく来るの?」 「ええ、ここには町の人の先祖の墓もありますので、結構いろいろな方がいらっ しゃるんです。この食卓に並んでいるものも半分は、わけてもらった物なんです よ」 美里はそれだけ聞くとうなずき、しばらくはその少年の事を忘れてしまった。 そんな事よりも、目の前の食事を早く片づけなくては榊達にさきに食われてし まい、くいっぱぐれてしまいそうだったからだ。 なんと言ってもまだ18。食べ盛りは、美里といえど同じなのだ。 「お風呂、はいりましたよ」 腹具合も少しおさまった頃、ばあやがそう告げてくれると、 「男性陣、先に入ってらっしゃいよ。私たちは浴衣を選んでから入りたいから」 との美里の言葉に甘えて、男どもはさっさと風呂場へと出かけて行ってしまっ た。 女どもは浴衣の方が気になる様子だったが、男どもはそれよりも風呂の方に興 味があり、そしてその風呂は、男どもの期待を裏切らない豪華さであった。 風呂は露天風呂となっていた。 こんな山奥だから外から覗かれる心配も無いせいか、背の高い草花が周りを囲 むだけで、視界はかなり広い。 見上げれば、宝箱をぶちまけたように星が散りばめてあった。 十人は余裕を持って入れそうな桧の浴槽からは湯気がたちのぼり、湿気を帯び た空気は木々の新鮮な匂いがする。床は何かの石を磨いたものらしく、それほど 滑りはしないものの、まるで硝子のようによく反射していた。 「これは豪華だ」 湯にたっぷりと肩までつかり、斉藤は上機嫌の様子だった。 桧の匂いも香ばしく、油断するとそのまま寝てしまいそうなほど、気分がやわ らいでいくのを感じる。 「完全に理事長の趣味だね」 一言だけそう皮肉った榊も久しぶりの安穏を楽しんでいるらしく、夜空を見つ めながら星の数を数えはじめた。今日は空に曇一つ無く、下弦の月が柔らかな光
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