空中分解2 #0649の修正
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「ブラッド卿は、民や家臣に対して情けが薄く、また、人徳もなく、その上、とて も冷酷だったのです。そのため、以前はこの街にも引けを取らないほど賑やかだっ たジュンも、逃げ出す人が後を絶たず、すっかり寂れてしまって、暗い雰囲気の漂 う街になってしまったのですわ。その後の謀反でブラッド卿自身も殺されて、治め る者もないまま、あれからもう二十年近く経ちますのに、まだ変わっていなかった のですね。」 そう言って、何かを振り払うかのように、首を振る。 「実は、あたくし、ミナツの街はずれで生まれ育ったのです。やはり、自分の故郷 が寂れていくというのは悲しいものですわ。」 再び目頭を押さえる。 康司もあたしも、こういう雰囲気って、あまり慣れてないから、なんとなく困っ てしまう。スクルトも身の置きどころがないような感じだった。 「それで、ランベル卿とかいう方が亡くなられたあと、ラミアという方は逃げ出さ れたわけですよね?」 康司が、その場の雰囲気を変えるかのように、ルーラのお母さんに聞く。 「ええ。ラミアがフェミルと共に屋敷を無事に抜けて逃げ出したらしいという話は、 一緒に逃げ出した召使いや家臣達から聞いて判っているのです。でも、そのことを 伝えてくれた召使いや家臣達は皆、今でもここにいるというのに、フェミルとラミ アの二人だけ、その行方が全く掴めていなかったのです。その後、我が家ではルー ラが生まれ、とても幸せに暮らしてきたのですけれど、それでも行方知れずの二人 のことは片時も忘れたことがありませんわ。」 目を赤くしながらも、何とか感情を押さえて、ルーラのお母さんはきっぱりと言 った。 「スクルトがわたくしの甥であるというのは、おそらく間違いありません。それも、 明日には確実なものとなるでしょう。本当に、あなた方にはどれほど感謝しても足 りませんわ。」 次の日、特に何もするでもなしに広間で時を過ごし、やがて夕刻近くなった頃、 屋敷の前が騒がしくなり始めた。どうやらフロール卿の御帰館らしい。 やがて、フロール卿が広間に入ってくる。一人の女性を連れて。 「お帰りなさいませ。お疲れでしたでしょう。」 「うむ。だが、そんなことはどうでもよい。ルミア、喜べ。」 そして、フロール卿は同伴していた女性を軽く押し出した。 「御無沙汰しておりましたわ。」 その女性、つまりスクルトのお母さんは、その格好に似合わぬ優雅なしぐさで挨 拶をする。 「まあ、ラミア!」 ルーラのお母さんは一言叫ぶと、丁寧にお辞儀をしてしたスクルトのお母さんを 強く抱き締めた。 「本当に久しぶりだわ。ああ、ラミア、本当に会えてよかった……。」 フロール卿は、その様子を見てうなずくと、抱き合っている二人の肩に手を置い て、やさしく声をかける。 「ラミア。あなたが見つかったことで、我々がどれほど喜んでいるか判りますか? 本当に長い間、あなたを探していたのですよ。何故、我々のところに来てくれなか ったのですか?」 「フロール卿。あなたも御存知の筈ですわ。たとえ、どれほど近しい間柄の貴族で も、一度事が起きたときには、決して頼ってはならぬことを。」 「それは、一般的に同盟を結んだりした場合の話でしょう。少なくとも、あなたは ルミアと従姉妹なのだし、フェミルは我が弟なのだから、たとえ内紛でもランベル 家で起きたことは我々にとっても他人事ではなかったのですよ。そのことで、ルミ アはどれほど悲しんだか。」 「そうよ、ラミア。本当に、何故、あたくし達を頼ってくれなかったの?」 「ルミア……。」 そして、二人は抱き合ったまま、互いの肩に顔をうずめて泣いていた。 「さあ、ラミア。その後の事を我々に話してくれないかね? かなり苦労したのだ ろう?」 「ええ。」 フロール卿にエスコートされてテーブルに着いたスクルトのお母さんは、ぽつり ぽつりと話し始めた。 最も信頼していた家臣の一人が急に謀反を起こして、ランベル卿だった父と、優 しかった母を殺されたこと。夫のフェミルと共に危うく難を逃れ、同じく逃げ出し てきた家臣達と一緒に、逃げる途中で、家臣達をフロール卿の元へ向かわせておい て、自分達はまったく無関係の土地を目指したこと。ようやく見つけた安住の地。 そして、慣れない生活とスクルトの誕生。 ブラッド卿に恨みを抱くフェミルは数カ月後、ラミアの止めるのも聞かずに家を 飛び出して行方不明となった。ラミアは一人で生活の糧を得る必要に迫られ、同時 にスクルトを育てなければならなくなった。 辛く苦しい生活。ラミアは過去の事を忘れるため、がむしゃらに働いた。そして、 スクルトには父が死んだと言い聞かせ、自分の過去のことは一切話さなかった。 スクルトが旅ができる年になると、街を治める貴族達、特にジュンのフロール卿 には近付かないように言い含め、今まで誰にも知られずに暮らしてきたのだった。 だが、ティアの女神の出現によって、それまでの静かな生活に別れを告げ、ここ にこうして来ることになってしまったのだ。 「そう。とても苦労したのね、ラミア。それに、フェミルがいまだに行方不明だな んて……。」 「ええ。