空中分解2 #0664の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「これで何もかも終わったのかしらね?」 そう言って振り向く。 「さあな……。とにかく、今のところ言えるのは……。」 「ん……。」 康司が何か言いかけた時、かすかなうめき声がした。 声のする方を見ると、そこにはマイア姫の姿。 同時に、健司が急いで飛んで行ってマイア姫を抱き上げた。そして、軽く何度か 頬を叩く。 あたし達が駆け寄るとマイア姫は気が付いて、健司を見上げて微笑みを浮かべて いた。やがて、マイア姫の腕が健司の首に廻されて、健司にしっかりと抱きつく。 「健司、お前……。」 康司が何か言おうとして、そのまま言葉を失った。 「う、うそ……。」 やっぱり、あたしよりマイア姫の方がいいの? あたしは、そう言いたかったんだけど、言葉が続かなかった。 健司は康司に目を向けた後、あたしの方を見て、辛そうな顔になった。そして、 たった一言。 「博美……すまない。」 その言葉を聞いた瞬間、あたしは健司に背を向けて駆け出していた。 いや! いや! こんなのって、ない! 「博美、待って!」 部屋を飛び出して、壁にぶつかりそうになりながら廊下を駆け抜け、建物を出る 寸前、一美が後ろから追いついてきて腕を掴まれた。 振り向くと、一美は無言のままうなずいて、そっと抱き締めてくれる。 「わーっ!」 そのとき、あたしの胸の中に溜っていたものが一気に爆発した。あたしは、それ を吐き出すかのように思いっきり泣きじゃった。 しばらく泣いていたあたしは、時々、背中を軽く叩かれて、そのたびに少しづつ 気持ちが落ち着いていった。心の中が晴れたわけではないけれど、泣いたことで少 しは楽になったみたい。 ポン。 いきなり、肩を軽く叩かれ、大きな手が乗せられた。いつの間にか康司が後ろに 立っていて、あたしと一美のことを優しく見ていてくれたらしい。 「少しは落ち着いたか? なあ、博美。あんな奴のことなんか忘れちまえ。俺も、 あいつがあんなどっちつかずの軟弱な奴だったなんて思わなかったよ。」 その優し気な表情とは裏腹に、キツイお言葉。 「ん……。」 本当に、忘れることができたらいいんだけれど……。 「さ、早く出ようぜ。俺、こんな辛気くさいとこに、いつまでもいたくない。」 康司に軽く背中を押されて、一美と一緒に建物を出る。 建物を出た途端、中庭にたくさんの人がいるのが目に入った。 「な……、なにこれ?」 しばし呆然としてしまった一美とあたしの前に、あたし達に気付いた人々が駆け 寄ってきた。そして、あっという間に囲まれてもみくちゃにされる。 「わっ、ちょ、ちょっと、何なの? いったい……。」 たくさんの手が延びてきて、一美と共に人々の間を引きずり廻されながら、いつ の間にか中庭の中央に連れて行かれた。 「おい、ヒトミは一人しかいないはずだろう。なんで二人もいるんだ?」 そこには、あたし達二人の姿を見て慌てふためくスクルトの姿があった。 「あら、スクルトじゃない。どうしたのよ。」 一美が声をかける。 「ヒトミ、無事だったか? ヒトミが捕まったって話を聞いたもんだから、慌てて 駆けつけて来たんだぜ。で、そっちの女は誰なんだ?」 「あたしの双子の妹の博美よ。ここの占い師に操られてたんだけど、今は元に戻っ てるわ。」 「へえ、ヒトミが探しにいってたのは、この娘なのか。それにしても良く似てるな あ。こうして見てると本当に見分けがつかないぜ。」 「おい、スクルト。なんだよ、この騒ぎは。」 そこへ、康司が人波をかき分けてくる。 「ヒトミを探しに来ただけさ。皆、ヒトミのことを心配してたんだぜ。」 「それにしちゃ、ちょっと大袈裟なんじゃないか?」 「静まりなさい! この騒ぎは、いったいなんなのです?」 いきなり凛とした声が突き刺さるように響く。 あたしにとって一番見たくない姿。マイア姫が健司に抱えられながら教会風の建 物の前に立って、ざわめく人の波を見下ろしている。 一瞬の静寂の後、人々の間から怒涛のような罵声が浴びせられる。それらは皆、 圧政を強いた王家への批判の声だった。 「静まりなさい! 静まるのです!」 さすがに王家の娘だけあって、マイア姫は威厳を保ちながら声の限りに叫ぶ。再 び人々の間には静寂が訪れた。 「我々の知らぬうちに我々を操る占い師と称する者は倒された。その者は自らを占 い師と偽り、我が王家に取り入って皆の者に圧政を強いていたものであるが、それ も先ほどティアの女神により滅ぼされた。我々はさらに強い忠誠をティアの女神に 誓うと共に、我々が操られている間に出された数々のおふれをすべて撤回し、より 良い政治を行なうことを、今ここに誓うものである。」 静まり返ったままの中庭。マイア姫は、そのまま建物の前の階段を降り始めた。 マイア姫の近くの人々は黙って道を開け、マイア姫は健司を連れて真っ直ぐにス クルトの方に向かって来る。 あたしは顔を背けて二人を見ないようにする。 「そなたが、この騒ぎの首謀者ですか?」 「だったら、どうだっていうんだ?」 「ティアの女神を連れてきてくれたと聞きましたが、本当ですか?」 「ヒトミのことか?」 「そうです。王家の者として、そなたに礼を言いたいと思います。そなたがいなけ れば、女神様の到着も遅れて、この国はもっと悲惨な目に遭っていたことでしょう。 この危機を回避できたのは、そなたのお陰でもあるのです。本当に感謝します。」 「い、いや、こんなの、どうってことないぜ。」 スクルトは、マイア姫の思いがけない態度に、明らかに動揺していたようだった。 「そこで、感謝の意を込めて、今宵、晩餐の宴を開こうと思っています。主賓とし て出席して頂けますか?」 「あ、ああ……。」 スクルトはあっけに取られたまま、生返事をした。ややあって、 「話はすべて聞きました。ヒトミさん、コウジさん。そして、ヒロミさん。本当に ありがとうございます。皆さんにも主賓として出て頂きたいのですが、よろしいか しら?」 「え、ええ。」 一美が少し戸惑ったような返事。あたしも、あまり気は進まなかったけど、とり あえずうなずいた。と、健司はあたしの顔など見たくもないらしく、あさっての方 を向く。 そこまで嫌われたのかと思うと悲しかったけど、あたしにだって意地ってものは ある。そんなに嫌うのなら、あたしだって徹底的に無視することにするわ。 「ええ。喜んで!」 うなずいた後、あたしはわざわざ声に出して返事をした。 「では、今宵、お待ちしておりますわ。」 そう言うと、マイア姫は健司を連れてお城の建物の中へ消えた。 −−− 九章終わり
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE