空中分解2 #0775の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「ああ、美富さんは、この事件を受け持った一年後、東京の方に戻りましたよ、 警部に昇進して」 「戻りましたって、東京の人なんですか、この方は?」 「そのようでした。いわゆるキャリア組でして、自信満満に仕事をやっていま したねえ。こちらでの最後の事件を放り出したまま戻るのが、悔しそうでした よ」 「そうですか。それなら、この美富警部にも会う必要がありますか」 「それはもう、彼にも話を聞くべきでしょう。私なんかが受け持っているから、 この五年前の事件は解けないのかもしれない。ただですね、彼は忙しい身です から、忘れているかもしれません」 自嘲する風でもなく、淡々と言う西村。 「それで、質問なんてのは、ありませんか?」 「は? ああ、質問」 急に話を戻され慌てた花畑。 「昔の捜査状況は美富警部に聞くとしますから、現在の状況を。容疑者はいな いんですか?」 「昔も今も、ほとんど変わっていませんなあ。容疑者と黙されているのは唯一 人、浜岡純太郎です」 「浜岡純太郎……」 どんな字かを教えてもらい、メモする花畑。 「当時は大阪で、何やらあやしげな商売をやっていたみたいでしてねえ。今は 東京で、結構規模の大きなレストランを持っています。若社長の現在、三十三 歳になっているでしょう、確か」 「他にはいないんですか? 被害者達の親戚とか友人とか」 「鬼面家の血筋ってのは、当時、鬼面安治と竜子、それに二人の娘だけでした。 事件の直前、と言っても一年は前ですか、親戚が土地を遺して死んでいます。 東京に住んでいた御老人でした」 「ははあ。それでは土地が遺産として、鬼面家に……」 「ええ。それで、とりあえず、それの一部を金に換え、二人の娘が大学に行く ための費用に当てたんですね。あきらめかけていた進学が叶い、双子の姉妹は 喜んだそうです。ここまではよかった」 西村は言葉を切ると、座り直すようにしてからまたしゃべり始めた。 「その幸福を追う形で、浜岡純太郎という男が、鬼面家の人達に絡んできます。 その年の二月の初め頃から、浜岡は鬼面家に出入りするようになったようですね。 なかなかの面構えだからでしょうか、巧みに鬼面竜子に接近したみたいです」 「竜子に?」 「ええ、彼女は土地が入ったことで、それを金に換え、美容院を新しくやりた かったようですな。免状も持ってました。そのノウハウってんですか、そいつ を教えるという口実で近付いたんですよ、浜岡は」 「安治は、いや、家族は反対しただろうに」 「もちろんです。安治は工場を拡張したかったでしょうからね。鬼面家では、 いさかいが絶えなくなっていったそうです。またそれが浜岡の思う壷です。一 層、竜子と親密になり、土地の権利書を印鑑と共に、うまく手にしたようです」 「竜子が口車に乗せられたと」 「そういうことになりますか。当然、安治は怒ります。浜岡に対して、警察に 訴えるとまで言ったらしい。ま、訴えていても、どうにかなったかと言えば、 分からないんですね、これが。けれども、事を荒立てたくないであろう浜岡に、 動機は充分でしょう」 「なるほど。で、どうして逮捕して締め上げなかったんです?」 「私は元々嫌いなんですがね、締め上げるってのは。最終的には、美富警部は それをやろうと考えていたみたいです。ところが、浜岡にはアリバイがあった んですよ」 「アリバイって、どんなのです?」 「事件当日は、一日かけて仙台に行っていたと言うんです。大阪から新幹線を 乗り継いで。それが死亡推定時刻とぴたりと重なる」 それから西村は、紙に数字を書き並べた。 「もう暗記してしまいましたよ。これが浜岡の申し立てているアリバイです」 紙を破り、西村は花畑の方にそれを差し出した。 