それでわたくしも最初は悲しい思いをしました。でも、あの人には一般庶 民の生活が我慢できなかったのでしょう。謀反を起こした家臣に、恨みの一太刀を 浴びせてやるんだと言って出て行ったまま、今も消息はわかりません。でも、もう あたくしは諦めております。」 「まあ、ラミア……。」 ルーラのお母さんはスクルトのお母さんに抱きついた。 「あたくし達には想像もできないほど大変だったのでしょう。本当に、代われるも のなら代わってあげたかったわ。」 「でも、それも皆、過ぎてしまった事です。スクルトもこうして一人前になったこ とですし、あとは今の家で静かに余生を送りたいと思っていますわ。」 「まあ、駄目よ、ラミア。これからは、ここで暮らして欲しいわ。今まで苦労して きたのだから、これからは楽しく暮らして欲しいの。」 「でも……。」 「それに、ここには、あなたのよく知ってる人もたくさんいるの。皆、あなたのこ とを心配していたのよ。ルーラ、ちょっとシノーラを呼んできて。」 「はい、お母様。」 しばらくして、ルーラが何人もの召使いを引き連れて戻ってきた。 「ラミア様!」 「まあ、シノーラじゃない。元気そうで何よりね。」 「ええ、お陰様で。それより、ラミア様、大変な苦労をされたとか。そのことを思 うと、シノーラも胸が痛みますわ。」 「ああ、シノーラ。本当に心配をかけたのね。御免なさい。」 「いいえ。ラミア様の苦労を思えば、なんでもありませんわ。それよりラミア様、 これからずっと、こちらにいらして頂けるそうで、皆、心から喜んでおりますわ。 シノーラも腕によりをかけてお世話させて頂きますからね。」 「まあ、シノーラったら。」 腕をまくり上げておどけるシノーラに、スクルトのお母さんは目に涙を溜めなが ら微笑んだ。 「一美、ちょっと。」 急に康司に耳元でささやかれて、あたしは腕を引かれるままにそっと広間を抜け 出すと、一緒に部屋に戻った。 「どうしたの?」 「いや、俺達もここにいる理由がなくなったから、早く出掛けたいなと思ってさ。」 「そうね。博美のことも気がかりだし。」 「それに、こちらさんの決着もついたみたいだから、すぐに出発したいんだけど、 あの様子じゃスクルトは来られるかどうか判らないから、俺達だけでもいいと思っ てるんだ。」 「そうね。」 お城までの道案内をしてくれているスクルトが来ないのは、ちょっと不安がある けど、でももう一本道だっていうし、博美の事が心配だから、なるべく早く出たい。 あたし達は広間に戻ると、そのことをフロール卿に告げた。ルーラのお母さんは 心配して、 「まあ、今からですか? じきに夜になってしまいますから、もう一晩泊まってい かれた方がいいと思いますわ。」 と言ってくれたけど、あたし達は既に一日無駄にしていたので、それを断わった。 「いえ、お気持ちはありがたいのですが、早くソーラ王の元にたどり着きたいので、 これから出発したいと思います。」 「まあ、そうですか。では、道中、お気を付けて。」 「はい。」 そして、あたし達が屋敷を出発しようとしたところ、 「ヒトミさん、ちょいとお待ちなさいよ。今、スクルトも一緒に行かせるから。」 ドレス姿ですっかり着飾ったスクルトのお母さんに、いきなり呼び止められた。 「えっ? でも……。」 「いいの。今となっては隠す必要もないでしょうから言ってしまいますけど、実は、 あなた一人では心配だったからスクルトも一緒に旅立たせたのですよ。今はもう、 その必要もないかもしれないけれど、でもソーラ王のところまでの道案内くらいは させないとね。あなた方だけでは不案内でしょう?」 「え、ええ……。」 確かに不安がないって言えば嘘になる。だから、とってもありがたいとは思うん だけど……。 「あなた方のお陰で、あたくしはまた、こうしてルミア達と再会できたの。そこで、 あなた方にはぜひお礼をしたいのだけれど、その時間もないみたいだから、せめて スクルトを使ってやって欲しいの。微力だとは思うけど、少しでもあなた方の力に なってくれれば嬉しいわ。」 結局、あたし達は、再びスクルトと一緒に旅を続けることになってしまった。 ミナツを夕刻に出発したあたし達三人は、日の落ちた暗い道をサッキ村に向かっ て、ひたすら歩いていた。 幸い、ミナツからサッキまでの道のりは、それほど長くなかったため、夜も遅く ならないうちに到着することができた。 急いで宿を取って、部屋に入って一息ついた後、スクルトは少し複雑な表情を浮 かべながらそう言うと、ため息をついた。 「最初の予定じゃ、この村は昼間に通過して、次のウキ村で泊まるつもりだったん だけど、まあ、仕方ないよな。明日は、ウキ村を昼頃に通過して、その次のヤヨイ 村に泊まるから、ソーラ王の城下町には、あさっての昼前には着けると思うよ。も っとも、何も起きなければだけど。」 スクルトの言葉通り、次の日は特に問題なく旅が続けられて、予定通りヤヨイ村 に泊まることができた。 そして、いよいよ旅の最後の日。朝から歩き続けること数時間。昼近くになって、 ようやく道の先の方にソーラ王のお城が見え始めていた。 −−− 六章終わり
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