空中分解2 #0651の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
お腹を押さえたくても、両手を掴まれていて、押さえることができない。体を折 り曲げようにも、無理やり立たされていて、座り込むこともできない。 そのまま何度かお腹を殴られ、顔も叩かれた。鈍痛がお腹から全身を駆け巡り、 顔から痛みの感覚が失われていく。 お腹痛い……。苦しいよぉ……。 口の中が塩辛くなっていた。多分口の中が切れたんだと思うけど、感覚がなくな っていて、よく判らない。 何で……何で、あたしがこんな目に遭わされなきゃなんないのよ! そう叫びたくても苦しくて、うめくことさえできず、くやしくて涙が流れた。 ドン! 急に後ろから突き倒されて、今度はメチャクチャに蹴られる。 あたしは体を丸めて、痛むお腹を押さえたまま、どうすることもできない。手や 足を蹴り上げられて、あちこちがズキズキと痛む。 「うっ!」 いきなり背中を蹴られて、あたしは反射的に仰け反った。と、今度はお腹や胸を 蹴られ、あたしは再び体を丸めてお腹を押さえる。 体中を痛みと苦しみが駆け回り、あたしはもうどうしたらいいのか判らない。気 が遠くなりそうになるのを、新たな痛みが現実に引き戻して、あたしを地獄のよう な苦しみに誘う。 誰かが、あたしのドレスの背を掴んで強く引っぱったらしい。ビリッという音が 聞こえて背中が寒くなった。そして肩の辺りを足で蹴られて転がされ、仰向けにさ せられ、手足を押さえつけられて、ドレスをはぎ取られる。 体全体が痛む中でも男達の視線が突き刺さるのを感じる。 「うっ……ううっ……。」 いや。何で、こんな目に遭わされなきゃいけないの? もがこうにも力が入らず、痛みで言葉さえ出てこない。 康司……。康司、助けてよ……。誰か、助けに来て……。 興奮した男達が、あたしの上におおいかぶさってきた。 いやっ、こんなの、いやーっ! 「やめてーっ!」 鋭い声がして、誰かが止めに入ってくれた。 「やめなさいよっ! やめないと痛い目に遭わせるからねっ!」 ザワザワと人の波が揺れて、男達がおびえて引き下がり、やがて、あたしを取り 囲んでいた輪の一部が切れる。 「博美! 博美、大丈夫?」 康司の隣で気絶していたはずのあたしがそこから飛び込んで来て、あたしの上半 身を抱き上げてくれる。 「うっ……、ううっ……。」 痛くて苦しくて、うめくことさえ辛い。 「ねえ、博美、しっかりしてよ。」 痛いよぉ……。え? 今……博美って言った? 「ううっ……、コホ、ケホン。」 ねえ、博美って言ったの? そう言おうとしたら、突然咳込んでしまって、痛みが全身を駆けずり回る。そし て、咳とともに、口の中にたまっていた鮮血があふれ出る。 「や、やだ……、ねえ、しっかりしてよ。博美ぃ……。」 い、痛い。お願いだから、揺らさないでぇ。 やがて、周りの景色がぐるっと回転して、意識がすうっと遠のいていって……。 体の中を痛みが走り回り、苦しくて苦しくて、悪夢の中でうなされ、そして、ふ いに目が覚めた。 「あ、博美、気が付いた? ねえ、あたしのこと判る?」 あたしは、どうやらベッドに寝かされているらしい。 「うっ……。」 声を出そうとしたら、痛みが走った。 そう。今ならはっきり判る。あたしは博美だってこと。 でも、間違いなく一美でもあったのだ。少なくとも、草原のまっただなかに飛ば されてからあとのことは、すべて憶えてる。でも、それじゃ、一美自身はいったい、 どうなってたんだろう。 「ねえ、スクルトのこととか、うっ……、ラミアとか、憶えてる?」 「え? やだ。ちょっと、なんで博美が、そんなこと知ってんのよ。」 「だって、あたし、旅の間ずっと、ううっ……、ずっと一美だったもん。」 話してる途中でも激痛が走り、言葉が一瞬途切れる。 「ちょっと、冗談言ってるときじゃないのよ。博美があたしだったって言うんなら、 博美はどうなってたのよ。」 「だから、あたしは一美だったんだって……うっ……、あたしの体の方はどうなっ てたか知らないけど、意識は間違いなく、うっく……一美だったの。ううっ、いた ……。」 「わ、判ったから、もう、しゃべらないで。無理しちゃ駄目よ。ね?」 あたしは我慢していた痛みをこらえながら、そっと目を閉じて大きく息をはいた。 あたしの手を一美が握っててくれて、それだけでとっても安心できる。 「ね、健司と康司はどこ?」 不意に二人の事を思い出した。隣の部屋にでもいるのかしら? 「康司なら博美をこんな目に遭わせた人達を追ってるわ。だけど健司の行方はまだ 判らないの。」 一美は首を振りながら教えてくれる。と、一美の声が急に険しくなった。 「まったく、博美をこんな目に遭わせるなんて……、あの人達、絶対に許せないわ! 女の子を殴るなんて……、女の子の顔をこんなになるまで殴るなんて……、まとも な人間のすることじゃないわよっ!」 一美は涙を流しながら本気で怒ってた。 「くそっ! 駄目だ。さっぱり判らねえ。」 扉を乱暴に開けて康司が入って来る。 「やつら、さっさと逃げちまいやがった。