空中分解2 #0637の修正
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三章 放浪・1 「康司!」 あたしは、思わず叫んで、その途端に目が覚めた。 気が付くと、そよ風に草がサワサワと揺らいでいる。 ゆっくりと起き上がって辺りを見回すと、あたしは波のようにうねる広い草原の 中に倒れていたことが判る。 「ふう。」 あたしは思わず頭をかかえた。一瞬夢かと思ったけど、夢じゃない証拠に、あた しの手には康司と離れた瞬間に引っかかれた爪痕が残っていた。やっぱりさっきの は夢なんかじゃなかったんだ。 でも、そうだとしたら、康司はどこに行ってしまったのかしら? しばらくの間、康司とはぐれてしまった寂しさや、この先どうしたらいいのか判 らない不安で、胸の中が一杯になっていて、何もする気になれなかった。 「ここ、どこなんだろう。」 なんとか気を取り直して涙を拭き、そして再び辺りを見回す。一面、草、草、草 ばかり。風に波打つ様は、まるで緑の大海原のよう。 しばらく呆けてたけど、こんなことしてたって事態が良くなるとは思えない。そ れなら自分でなんとかしなくちゃね。とにかく、康司に会いたいわ。まずは康司を 探さなければ。 そして、あの博美の態度。よく判らないけど、絶対に変だわ。調べてみなくちゃ。 そのためには、なんとかしてお城にもどらないとね。 草原の中に立ち上がり、もう一度周りを見回す。と、彼方に何かが建っているの が見える。 他に見えるものはないし、誰か人に会って、ここがどこなのかを聞かなきゃいけ ないんだから、最初にすることは、とにかく人を探すことよね。だとしたら、ああ いう人工的な建造物に向かって行くのが一番だわ。 あたしは、その建っているものに向かって歩き始めた。 ひたすら続く草の群れ。あたしは足の先を緑色に染めながら歩き続けた。 途中休みながらのゆっくりしたペースだったけど、それでも三時間くらい歩いた かしら。 遥か彼方に建っていたものは、少しづつ大きくなっていって、やがてそれが何な のか判るようになってきた。 あれ、風車ね。あんまり大きくはないけれど、風が吹くのに従ってゆっくりと回 っている。 それにしても、嫌になるほど草原が続くわね。たまに見るだけなら、ひたすらだ だっ広い草原もいいけど、これだけ歩く羽目になると、もうたくさん。普通の道が 恋しい。 それでも何とか一時間ほど歩き続けると、風車はもう目の前。あたしは最後には 疲れも忘れて走りだしていた。と……と、何よ、これ! 風車の下には普通の建物が建っていた。それはそれでいいんだけど、その建物の 前に通っていた一本の平坦な道。もうやだ、あたし。 その道は、あたしが来たのとほとんど同じ方向にまっすぐに延びていた。 つまり、あたしが最初に倒れていた場所から、そんなに離れていないところに道 が通ってたっていうわけ。ちょっと方向を変えれば、すぐに道にぶつかったってこ となのよね。あまり広くない道だから草に隠れて見えなかったみたい。こんなこと が判ってたらもっと楽に歩けたのに、今までの苦労は何だったのよ! あたしは疲れとめまいを感じて、その場に座り込んだ。でも、とにかく人の住ん でいそうなとこまで辿り付くことができたんだから、まずは、ここがどこなのか聞 くことにしましょ。 あたしは気を取り直して立ち上がり、細い道を横切って、風車のある建物に近付 いた。 建物の軒下には、少し年輩の女性が座っていた。どうやら、ここの家のおかみさ んらしい。だけど、なんかそぐわないって感じなのよね。その人の持ってる雰囲気 が建物の雰囲気に合ってないの。 その人は、あたしに気付くと、ちょっと怪訝な顔をした。 「あの、すみません。ちょっと教えて下さい。ここはどこなんでしょうか?」 「おや、誰かとはぐれでもしたのかい? でも、それにしては旅の格好してないね。 馬車から振り落とされでもしたのかね?」 なんとなく、その人らしからぬ言葉遣いに、あたしは少し拍子抜けをしながらも、 疲れていたので適当に返事をする。 「ええ、まあ……。」 「まあまあ、それは大変だったねえ。それにどうやら、だいぶ疲れてるようだ。よ かったら一休みしていきなさいよ。」 「ありがとうございます……。」 本当に、一気に疲れが噴き出してきた。あたしは、勧められるままに家の中に入 り、そして椅子に腰を降ろした。 「で? お嬢さんはどこから来たんだい? この辺じゃあまり見かけない姿だね。 結構いいドレスを着てるようだけど、どこかの貴族のお姫様かね?」 「いえ、お姫様なんかじゃないんですけど、さっきまでソーラ王のお城にいたんで す。」 「へえ? ソーラ王のお城だって? バカなことをお言いでないよ。王様のお城っ ていったら、男の足で急いで行っても三日はかかる距離じゃないか。」 「えっ? ここはいったい、どこなんですか?」 「ここはシモツっていう村のはずれさ。もう少し先に行くと村の建物が見えてくる よ。だけど、あんた本当に王様のお城から来たのかい?」 「ええ。どうやって来たのか、あたしにもよく判らないんですけど、何か急に弾き 飛ばされたみたいになって、気が付いたら草原の中に倒れていたんです。そしたら、 ここの風車が見えたもので、ずっと歩いて来たんです。」 