空中分解2 #0690の修正
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彼の頭の中に その信じられないほど美しい旋律が 響きはじめたのは、 2、3年ほど前からだそうだ。 べつに彼は、音楽の勉強をしてきた訳でもなく なにかの楽器の演奏に長 けている訳でもない 普通の少年時代をすごし 普通の学生時代を経て 俺 と同期で今のこの会社に入社した彼は、入社後しばらくして突然 その旋律 が、頭の中を流れはじめたのだそうだ。 彼はどちらかといえば内向的でおとなしい人間だ、俺とはなぜかウマが合 い、2人でよく飲みに行ったりする、美しい旋律の話も人にしたのは、俺が はじめてだそうだ。 彼は、ひとりでいるときには大抵その旋律を鼻で歌っているらしい、しか もそれは、ひとつではなく たくさんの旋律の集合体で ほとんど交響楽で あるという。 なるほどそれほどすごいのなら聴かせみろと 彼のアパートで2人で飲ん でるときに俺が言うと 彼は、はにかんで 鼻歌なんかよりずっと音域が広 くて いろんな和音がでてくるので 表現しにくいと言う。 それでもいいから さわりだけでも聴かせてくれというと、彼はちょっと 考えて 軽く咳払いをして しずかに ひとつの旋律を歌いはじめた。 それは 音楽といえるものなのか よく解らないが 聴いているうちに 俺は 心が震え 体中の筋肉が緊張してくるのを感じた。 彼の口から鼻から 次の音が出てくるたびに とてつもなく強く優しい力 が 俺のすぐそばを ゆっくり流れて行くのだ。 彼は、ひとつのフレーズを歌い終ると照れ笑いしながら 南側の窓を開け 寒い夜空を仰いで言った。 この曲は、何千年何万年も俺の中で鳴り響いている。 俺の血に、俺の遺伝情報に記憶され 少しずつ付け足され改善され 大きくなっていく。 俺は、あの星を見ながらこの曲を創ってきた。 百年前の俺も、千年前の俺も、一万年前の俺も。 彼はそう言うとオリオン座の右肩を指さした。 赤く輝くベテルギウス。 今はまだ未完成だが もうすぐ完成する といっても何十年何百年先 だか わからないが。 いつかきっと 俺はあの星へ行って、この曲を演奏すると真顔で言う。 俺は、彼の突拍子も無いことばを 無条件に納得した。 ああ いつの日か人はあの星までも行く。 そこから母なる太陽系を望み、その距離を感じ、自分が何故ここに在るの かの意味を知る。 そして 地球に産まれた生き物が、ここまでたどり着いた鬨の声として、 その交響楽を、星域全体に震撼せしめるのだ。 彼は、その日の為に生き物の歌を 彼自身に記録し続けている。 彼は今日も、指揮棒をふってオーケストラをあやつる、未来の自分の姿を 想い 鼻歌を歌っている。 久野 利乙
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