空中分解2 #0665の修正
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十章 大団円 部屋に戻ると、夕刻まで特に何をするでもなく過ごす。 この部屋、あたしが一美と一心同体の状態で戻ってきたときは、それまで使われ たことがなかったかのように寂れて、埃で汚れていたのに、そんなことがまるで嘘 のように綺麗に掃除されていて、汚れた跡なんか全然残っていなかった。 夕刻になると、お召し替えということでたくさんの侍女や召使いさん達がやって きて、念入りに化粧を施してくれる。打撲によるアザも、まだ消えてなかったけど、 それも全く目立たないようにしてくれていた。もちろん、豪華で素敵なドレスが用 意されていたのは毎度のことである。 そして、手を引かれながら、ゆっくりと歩いて大広間に入る。広間には多くの人 が既に着席していて、一美や康司、それにスクルトの姿もあった。どうやら、あた しの方はアザを隠す必要があったために、一美よりも時間が少し余計にかかったみ たい。 もちろん、康司やスクルトに至っては、もっと準備が簡単だっただろうから、あ たし達の中では一番早かったに違いない。 人々の視線が集まる中、あたしはスクルトや康司、一美と並んで主賓席に着いた。 皆に注目されるのって、なんとなく誇らしさ半分恥ずかしさ半分って感じ。悪く はない気分だけど、同時に、穴があったら入りたいような気分も入り混じる。 あたしが着席したあと、すぐにソーラ王とお妃様、それにマイア姫も入ってきて 席に着き、ソーラ王の演説が始まる。 その演説を聞きながら、隣に誰かが来たような感じを受けて振り向くと、そこに は健司の姿。 すぐにあたしはソーラ王の方に視線を戻したけど、健司は全く意に介した様子も なく、あたしの隣の席に腰を降ろす。 ソーラ王は、誰も気付かぬうちに占い師に操られていたことや、それをまたティ アの女神に救われたことなど、事細かに話していたけど、やがて、その話も終わろ うとしていた。そして、最後にスクルトのことに話が移る。 どうやら、あたし達が部屋にいる間に、スクルトの身の上について、いろいろと 聞き出したらしく、スクルトが今回の陰の功労者であることを話したあと、今は亡 きランベル卿の形見であることなども公表された。 そして、最後にスクルトを筆頭にあたし達五人全員が紹介されて、ソーラ王の話 が終わる。 しばらくして誰かが大声で、乾杯! と叫ぶと、それが合図となって、たくさん の杯が上に突き出された。 テーブルの上に山のように盛られた御馳走や飲物が、次々と人々のお腹の中に収 まっていく。スクルトも夢中で御馳走を頬張り、お酒を浴びるように飲んでいる。 康司もスクルトほどではないにしろ、やはり夢中で飲んだり食べたりしている。 かくいうあたしと一美も、やはり食事をしながら、少しお酒も飲んでいた。 そこへマイア姫がやってきて、健司に耳打ちをすると、一緒に大広間を抜け出し ていった。 まあ、健司がどうしようと、あたしには関係ないわね。 あたしは、ちょっとだけ二人の姿を視線で追ったけど、すぐに視線を戻すと、そ んなこと気にしないようにして食事を続けた。 人々は陽気に笑いさざめきながら飲んだり食べたり。バックには静かな音楽が流 れていて、なかなか素敵な雰囲気。 宴も中盤になると、音楽に乗って一部の人々がダンスを始めた。スクルトはすっ かり満腹したらしく、酔いも手伝ってか満足そうな表情をしたまま眠り込んでいる。 「一美、俺達も踊ろうぜ。」 康司はすっかり上機嫌になって、一美を誘うと人々と一緒に踊り始めた。 「ふう。」 あたしは、なんとなく複雑な気分になってため息をつく。 少しお酒も飲み過ぎたみたいで、顔が火照っている。 頬杖をついて康司と一美のダンスを眺めながら、またため息を一つ。そのまま、 ぼうっと二人を見ていたら、急に後ろから肩を叩かれた。 振り返ると、そこに健司の姿。 「よう、どうした。元気ないみたいだな。」 あたしは何も言わずに康司と一美の方に視線を戻す。気分的に、あまり健司とは 話をしたくない。 「ちょっと話があるんだけど、付き合ってくれないか?」 「申し訳ありませんけど、辞退させて頂きますわ。わたくしの方には話すことなど 何もございませんから。」 丁寧にお辞儀をしながら、失礼のないように辞退する。 「おい……、なんだよ、そんな他人行儀な言い方はないだろう?」 