空中分解2 #0780の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「仕方なく、浜岡を犯人に仕立てるためのアリバイ崩しの時間を取るのだが、 これが意外にも五年もかかった。いや、まだ解けていないのかもしれん。君ら みたいな若いのが考えて、五年もかかる問題じゃないと思う。これは中年の引 け目だろうか? そこで考えてみたのだが、麗子の方は、もう浜岡を犯人にす ることに疲れたんじゃないのか。おりる、って奴かな。それがあってごたごた したんで、手間取ってしまった。 また、このことが、君が麗子を殺す動機にもなった。口封じのためだ。君は 鬼面麗子の名で、浜岡を呼び出したんだろう。<あまり大っぴらに会いたくな いから>とか何とか言って、服装の注文までしてね。浜岡さん、違いますか?」 急に聞かれた浜岡は、慌ててしまったが、すぐに答えた。 「そ、そうです。確かに呼び出されました」 「どうして話してくれなかったんですか?」 「それは、言ったら、真っ先に疑われると思ったもので……」 「困りますな。まあ、いいでしょう。あなたには、不動産詐欺の容疑で、こち らも動いていますから、覚悟しておくように」 そう言われ、浜岡は身を固くした。完璧に立ち回ったはずだが、改めて言わ れると、緊張する。この後の下田警部の話は、ほとんど耳に入らない。 「さて、良美さん。話の続きだ……」 「さて、良美さん。話の続きだ」 下田はここからが本番とばかり、気合いを入れた。 「頭のいい君は、姉を殺した罪を、再び、浜岡に着せようとした。 あなたは麗子のマンションの前で、浜岡がちゃんとやって来るか、服装はこ ちらの言う通りにしたか、そんなことを確かめるため、どこかで見ていたはず だ。 確認した君は、追い返されて出てきた浜岡と入れ違いに、浜岡がしていた格 好と同じ扮装をし、麗子の部屋に向かう。 麗子の方は、先ほどの不快な訪問者と同じ格好を妹がしているので、気味悪 く思うが、そこは姉妹だ、招き入れるだろう。そして隙を見て、君は姉を背後 から刺し殺した。それから服を脱がせ、風呂場に運び、顔の皮を剥いだんだ。 理由は、この前、君が言ったように、浜岡が犯人と見せかけるための、細工な んだ。 セーターも、そんな細工の一つだな。浜岡がよく使っているクリーニング店 を知ったあなたは、セーターの受け取り手として、ビーエフの社員になりすま し、それを盗んだ。セーターから検出された血液型は、浜岡のものではなく、 良美さん、あんたのものだったんだ。 まあ、汗による血液型のことまで、君が考えていたかどうかは、分からない。 ただ、麗子の部屋に持ち込むには、自分が着込むのが怪しまれずに、また、か さばらずに済む最良の方法だったからね。その際に、君の汗が染み込んだだけ のことと思う。セーターにあったほころびと、麗子の手にあったセーターの繊 維は、もちろん、君の細工だ。 現場を立ち去るときに、君は男装をといていたはずだ。管理人の証言から、 死亡推定時刻内に現場に出入りしたのは、水商売風の女だけだからな。浜岡を 犯人にしたいのに、男装をやめたとは、どういうことか。 考えるに、君は犯行時に、思っても見なかったほど、返り血を浴びてしまっ たんじゃないか。いくら夜とは言え、このまま歩き回るのはまずいほどに。 困った君の出した結論は、姉の服を来て帰るということだ。これで話が合う。 水商売風の女に見えたのも当然。麗子の本業だからな。服がそんな感じのばか りだったんだろう。着て来た服は、剥いだ皮と共にどこかで処分した。 他に君のしたことは、電話だ。姉を訪ねて遺体を見つけ、浜岡が犯人だとし て、復讐に奔走する妹を演じるための伏線としてね。神戸を歩き回ったのも、 そのためだろう。ビーエフのビルに怒鳴り込んで行ったのも、演技だ。あれ、 私がいるのを見越してやったんだろう? 刑事がいれば、止めてもらえるから」 「動機は? 私が犯人だって言うなら」 下田の言うことを聞いていた鬼面は、押さえた感じで言った。 「そうだな。うまい言い方が見つからないが……。家族のことを顧みない、飲 んだくれの父親、折角手に入った遺産をだまし取られてしまった母親、こんな ところじゃないかね。