空中分解2 #0726の修正
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車窓から、ホ−ムにたたずむその小柄な女性をみかけた時、私は、なんとも心 淋しい、せつない気持ちにさせられた。 降りしきる雪の中、傘も持たずに私の乗った電車を、どのぐらいそこで待って いたのであろうか。 私がその日の朝、通り過ぎたとき、その駅のプラットホ−ムは雨に濡れていた。 そして夕方、仕事を終えての戻り道、いつの間にか雪に変わっていた。 雪は、いろいろな顔を持っている。 まず、雪の日に外に出て空を仰いでみるとよい。ゴミが落ちて来るようにしか 見えない。それなのに、下を見ればそれは真っ白な立派な雪になっている。 北国では、雪は上から降りてこない。どこか彼方から、横なぐりに降りかかっ てくる。 そんなときの雪はサラサラとしていて、着物についてもパタパタと払えば少し も服を汚さない。 雪の表情が豊かなのは、感情の起伏が激しいせいであろうか。 雪子は、その日一日電話を待ったが、帰りの時間になってもベルは鳴らず仕舞 であった。 「あっ」 外に出ると、いつの間にか雪になっていた。とたんに、歯がカチカチ打ち、震 えが全身を襲った。 「ふっ」 心の隙間に冷気が忍び込んでいくのが分かった。 雪子は、いつもの道を足早に駅に向かった。街灯もない冬の夕べはさすがに心 細かったが、雪子の心を寒くしているのはそのせいばかりではなかった。 雪の積もった階段を上がり、駅舎に入った。暖をとるものなど一つも置いて いない無人駅の待合室は、空っぽであった。 雪子は、昼間は従業員5人ばかりの小さなところで事務をとり、夜は20キロ ばかり離れた大きな街のキャバレ−にホステスとして稼ぎに出ていた。 ふた月ばかり前のことであった。いつもより早めに店に出た雪子は、その店は 初めてだというフリ−の客のチャ−ジについた。 男は、下村と名乗った。ごっつい感じのとっつきの悪そうな客であったが、話 してみるとなかなかひょうきんで、そのうえどこか素朴な温かさといったものを 持っていることがわかった。 四日ほどしてまた店にやってきた下村は、雪子を指名してくれた。 もうすぐ25になる雪子を、下村は、 「おまえは女子高生みたいだ」 と言ってからかった。たしかに、雪子は童顔のうえ小柄であったから、誰から も妹のように可愛いがられた。 「どうせ子供よ、私は」 雪子はすねてみせたが、下村のそんな口ぶりに物足りなさを覚えない訳にはい かなかった。 三度目に店に現れたとき、雪子にとって下村は客の一人ではなくなっていた。 季節は、近くの山の頂を白くしていた。 休日にはデ−トを重ね、その足でいかがわしいホテルに入ることが当然のこと のようになった。 雪子が言い出したのか、下村が先だったのかそれはどうでも良かった。つまら ないことでケンカになった。 別れたあと、雪子は冷たいアパ−トの部屋でもう一度、一人泣いた。 雪子が、一日中電話を待ったのは、そんなことがあったからであった。 「カンカンカンカン」 警笛が鳴り、電車がホ−ムに入ってくることを告げた。雪のホ−ムに立ってい るのは、雪子一人だけであった。電車が入ってきた。雪が舞った。 車窓の明りは、雪子の気持ちをも明るくした。 「あらっ」 先頭車両の車窓に、下村に似た男の顔を見たように思った。 おわり 1990.12.26
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