空中分解2 #0778の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「そりゃだめだ。何故、顔を全部、剥がなきゃいけないんだ? 名前を示す傷 の箇所だけでいいじゃないか。第一、被害者は刺されているんだ。傷を付ける なんてことをしなくても、血糊で書けばいい」 「そんな議論をしなくても、被害者は刺されたショックで腕を動かすのは無理 だったと思うね。仮に死力を振り絞ったにしても、顔を傷つけるなんてことは 不可能だ。血糊で書く方がまだしもってとこだなあ」 鑑識員も下田に賛成してみせた。そして彼は続けた。 「おおっと、こんなことをだべりに来たんじゃなかった。一つ、重要そうなこ とが分かったから来たんだ」 「重要なこと?」 「重要と言っても、かえって混乱を招くだけかもしれんがね。実は、麗子は手 に一本の細い繊維を握っていたんだ。いや、握ると言うより、引っかかると言 った程度だが」 「初耳だ。ひょっとしたら、犯人の物かもしれないじゃないか」 怒ったように言う下田。 「それがそうでもないから、報告が遅れたんであってね。その繊維は麗子の服 からの物らしいんだ」 「は?」 刑事達二人は、同時に声をあげた。意味が分からないのだろう。 「とりあえず、現場の洋服ダンスにあった服の一つ一つに当たってみたんだ。 すると、肩口の辺りが破けた、女が着るにしては大きめのセーターがみつかっ たんだ。それと繊維がドンピシャリ」 「破けた切れ端は?」 「見つかっていない」 「よし、なんとなく分かってきたぞ。そのセーター、保管しているよな?」 突然元気になった下田の口調に気圧されて、鑑識員は慌てた。 「そ、そうだな。ああ、確かに保管しているはずだ」 「セーターに染み込んだ汗を調べること、できるか?」 「そうか、なるほど。うんうん。そりゃ、汗の量にもよるだろうが、可能だろ う。ABOの血液型くらいなら分かる」 「じゃあ、すぐに調べてくれ。何日かかる?」 「急いでやって、十日といったところか。おまえさん達の事件だけをサポート する訳にはいかんのでね」 「ああ、分かっているさ。ともかく、なるだけ早くに頼む」 それから下田は花畑を促し、聞き込みに行こうと行動を起こした。 「何を調べるんですか?」 先ほどの二人のやり取りを、結局、訳の分からないままに眺めているしかな かったらしい花畑が聞いてきた。 「何だ、分かっていなかったのか? セーターは間違いなく、浜岡のもんだ」 「浜岡の?」 「そうだ。現物を見ていないが」 途中で言葉を区切ると、下田は、急いで撮ったセーターの写真をぴしゃりと 弾いた。 「この問題のセーターは、浜岡にぴったりのはずだよ。ま、それは血液型が出 てからでいい。こっちは、浜岡の血液を聞いとかんとな。それに、浜岡がこの セーターを持っていなかったかも、聞いておくんだ」 「はあ、納得しました。奴の血液型とセーターの汗から分かった血液型が一致 すれば、浜岡に対する有力な証拠になると」 「そうだ」 「しかし、では、どうして浜岡のセーターが、鬼面麗子の所にあったんでしょ うか」 花畑は、考えをめぐらせるように、上目遣いになって聞いてくる。 「そうだな。状況としてはこうだろう。鬼面麗子に呼び出された浜岡は、警戒 しつつ、彼女のマンションに行った。行ってみると案の定、相手は五年前の事 件を持ち出し、自分を犯人だと言う。アリバイも崩された。これは危ないと思 った浜岡は、麗子の隙を見て包丁を持ち出し……。いや、違うな。包丁を持ち 出すなんて、不可能だ。そうか、麗子が浜岡を殺そうと、包丁を持って襲いか かってきたんだな。それでもみ合いの末か、それとも浜岡が包丁を奪った上で かは分からないが、麗子は死んだ。が、ただでは死ななかった。浜岡が着てい たセーターの肩口を破り取り、握りしめる形で死んだんだ。それに気付いた浜 岡は、麗子の手を開かせると、布切れを奪い取った。それでも繊維がわずかに 残った訳だ。それから浜岡は考えたはずだ。