あっと、言い忘れていた。はっきり言うと、鬼面安治・ 竜子の二人は、君達姉妹の親じゃなかったんだろう?」 「……」 「血液型が違う。AB型とO型の二人から、AB型の子供は生まれない。少なくと も、鬼面麗子の方は、実子じゃない。それで、姉を殺したのは、さっき言った 通り、仲たがいして殺した」 「……証拠は、あるの?」 「まだ確認してませんがね。例のクリーニング店には防犯カメラが設置されて るんだ。そのフィルムの中に、偽社員が写っているのがあるはずだから、それ を調べるつもりでして。あと、店員を呼んで、首実験もするつもりですからね」 「……私が殺しました」 鬼面は思い切った様子だった。 「でも、刑事さんのお話は、かなり間違っています」 「どこがだね」 ちょっとむっとして、下田は聞き返した。 「どうやって、私が麗子を刺せたと思います? 麗子の部屋の台所にあった包 丁で」 「それは……」 確かに不自然だ、そう下田は思った。いくら隙を見たとしても、台所から包 丁を持ち出せるもんじゃない。 「……私、鬼面良美じゃない。鬼面麗子なんです」 「何だって!」 下田は思わず、叫んでしまっていた。浜岡も呆然とした体である。 「何?! そんな馬鹿な! マンションの遺体は、鬼面麗子だと鑑識で判断され たんだぞ」 花畑も興奮した様子だ。 「それは、髪の毛で判断したんでしょう? 良美を殺す直前に、私、良美と接 触してね、髪の毛を手に入れたんですよ。それを、私の勤めていた店に何本か 落としたんです。できるだけ、自分の指紋や髪は遺さないように気を付けてま した」 そうか、ここでもだまされてしまった。 「皮を剥いだのも、他の理由があります。 私は医学生に友達がいて、その人に一度、写真を見せられたことがあるんで す。皮を剥がされた人間の写真を。解剖の時間に、隠し撮りしたと言って、自 慢していました。最初は気味悪かったんですが、生物学に興味があったですか ら、聞いたんです。どうやったら剥がせるのかって。そのことが、一つのヒン トになったんです。 それで理由ですけど、良美をうらやんでいたんです、きっと。良美は大学を 中途退学した後も、地道だけど、自分の目標を目指して頑張っていたわ。でも、 私は浜岡さん……」 ここで鬼面麗子は、浜岡の方をすっと指さし、また元に戻った。 「あなたを犯人にするため、お金が必要でした。復讐って、お金がかかるもの なんですね。その内、ホステスに慣れてしまって。本当は、私も復讐に疲れて いたのかもしれません。言い方が悪いかもしれませんが、どちらかと言えば簡 単にお金が入るホステスに慣れて……。 話がそれました。良美の皮を剥いだのは、私と彼女が入れ替われたら、と考 えていたからなんです。この前、話したでしょう? 麗子の、私の顔には痣が あるって。だから、私と良美が入れ替わるには、良美の顔に痣がないといけな い。それで、皮を剥いだんです。 今になって思うと、どうしてあんな酷いことができたのか、自分でも分かり ません。 私、入れ替われるつもりでいたんです、ついさっきまで。もちろん、冷静に 考えてみたら、入れ替わるなんて不可能なんです。私の知らないたくさんの人 と、良美は知り合っている……」 次第に麗子は涙声となっていった。 「……私には、祥ぐらいしか親しい人がいなかった。その祥だって、本名は知 らない仲だし」 中川祥子のことか、と下田は思い出していた。 「……もう、連れて入ってくださいませんか。”かたき”の家に、いつまでも こうしている訳にはいかないわ」 鬼面麗子が言ったので、下田と花畑は立ち上がった。 「では、浜岡さん、失礼します。ご協力、ありがとうございます。だが、もう すぐ、別の課の者がやって来ると思いますので、大人しくしといてくださいよ」 下田は、一種の馬鹿丁寧さを持って、浜岡に礼を述べた。 とりあえず、皮剥ぎ殺人及び五年前の殺人事件は、決着を見た。 花畑刑事は、神戸の西村警部へ、報告に行っていた。 「犯人は、鬼面麗子でしたか。ははあ、やっぱりね」 花畑を歓迎した西村は、彼の報告を当り前のように受け止めていた。 「やっぱりと申されますと?」 