「8時46分、新大阪発……」 しばらく目で追っていた花畑であったが、あることに気付き、顔を上げた。 「あの、当時の時刻表を貸していただけないですか」 「もちろん、いいです。しかしなかなか手ごわい壁です、これは。自分のよう な石頭の人間には、五年かかっても解けないでいる有様で」 今度は自嘲気味に言う西村。手は、時刻表を捜している。じきに時刻表は見 つかった。かなり破れているようだ。 「これです。もうぼろぼろになっていますが」 「相当、これに取り組んでいたみたいですが、いったいどのようなセンで追っ ているんですか?」 「……言わないのがいいでしょう。先入観を持ってしまうと、こういう作業は だめです。私の落ち込んだ穴に、はまってしまうといけないですから」 「はあ……。では、コレ、お借りします。本当に、どうもありがとうございま す。アリバイ破りは自信ありませんが、きっと、役に立つと思います」 「ぜひ役立ててください。こちらで協力できることがあれば、いつでも連絡し てください」 その言葉を聞いて、花畑は立ち上がり、部屋を出ようとした。 その背中に声。 「帰り道、気を付けてください。ああ、それから、美富警部にもよろしく」 「分かりました。どうも」 「いかがです?」 調書を読み終えるのを見計らっていたらしい花畑に声をかけられ、下田は思 わず腕組みをした。 「こんな事件があったとはなあ。しかし、これで目鼻が整ってきたじゃないか。 鬼面麗子は、浜岡とかいう男が両親を殺した犯人だという確信を得たんだ。い や、確信を得るまでいかずとも、アリバイが成立しないことを確かめたんじゃ ないか。そしてその事実を浜岡に突きつけた。五年前に振り切ったと思ってい た罪を急に突きつけられ、焦った浜岡は、麗子を殺した。そして何等かの理由 で、顔の皮膚を剥ぐ。 一方、犯行のあった翌日に姉の部屋を訪ねた鬼面良美は、姉・麗子の遺体を 発見。五年前の事件で警察を信用しなくなっていたかもしれないな、この良美 は。だから、彼女は事件を警察には告げず、一人で動いた。あの電話の謎も解 けるじゃないか。警察に知られるのを少しでも遅らせるため、麗子のフリをし て良美が電話したんだ。それがかえって、発見を早める結果につながったがね」 「じゃ、良美が今やろうとしていることは、両親と姉の仇討……」 「そこまでやるかどうかは知らないが、浜岡の五年前のアリバイを破っていれ ば、接触しようとするだろう。これはすぐにでも、浜岡に会わんと」 「しかし、相手は犯罪者かもしれないんですよ。そうだとしたら、事を隠そう とするんじゃないですか。例え、良美から接触を受けていても」 「あってみなけりゃ、話は始まらんさ」 下田はそう言うと、浜岡の経営する会社について調べだした。 浜岡の取り仕切るレストラン「ビーエフ」は、本店を大阪におき、経営戦略 を練る本社ビルそのものは東京にあった。浜岡がいるのは、東京の方である。 建物自体は大きくないが、きれいな物である。五年でここまで大きな会社に したのだが、もし浜岡がこちらの推測通り、鬼面家の土地をかすめ取って資金 を調達したのかどうかを別にしても、大した手腕である。 入口にあった受付らしき所で、昨日電話した警察の者だがと言うと、警察手 帳を示すよう求められた。 「……はい。結構です」 気取った感じの受付嬢は、そう言って手帳を下田に返しながら、机の端のボ タンを押した。どうやら社長室にでもつながっているらしく、来客を伝えてい るようだ。 「三階へどうぞ」 言われた通りに行くと、字面もいかめしく「社長室」という札のある部屋に 突き当たった。 ノックをしてこちらの身分を明かすと、快活そうな声が返ってきた。 「どうぞ!」 部屋にはいると、これまたいかめしい机があり、その上には電話やら電子手 帳やらが並んでいる。 机に座っている男が浜岡純太郎らしい。