返り血を浴びていない服や破れて いない服は持って帰るにしても、セーターだけはまずい。始末に困り、麗子の 洋服ダンスに隠したんだろう」 「ああ、言われてみると……。これで筋が通ってきましたね、警部。あとは皮 膚を剥いだ理由と、女の存在ですか。この女は、麗子でも中川祥子でも良美で もないんですよねえ」 「いや、女の存在も説明がつく。浜岡は服を破られて困っただろう。そのまま 帰る訳にはいかない。そこで奴は、被害者の服を利用することを思い付いたん だ。持って帰る袋は何かにくるめ、自分は女装したんだ。何も完璧に化ける必 要はない。夜目に女と見えればいいんだ。これなら犯人が女とも見せかけられ るし、一石二鳥だ」 そうして調べに行った結果、浜岡は何も怪しんでいない様子で、あっさりと 血液型をこちらに話した。AB型であった。 「嘘じゃないでしょうね?」 花畑が軽々しく聞くので、下田は相手に警戒される、と気を揉んだようが、 浜岡は気にしていないみたいだ。 「お疑いなら、この免許証でもどうぞ。ABって書いてあるでしょう」 それには確かにABとあった。これで間違いない。 下田達はそれから、浜岡に捜査の進み具合いをそれとなく、しかも曖昧に話 してからさっさと引き上げた。 「さ、まだ寄るとこがあるぞ」 下田が言った。 「え、どこですか?」 「そうだな、受付でいいな。例のセーターの写真を見せて、浜岡が着ていたこ とがあったかどうか、聞くんだ」 「ああ、なるほど」 感心している花畑を後目に、下田は受付の所に駆け寄った。相手は自分を警 察だと知っているのだから、何も小細工はいらない。単刀直入に聞く。 「ああ、これですか。このセーターでしたら、着ていらしたような気がします ……」 「どれくらい前のことだね?」 「さあ……。分かりません。第一、この写真のが、本当に社長の物かどうか、 自信がありませんので……」 確実な答えしか言いたくないらしく、受付嬢は次第に声が小さくなって言っ た。 下田は、あまりしつこく聞いて浜岡に気取られてもまずいなと思い、ここら で打ち切ることにした。この証言でも充分であろう。 「血液型、分かったぞ」 鑑識員が、珍しくも興奮をあらわにしてやって来た。向こうから来ること自 体、珍しい。 「そうか。で、何型だ?」 下田は期待を込めて聞いた。 「ABだ。そっちはどうだったんだ?」 「それはぴったりだ! これで一つ、証拠ができたな。あとは剥いだ皮膚を見 つけておけば、麗子殺しは完璧だ。まあ、皮を剥いだ理由は、良美の考えで当 たっているかどうか、分からないが、そいつは浜岡を捕まえてみりゃ、分かる ことだし。問題は、五年前の事件だ」 「そうかあ、アリバイがあったんだよな。どんなのなんだ?」 鑑識員は興味がありそうに、下田に聞いてきた。 「おまえ、こんなことに首を突っ込んでいる時間、あるのか? 調べてもらっ たのに、こんなことを言うのもなんだが」 「いいって、少しくらい。花畑刑事、時刻表はどこへやったんだ?」 言われて、慌てた様子で時刻表を持って来る花畑。すぐに、問題のページが 開く。蛍光ペンで線が何本か入っている。 「ここです」 花畑がそう言った後、場の流れにあわせ、下田は浜岡のアリバイを克明に説 明した。 「……ははあ……。こいつは完全なアリバイだな」 そう言って髪をかきあげる鑑識員。 「だろ? これだけはお手上げだ」 「だが、そうでもないと思うぜ。これが偽アリバイなら、飛行機を使ったとし か考えられない。海上ルートは考える必要はないし、他の陸のルートを考えて も、まず無理だろうからな」 「しかし、山形空港とはうまく連結していないんだ」 「……山形空港に限る必要はないんじゃないか?」 「何だって? じゃ、どこに」 「仙台空港だよ」 「馬鹿な! 仙台空港まで行ったら、福島駅を通り越しちまうんだぞ」 「決めつけるなよ。俺、学生の頃、国鉄を使っていたんだが、最寄りの駅が小 さかったからな。新快速なんか止まらないんだ。だから、例えば、上りに乗ろ うと思ったら、まず下りに乗った方が早いって場合があったんだ。