「いえですね、今だから言えるのですが、私は双子の姉妹が犯人だと考えてい たのです。でも、それは刑事の勘というやつだけでして、何ら根拠がないとい う訳じゃないのですが、積極的な証拠は何もなかった。 当時、方針は浜岡一本でしてね。お会いになったことと思いますが、”あの” 美富警部補の指揮下です。あ、今は警部か警視でしたか。とにかく、推理小説 染みたアリバイなんか、はなっから無視して、浜岡の仕事仲間の共犯を探せと いうのが主でした。まあ、その方が、私には好都合でしたが」 「何が好都合なんですか?」 こう聞いた花畑に対し、軽く笑った表情を見せたかと思うと、西村はゆっく りと口を開いた。 「タバコ、いいですか」 「あ、ええ。構いませんが」 「どうです、マイルドセブンも用意しておきました」 差し出されたので、中の一本を取り、火をもらう花畑。どうも調子狂うな。 そう感じていた。 「本当に好都合でした」 煙を吐き出したかと思うと、急に話に戻った西村。 「私には浜岡のアリバイが、偶然にも破れてしまうことに気付きました。それ はまあ、すぐにとはいきませんでしたが、じっくり考えてみると、簡単な問題 でした。ですが、彼が犯人じゃないということを、私の勘や経験は私に教えて くれていたのです。捜査方針が何かの弾みで変われば、浜岡のアリバイは崩さ れてしまい、彼は犯人とされてしまうでしょう。いくら不動産詐欺をするよう な人間でも、濡れ衣はまずい」 「ですが、西村さん。それならどうして、あなたは鬼面姉妹を追い詰めなかっ たのですか? 何か手はあったと思うのですが」 「……黙っててもらえますか」 「は?」 「これから私の話すことを、誰にも言わないでもらえますか、という意味です よ」 「……いいです」 「花畑さん、あなたは今、鬼面姉妹と言いましたが、彼女達の本当の姓は何と 言うか、知っていますか?」 「え? 知りません」 「イニシャルはNなんですよ」 「? それってまさか……」 花畑は大きく口を開けてしまった。まぬけな顔になっていただろう。 「武士の情けをお願いします」 西村は、力なく笑った。 「……分かりました。でも、どうしてそんなことに。いえ、聞きません」 「……私は、この土地には合わない人間なんですよねえ。でも皮肉なことに、 ここに長くいる羽目になっています。それが一種の罰なのかもしれません」 西村は、短くなったタバコを灰皿に強く押し付け、火を消した。 「ああ、君か。マスコミで騒がれていた皮剥ぎ事件、解決したそうじゃないか。 しかもその過程で、五年前に私が担当していた大阪と仙台の事件まで解決した とは、お手柄だな」 美富警視に呼ばれた下田は、ある程度嫌な予感を抱きながらも、部屋に出向 いた。 「ありがとうございます」 「これからも活躍、期待しているよ。しかしだね、私なら、こんなマスコミの 話題の的にされるような失態はしないね。もっと手早く解決してしかるべきだ よ。慎重すぎるのもいいが、解決を遅らせてマスコミに叩かれてちゃ、何にも ならん」 「はい、どうもすみませんでした。今後はそのようなことのないよう、気を付 けます」 「分かれば結構。まあ、せいぜい、頑張ってくれたまえ。もういい」 それを聞くと、下田は一礼をし、退室した。が、扉を閉めた後、しばらくそ こに立ちすくんでいた。 五年前の事件を誤った方向に導いてなかったら、今度の事件は起きなかった はずだ。それをあんたは分かっているのか? 俺も頭は固い方だと思っている が、あんたも相当だ。出世のやり方まで、マニュアル通りにやってるんだろう な、どうせ。あんたみたいのが上にいたら、型通りの捜査しかできなくなる。 犯罪者の側は、科学捜査を上回る企みをしているっていうのにな。 胸の内でそれだけ毒突くと、下田は歩き始めた。歩いている間も、彼は頭の 中でしゃべっていた。 まあいいさ。解決できれば、まあいい。解決できないよりは、ずっといい。 自分を取り巻く状況は何も変わらないが、せめて気持ちだけでも、新たに引き 締めて取り掛かろうか。犯罪者の持つ二面性にだまされないためにも。 −終わり−
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE