空中分解2 #0684の修正
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「俺は、こう思う」 突然、三木が改まった口調で言った。 「彼女、さつきちゃんは<隙のない人は嫌い>というタイブかもしんない」 「うむ」 福田が、せい一杯しかめっ面をしながら応じた。 「ん?」 一人、田中だけがおいてけぼりを喰わされた格好である。 三木が続けた。 「<たとえ日本がどんなになっても、世界がいや地球が滅びようとも、僕はあな たを守って上げます> ぐらいのこと言えないのか。何がト−フだ!、と言うのは俺ら凡人の考え方だ」 「むっ。違いねえ」 「よく考えてみると、笑われていいのは俺らの方かも知れない」 「うん、俺もそう思う」 妙に二人の息がぴったり合っている。田中は、首をひねるばかりである。 「二、三箇所誤字があったように思うが、それもさつきちゃんにとっては<愛す べきこと>なのかも知れない」 三木の話し方はだんだんしんみりしたものになっていった。 「他にもいろいろあやしいところがあるが、すべては田中と彼女の問題だ。俺ら が口をはさむ筋合いなどない」 どうも様子がおかしい。そして、しばしの沈黙。息苦しさに耐えられなくなっ た田中が口を開こうとした時だった。 「その相手の”さつき”ってのは、どこの誰だい」 福田が眼を細目ながら聞いた。田中の顔がぱっと明るくなった。 「あん、しってるかなあ。ほら、犬飼さつき」 「なにっ、犬飼」 「だめだ、だめだ。あいつだけは止せ」 聞くなり福田と三木は、大げさに手を振った。あまりの剣幕に田中はしばらく ポケっと口を開いたままであった。 「あの女は、だめだよ」 「ど、どうしてさ。なんだよ、恐い顔して」 「いいかあ、あの女はね、」 「よせ、福田。やめとけ」 何を思ったのか、突然三木が福田に待ったをかけた。 「なんだよ、福田。続けろよ」 「ああ、もういいんだ。悪るかったな」 三木が福田に目配せをしたのを、田中は気づかなかった。 「へっ、なあんだ二人とも焼き餅か。いやだ、いやだ。これだぁ、もてない奴ら は。なんだい、友達なら応援してくれるのが当り前だろうによ。いいよ、もう」 田中は言いたいだけのことを言うと、手紙を両手で包みこむようにそっと持っ て立ち上がった。 「どうした」 福田が声をかけたが、田中は返事もせず部屋の方に歩いて行った。肩を落とし た後ろ姿はいかにも寂しそうに見えた。 「ちょっと薬が効き過ぎたかな」 「ああ、本気だったのかなあ」 「まさか、と思うけんど」 「福田さあん、三木さあん。食事ですよ。あらっ、田中さんは」 皆楽園の女性ヘルパ−が、手をたたきながらリフレッシュル−ムに入ってきた。 「部屋に行ったよ」 福田が顎をしゃくった。 「また、三人で何か悪企みでもたくらんでいたんでしょう。困ったお爺さんたち ねえ。三人とも80歳に近いんですよ。ここでは先輩なんだから他の方達に優し くして上げなくちゃね」 「何言ってんだい。こっちが優しくしてもらいたい方だよ」 ほんと三木は達者である。 「はい、はい」 年寄りにはかなわないわね、などと口の中でブツブツ言いながら若いヘルパ− は、田中を呼びに小走りにかけて行った。その娘のふっくらしたお尻が左右に搖 れるのを福田と三木は眼を細めて見送った。 それから数日後、ホ−ムの裏山で田中が洋服のポケットに宛名の書いてないぶ 厚い封筒を入れたまま首を吊って死んでいるのが発見された。 それを聞いた時、福田と三木はその封筒の中味がなんであるかをすぐに悟った。 「おい、三木よ。あの手紙だけんどよ。警察で調べるんだべな」 「もちろんさ」 「だとすると・・・」 「読んだ奴はなんと思うだろうね」 「ああ、あ・・・」 「ふふふ、」 「あ、あははは」 「くっくっくっく」 二人は、どうしても笑いをこらえることが出来なかった。 おしまい 1990.10.18
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