健司はあきれたように言ったけど、でも、元々、赤の他人なんだから、他人行儀 な言い方したっておかしくはないでしょう。 「ですが、未来の女王様と契りを交わされた御方に対して、以前のように失礼な態 度は取れませんから。」 「怒ってんのは判るけどさ、せめて話くらいは聞いてくれよ。」 健司は懇願するように言った。 「いいえ。申し訳ありませんけど、わたくしの方には話などございませんから。」 「なあ、ふざけるのもいい加減にしてくれよ。」 「別に、わたくしはふざけているのではありませんわ。礼などを失してはならない と思ったものですから……。」 「おい、本気で怒るぞ!」 さすがに健司も頭にきたらしく、急に口調が荒々しいものとなる。 「ちょっと、何やってんのよ。」 あたし達の会話が耳に入ったらしく、一美と康司がダンスを中断してやってきた。 「あ、一美からも頼んでくれよ。俺、博美にあやまりたいんだけど、博美のやつ、 頑として聞き入れてくれないんだ。」 「あら、何をあやまりたいのかしら? 今更、博美にあやまらなきゃならないこと なんて、ない筈よね?」 「いや、気持ちの上での誤解もあるみたいだから、それも解いておきたいし。」 「でも、少なくともあたしや博美が遭遇したことは事実よね。」 「だから、そのことについてさ……。」 「ちょっと、ストップ。」 康司が止めに入る。 「ここでいつまでもやり合っててもしょうがないしさ、なんか皆の注目も浴びてる ような気がするんだけど……。」 確かに、だいぶ、人の注目を集めてるような気がする。 「場所、変えた方がいいみたいね。」 一美がこそこそと広間から出て行く。あたしと康司も後に続く。そして健司も。 廊下に出ると、さすがに人の姿はない。 「で? 健司としては、何を話したいわけ?」 「確かに、俺がしたことは事実だけどさ。でも、それは俺がしようと思ってしたこ とじゃないんだ。その辺、ちょっと誤解もあるみたいだから、少し言い訳させて欲 しいんだ。」 そして、健司は自分の体験について話し始めた。 それを要約して、ついでにあたしが知ってることをまとめると、次のようになる。 事の起こりは、あたしが健司を呼びにいったことだった。もっとも、あたしはそ んなことした覚えないし、その時はもう一美と同化してた頃だから、これは本当の あたしじゃないのよね。紛らわしくといけないから、あたしじゃない方のあたしの 事は、第三者が呼ぶみたいに博美って呼ぶことにするね。 博美に呼び出された健司は、そのままソーラ王とマイア姫の前に連れていかれた。 そこにはあの占い師も同席していて、その占い師に、健司ならマイア姫の婿とし て申し分ないと言われた。 健司はそんな気などまったくなかったので、そのように断わると、驚いたことに 博美もマイア姫の婿になるようにと健司に強く勧めたのだった。そして、ティアの 女神の言うことならと、ソーラ王もすっかりその気になり、健司の意志を一切無視 して婚儀の用意を始めたのだった。 健司は、まさか博美にそんなことを言われるとは思っていなかったので(そりゃ、 あたしだったら絶対にそんなこと言わない)、裏切られたという思いでいっぱいに なり、婚儀までの間、監視付きになってしまった健司は、可愛さ余って憎さ百倍で、 逆に博美を憎むようになってしまった。 康司と一美も行方不明になってしまい(このときの一美、つまりあたしは、博美 によって、あの草原に飛ばされていた。康司も同じようにして、ジュンの街外れに 飛ばされていた)、健司は完全に孤立した。 一方、博美はティアの女神の権力をあからさまに行使し始めた。一般民衆に対す る重い課税を強いて、王に反発する勢力の徹底的な弾圧を行ない、強力な軍隊の編 成、成人男子の軍隊への強制的な徴用など、少なくともまともな人間が聞いたらす ぐにでも反発するようなことを次々に手がけ始めた。ソーラ王は、博美にいいよう に使われて、もはや博美はこの国における事実上の最強の権力者となっていた。 次に増税を行なった。その増税額は民衆の生活を圧迫し破壊するには充分な額で あったので民衆はこれに反発しようとしたが、その動きは暴動になる前に各地に配 置されている王家直属の兵士達によって鎮圧された。首謀者は王城の地下牢に入れ られ、じきに死刑となる予定であった。 さらに徴兵を行なった。フハ村でスクルトが捕らえられそうになって騒ぎを起こ したのは、これが原因ね。ちなみに、この国では十八才で成人とみなされるから、 スクルトは成人しているっていうことになるわけ。 