途中まで追ってたんだけど、見失っちま ったよ。まったく、逃げ足だけは早い連中だぜ。」 い、いたい……。か、体にひびく。 康司が悔しまぎれに足音を立てて歩くものだから、それがひびいて痛みが体中を 駆けずり回る。 「いた……。お願い、静かにして。うっ……。」 「あれ? 博美、気が付いたのか?」 「お願い。静かにしてあげて。体のあちこちが痛いらしいの。」 「お、ごめん。どんな様子なんだ?」 「ほら、見てよ、これ。もう、メチャクチャなんだもん。」 一美が布団をめくらないように注意しながら、あたしの左腕をそっと延ばして康 司に見せる。 あたし、着ていたドレスを破かれてから、ずっと裸のままなのね。だから布団を めくるわけにはいかなかったってわけ。 「うわっ、ひでえな、こりゃ。青アザだらけじゃねえか。博美、痛いだろうけど、 ちょっと我慢しろよ。」 「……!」 その瞬間、声を出すことさえできなかった。左腕から、気絶しなかったのが不思 議なくらい強い痛みが走る。 「痛いだろうけど、ちょっと我慢してくれ。いま、こうやって揉んでおかないと、 あとで、もっとひどいことになるからさ。」 激痛とともに左手をマッサージされる。と、その時、バタン! と乱暴に扉が開 け放たれた。 そして、兵士達がなだれ込んでくる。 「うわっ! 何しやが……。」 いきなり康司が取り押さえられて何処かへ連れ去られる。一美も一緒に連れ去ら れる。そして、あたしもベッドから引きずり出された。 い、いたい! 「あうっ!」 痛みの余り、思わず悲鳴を上げるあたし。しかし兵士達は構わずに、白い布のよ うなものをあたしの頭から無理やりかぶせて全身を覆うと、ほとんど歩けない状態 のあたしを無理やり引っ張って行く。あたしは全身を走る痛みで気絶しそうだった。 痛みに耐えるのに必死で、あまり憶えてないんだけど、何やら階段を降りたみた いだった。降りたところはなんとなくジメジメしてて、気持ちが悪かった。 ジメジメした通路をさらに先へ進むと、目の前に大きな鉄格子が現われた。一人 の兵士が鍵を使って鉄格子の扉を開ける。その音が暗い廊下に反響する。 あたしは小突かれるようにして、その扉をくぐらされた。 そして、さらに奥へと引きずり込まれ、そこに現われた鉄格子のジャングル。そ のうちの一つが開けられて、そこであたしは突き飛ばされた。 「あっ!」 あたしは、そのまま崩れ落ちるようにひっくり返った。全身が痛くて動けない。 ガシャーン! 鉄格子の扉が閉じられる音。そして、兵士達が去って行き、入口の鉄格子の閉め られる音がした。 あたしはしばらく痛みに耐えたあと、ゆっくりと辺りを見回す。 ここ、牢屋だわ。それに、窓が一つもないの。完全な地下牢ね。 でも、なんで急にこんなところに閉じ込められなきゃならないのか判らなかった。 全身、痛むだけでほとんど力の入らない体をかかえたまま、あたしは何もできな いでいた。痛みと苦しみの中で不安だけが大きく広がっていく。 と、入口の鉄格子の扉が開けられる音がした。 カチャカチャ、ギイーッ! コツコツコツ……。 誰かが歩いて来る。ううん、誰かじゃない。あの足音は、何人か、だわ。 そして、現われたのは、さっきとは違う別の兵士達だった。何人かの兵士達が鍵 を持って、次々と中の鉄格子の扉を開けていく。そして、 「おい、大丈夫か?」 口々に声をかける。そこから、次々に疲れきった表情の人々が現われた。 同じような牢屋が奥の方にもいくつかあるらしく、それらすべての扉が開けられ、 前の廊下は人で溢れかえった。 「さ、出口はこっちだぞ。」 その言葉に従うように、人々が次々と出口の方へ向かう。 波が引くように人々が去って行き、後に兵士達が残る。その中に、あたしは嬉し い姿を見つけた。 「健司!」 あたしは体の痛むのも構わず、声の限りに叫ぶ。 それは、間違いなく健司の姿だった。しかし、健司はあたしの方を見ると、さも 汚らしいものを見るような目付きをした。そして、あざけるような声で、 「よう、どうだ。この中の居心地は。お前が身勝手な真似をしてここに送り込んだ 人達は皆、今のお前と同じ目に遭ってたんだぜ。お前も同じ苦しみをたっぷりと味 わうんだな。」 あたしは、健司の口から出たものとは思えない言葉を聞いて呆然とした。 思いきり叫んだせいで全身が痛み、もはや声を出すこともできない。 と、健司はプイッと横を向いて、兵士達と一緒に出て行ってしまった。 あたしは呆然としながら、その背中を見送っていた。痛みと苦しみの中で思いが けない突き放され方をして、あたしはただ呆然とするしかなかったのだ。 ガシーン! カチャカチャカチャ……。 入口の鉄格子の扉と鍵を閉める音が響き渡る。 その音は、悲しみに捕らわれていたあたしの心の中にも響き渡っていた。 そして、あたしの心の中でも同時に鍵がかけられ、真っ暗になっていく。やがて 感情も失われたようになって、あたしは本当に何も感じなくなっていた。 −−− 七章終わり
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