空中分解2 #0759の修正
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「少女が魔法使いであることを 少女以外の誰も知らない」 家の中には 誰もいない 少女はひとりキッチンで蛇口をひねる 冷たい水が いきおいよくガラスのコップに注がれる ゆっくり振り向き コップをテーブルにしずかに置いて 少女は瞼を閉じる 少女は魔法使い 窓の外でつめたい風がゴウと鳴る コップの水がザワめいて ピチャリと不思議な形の波を作る とたんに水はあふれ出し うずを作り 少女をのみ込み あたりに満ちる コップは水の中にもう見えない やがて水の流れはしずかになり 海草や サンゴや 色とりどりの熱帯魚 たちが現われる ここはあたたかい南の海の中だ 水にただよう少女は ゆっくり瞼を開き くすりとほほえむ 指先でクマノミの頭を ちょんとこづく ここにいるすべてが 少女をあたりまえの存在として認めてくれる かるく水をひと蹴りすると 少女はすばらしい速力で水中を進むことができた ほぼ真上からの太陽の光は 海底を深く照らし 遠く耳をすませば 南氷洋からのクジラの歌も聞こえてくる 「ただいま、今日は風が強くて寒かったわ あら、なにしてるの? こんな所で」 母親が帰ってきた 少女は目を開き なにげないそぶりでコップを取り のどを鳴らして冷たい水を一気に飲み干した 「のどが渇いてただけよ」 そう言うと 薄く微笑みながら母親の横をすりぬけて 階段を駆け上がっていった 「もお、コップぐらい洗ってかたずけなさいっ」 すでに自分の部屋へこもってしまった娘には聞こえない小言を言うと 母親はテーブルの上からコップを手に取った 突然 ひどくなつかしい気持ちが わきあがってきた 三秒ほど その妙にここちよい感覚を コップを持った手の中で ころころ ころがしてみて これは どういうことかしらと母親は考える (なにを 思い出したいのだろう) (なにを 忘れているのだろう) けれども もう彼女にはわからない 少女が魔法使いであることを 少女以外の 誰も知らない 久野利乙
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