いわゆるいい男と言えよう。管理人 が証言していた若い歌手の髪型ではなく、オールバックにしてあるのは、狭い 額を大きくみせるためか。どちらにしても、すぐに変えられる髪型だ。 男は立ち上がると、応接用に仕切ってある場所へと下田を案内した。 下田はその時、目測で相手の身長を測った。七十五くらいで、管理人の証言 と合う。 見た目よりも物持ちを第一としたようなソファに座ると、下田は口を開いた。 「お忙しいところを、どうも」 「いえいえ、忙しい時期は過ぎたばかりでしてね。この間、輸入自由化につい ての最終的な対応が決まったばかりなんです」 「それでは私は好運だったと」 「そうかもしれませんな。さて、用件はなんですか」 「五年前のことでちょっと」 言い終えた瞬間、下田は相手の表情の変化に神経を集中させた。 「五年前? 何のことでしょう」 口調は変わらぬが、表情には若干の変化が見られたように思えた。少しばか りの驚愕。 「お忘れでしょうか、五年前に神戸で起きた殺人事件のことを」 「さあ」 これはとぼけている、下田は確信した。ここまで言って思い出さないはずが ない。 「鬼面安治さんと竜子さんが殺された事件です」 「ああ! 思い出しましたよ。あれは本当、ひどい事件でした」 「浜岡さん、あなたはこの件に関して、事件発生直後に我々の調べを受けてま すね」 「それが何か?」 不快げな声になる浜岡。 「当時、あなたへの容疑は晴れましたが、事件は未だに解決していませんでし て。またあなたのところへと戻ってきた訳です」 「私にはアリバイがあって、容疑が晴れたんですよ。御存知でしょうね? な のに今さら、何の用ですか」 「うん、あなたは鬼面家と付き合いがあったでしょう。それでですよ。鬼面家 の人間関係を洗い直している訳で、あなたからも何か重要な証言が得られない かと」 「……」 ここで浜岡は、少し考える顔つきになったようだ。 「……そんなことなら、私なんかよりも、鬼面家の娘さんにでも聞けばいいで しょうが」 「あれ、御存知ない? 鬼面麗子さんは殺されたんですよ」 「……知らなかった。いつ?」 「だいたい、二週間から三週間前ですか」 こいつとぼけやがって。そう思いながら、下田は答えた。 「それにしても知らないとは。あれほどマスコミで騒がれているのに。よっぽ ど、社長業とは忙しいものらしいですなあ」 「ひょっとして、あの皮剥ぎの事件のことですか」 「何だ、御存知なんじゃないですか。それです」 「あれでしたか。いや、鬼面という名を耳にしたときは、まさかと思いました が、本当にあの鬼面さんでしたか」 そう言う浜岡を見て、下田は少し戦法を変えることにした。黙っておくのだ。 「……」 「……それで、どんな用件なのですか?」 やや、いらいらした様子の相手を見て、下田はさらにじらしに出た。ソファ に座り直し、足をゆっくりと組む。 「もう一度、あなたの口から、当時のアリバイについてお話願おうと思いまし てね」 「そんなことですか。ええ、何度でも言いましょう。それで私への疑いが晴れ るんなら。ただし、当時の時刻表があればですがね」 「どうぞ」 しまっていた時刻表を取り出し、机の上にドンと置く。自分は手帳を取り出 し、浜岡を促す下田だった。 浜岡の方は、時刻表を手にし、しばらくページを繰っていたが、その動きが 止まった。 「ああ、ここだ。いいですか。僕は前日の五月十九日、大阪の親友の家に泊ま りに行ってました。次の日は仙台の親戚のところへ行くことになっていたので、 この8:46新大阪発のひかりに間に合うよう、友達の家を出ました。その時 間までは覚えていませんが」 浜岡は言いながら、右手の人差指で、それに当たる箇所を押さえた。 −続く−
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