これらのことを驚くべき早さで実現して、博美が完全な独裁体勢を敷こうとした 矢先、行方不明だった筈の康司と一美(つまり、あたし)が戻ってきた。二人は博 美と対決し、博美を負かすことができた。そして、このとき、あたしは元に戻った のだ。 ちょうど時を同じくして、王の圧政に耐えかねた人々が革命と称してお城に押し 寄せた。普段ならお城から兵が出て、それを制圧することになっていたし、事実、 それ以前も、そうやって制圧していたのだ。 しかし、このときは元の博美と一美でもあったあたしとの対決があって、ゴタゴ タしていたため、兵を繰り出すことができなかった。結局、反乱は抑えられず、そ れは反乱軍としてお城の中に侵入してきた。 それまで博美にこき使われて抑圧を受けていた兵士達も、博美が倒されると、そ の鬱憤を晴らすべく、気を取り戻した博美(つまり、あたし)に集団で襲いかかっ た。これはすぐに一美によって止められたけど、今度は革命軍が、この圧政の根本 が博美であったことを突き止め、処刑するべくあたしを捕らえた。 その後、あたし達が逃げだしてマース侯のところに身を寄せていたのは知っての 通りね。 ところが、このとき既に、健司もマイア姫も、そしてマース王と王妃も、あの占 い師に操られていたらしい。 ソーラ王の命令もあって、健司はマイア姫とともにあたし達を追い回し始めた。 そのことを健司は少しもおかしいと思わなかったそうだから、完全に操られてい たってことなのよね。 健司とともに、やはり占い師に操られていたマイア姫は、健司と結婚することを 当然のように思っていて、やがて健司と肉体関係を持つことになる。その何度目か の光景を、あたし達は目にしたというわけ。 そして、あの教会風の建物の地下室での戦いになったわけだけど、一美によって 気絶させられた健司は、そのあと何やらショックを感じて目覚めると、全身を白い 光に包まれていて、そのときは既に正気に戻っていたということだった。 「じゃあ、あれは健司の意志じゃなかったってこと?」 健司の話が一通り終わると、あたしが何も言わないうちに一美が切り出した。 「ああ。言い訳になるかもしれなけどさ、俺、操られてて変になってたから、あん なことができたんだと思う。皆にはあやまってもあやまりきれないし、特に博美に は絶対に許してもらえないと思うんだけど、とにかくあやまりたいんだ。俺さ、博 美に悲しい思いをさせたことが辛いんだよ。」 「そこまで判ってるのなら、なんで、あの戦いが終わったとき、マイア姫を気にか けたりしたのよ。あんなに仲むつまじいところを見せられたんじゃ、博美じゃなく たって誤解するに決まってるじゃない。」 「だって、正気に戻りはしたけどさ、俺、マイア姫を抱いた記憶はあるんだぜ。本 当に好きなのは博美だけど、やっぱ、男としての責任とか考えるとさ。」 「そんなこと考えるから博美にも嫌われるのよ。あのときはあたしや康司だって、 健司が心変わりしたんだって思ったんだから。」 「本当にすまなかった。今更、許してくれとは言わないし、許してもらえるとも思 ってないけど、博美に辛い思いをさせたことは悪いと思ってる。本当にごめん。」 詳しい事情を聞かされたあたしは、もう健司と話したくないとか無視するとかい う気持ちが完全になくなっていた。 しかし、マイア姫との関係を健司の口からはっきりと言われると、やっぱりとは 思いながらも、さすがにそのショックは大きい。 「それで、マイア姫の方はどうするつもりなの?」 一美も、まだ追及の手を緩めるつもりはないらしく、さらに突っ込んで聞く。 「マイア姫もさ、占い師が倒された後で正気に戻ったそうなんだけど、俺とのこと を思い出したらすごく恥ずかしかったって言ってた。でも、それは悪い夢を見たと 思って忘れるってさ。そのことを、さっきマイア姫と話してきたんだ。」 「それで、健司もこれ以上マイア姫とどうにかなろうなんて思ってないわけね。」 「ああ。」 「そう。そこまではっきりしてるのなら、あたしもこれ以上言うつもりはないわ。 あとは、どこまで博美が許してくれるかにかかってるわね。ま、せいぜい頑張んな さいな。」 一美は、そう言うと康司と一緒に広間へ戻ってしまった。振り返りざまに軽く手 を振りながら。 そして、あたしは健司と二人きりで取り残される。 「博美……。」 健司の手が後ろから軽く肩に置かれた。 −−− 続く
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