それと同じ だ。仙台空港まで行って、何も直接、福島に向かうことはない。仙台駅に行っ て、それから福島に引き返せばいいんだ」 「そうか、一理あるな。調べてみよう」 仙台空港とつながっている空港を調べる。 「東京、大阪、名古屋、福岡、沖縄、札幌、函館、新潟、小松……これだけだ な。福岡以降はカットだ。東京から見るか……。何だ! 東京−仙台間は休航 中だぜ」 下田は出鼻をくじかれた気がした。思わず、鑑識員の方をきつい目付きで見 やる。 「そうか。でも、大阪か名古屋にあるだろうよ」 「大阪ねえ。9:25は間に合う訳ないよな。となると次の11:50発だが、 これに浜岡が間に合うかな」 「浜岡が新神戸で乗った新幹線は、10:44に新大阪に到着します」 花畑が言った。 「で、空港へのバスは……。十時から十一時は十五分毎に出ているから、10 :45が一番近い。が、これは無理だろう。十一時発のバスに乗って、大阪空 港には、ああ、二十五分を要すとあるから、十一時二十五分頃だな。おお、確 か飛行機は、出発二十分前には手続きをするんだったな。それにも何とか間に 合いそうだ。それで、こいつは仙台に……13:05に着くか。いいぞ」 うまくつながりそうなので、声が弾んでくる。 「仙台空港から仙台駅までのバスはっと。何だ、13:30出発だとよ。怪し くなってきた。えーっと、所用時間は四十分か。十四時十分くらいには着くん だな。これで乗れる新幹線は……」 下田の言葉に合わせて、花畑が調べようとしていたのだが、まどろっこしく なった下田は自分でも調べ始めた。 「14:31発! これなら福島に14:56着だ。だめだ、十八分前にやま びこ57号は出ちまっている」 下田はがっくりと来て、机の上に乗り出していた身体を、椅子の背にどしん と押し付けた。 「名古屋があるじゃないか」 「気休めはよしてくれ。どうせだめさ」 それでも一応、調べてみたが、分かったことは、確かに名古屋空港でもだめ だということだった。10:05では早過ぎるし、次の15:30では遅過ぎ た。 「いかんなあ。お手上げだ」 鑑識員は、まさにそんな格好をした。 「いい考えだと思ったんだがな。全く、どうして連絡バスなんて物があるんだ ……」 「……連絡バス……? そうか、どうしてそれに乗らなければならないんだ? 自分で足を用意すればいいじゃないか!」 「しかし、警部。仙台ですよ。浜岡がそんな所で、車を用意できるでしょうか。 仮にレンタカーだとしたら、記録が残りますし……」 「なあに、車じゃなくてもいい。そうだ。単車だ、バイクだ! バイクを用意 しておけばいい。これに乗って、浜岡が、仙台空港に着くなり、すぐに仙台駅 に向かったとしたら……」 再び身を乗り出し、時刻表を繰る下田。 「バイクだったら、バスで四十分の道のりをもっと短縮できるだろうが、念の ため、四十分見ておこう。それでも、十三時四十五分には到着だ! これなら、 13:50仙台発のに乗れる。14:20に福島に着くから、14:37福島 発のやまびこ57号を捕まえられる!」 「すごい、警部、やりましたね」 花畑が感心したように言った。鑑識員も、しきりにうなずいている。 「うん、うん。確かに、このやり方でうまくいく」 「これも、おまえのヒントおかげだ。礼を言うよ」 「なあに、たいしたことじゃない。それより、こういうことは、おまえさんら が専門のはずなんだからな。もっとしっかりしてもらわなきゃ困る」 「いや、言葉がない」 そう言って、頭を掻く真似をする下田。その場のみんながひとしきり笑った 後、真顔に戻って彼は言った。 「さあ、これで、浜岡のアリバイは崩れた。少なくとも、犯行は可能だったっ てことだ。鬼面良美の証言でもって行けるだろうが、仙台でのバイクを調べて もらっとくのがいいな。望み薄だが……」 「早速、手配してきます」 花畑はそうして、部屋の外に駆け出して行った。 −続く−
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