「ふうん。そういえば確かに、あんたの足は草の汁で汚れているようだね。あたし にゃとても信じられないような話だけど、あんたが嘘を言ってるとも思えないし、 とにかく疲れてるようだからさ、もう少し休んでいきなよ。あとで、ここがどの辺 なのかちゃんと教えてあげるから。」 「ありがとうございます。本当に御迷惑をおかけします。」 そして、あたしはほっとため息をつくと、そのままテーブルに伏せる。と、自分 でも気付かぬうちに眠り込んでしまっていた。 「まったくお袋は人がいいよな。こんな得体の知れない娘の言うことを真に受けて 家の中で休ませてやるんだからさ。それにしてもずうずうしいぜ。よくもまあ、昼 間っからこんな平和な顔して眠ってられるもんだ。」 「そんなことお言いでないよ。姿といい態度といい、間違いなく貴族の娘だよ。王 様のお城にいたって言ってたけど、何かの間違いで迷子になったんだろうからさ。」 そんな会話が聞こえてきて、あたしは目を覚ました。テーブルに突っ伏したまま 寝てたためか、腕がしびれて動かない。 一瞬、どこにいるのか判らなくて、眠い目をこすりながら辺りをキョロキョロ見 回した。そして、ようやく、ここがどこなのか思い出した。 「やっとお目覚めかい。まったくのんきなお嬢さんだぜ。」 おかみさんの脇に、いかにも迷惑そうな表情を浮かべた男がいた。年は結構若い みたい。 と、同時に気付く。あたし、どれくらい眠ってしまったんだろう。 「あ、あの……ごめんなさい! あたし、どれくらい寝てたんでしょう?」 あわてて戸口を開けて外を見る。陽は既に西に沈みかけていて、辺りは薄暗くな っている。 「す、すみません! ソーラ王のお城はどっちに行ったらいいのか教えて下さい。 急いで行きたいんです。」 あたふたと出かけようとしたあたしの腕を、おかみさんは掴んで言った。 「お待ちよ。せいては事をし損じるってね。今からあわててもロクなことにはなら ないよ。それより今晩はうちに泊まったらどうだい? あまりもてなしはできない けどさ、明日の朝にでも出かけた方がいいと思うよ。」 「でも、これ以上の御迷惑をおかけするのは……それに、心配事があるんです。早 くお城に帰らないと……。」 「だったら、余計にそうだ。言っとくけどね、この辺は昼間でも物騒な所なんだよ。 そんな所で夕方や夜になってから、あんたみたいなお嬢さんが外にいてごらんよ。 たちまち盗賊達の餌食になっちまうのがオチさ。悪いことは言わないから、今晩は 泊まっていきな。」 「まったく、お袋は甘いんだから。本当に貴族の娘かどうか判らないんだぜ。」 「お前も疑り深いね。あ、こいつはあたしの息子でスクルトっていうんだけどね。 御覧の通りの偏屈者さ。でも、なかなかの孝行息子でね。早く嫁さんでも貰えばい いんだろうけど、なかなか来手がなくてね。」 あたしは、不機嫌な顔をしている若い男にペコンとおじぎをして挨拶をした。 「で? お嬢さん。あんた、名前はなんて言うんだい?」 「あ、中沢一美っていいます。ソーラ王のところでお世話になってる者です。」 「ナカザワヒトミ? ずいぶん呼びにくい名前だねえ。ん? そう言えばさっきも ソーラ王のお城から飛ばされてきたって言ってたね。」 そして、おかみさんは、しばらく考え込んでた。しばらくして、 「そういや、前に王様のところに女神が現われて悪魔退治をしたっていう話を聞い たことがある。確か、その女神の名前も何か舌をかみそうな名前だとかって言って たっけ。もしかしたらあんた、それに関係があるんじゃないかい?」 「ええ、まあ……一応、ティアの女神って呼ばれることもありますけど……。」 「へえ、やっぱりそうかい! こりゃ珍しい客人が来たもんだ。それにしても、あ んたがねえ。」 おかみさんは、しげしげとあたしを見る。あたしは恥ずかしくなって下を向いた。 「ティアの女神って、なんだい?」 「お前は、そんなことも知らないのかい? この国にいた悪魔を退治してくれた方 じゃないか。」 「へえ、そんなの聞いたこともないぜ。」 「前にあちこちで噂になったじゃないか。」 そのあと、おかみさんに女神の力を見せてくれだとか、詳しい話を聞かせてくれ だとかせがまれた。でも、力っていったって、好き勝手に出せるものでもないし、 それにあたしが本気で出そうと思わない限り無理な相談なのよね。だから、とりあ えず、あたし以外には触れない玉の付いたペンダントを見せるだけにした。 あとは、あたしの双子の妹の博美のことだとか、悪魔退治をしたときのこととか、 いろんなことを話した。スクルトもいつの間にか不機嫌な顔を止めて、あたしの話 に聞き入っていた。 「そうかい。そういう訳だったのかい。それじゃ心配だろう。よっしゃ、あたしに 任せときな。」 博美の様子が変なこととか、康司とはぐれてしまったこととかを話したら、おか みさんはこう言って胸を叩いた。 「大丈夫だって。悪いようにはしないから。さ、そろそろ御飯にしようかね。お腹 空いたろ? 何ももてなしはできないけどさ、遠慮なく食べとくれ。」 「お早う。よく眠れたかい?」 「あ、お早うございます。ええ、もうぐっすり眠れました。」 夕べ、おかみさんの隣の布団で眠りについたあたしは、横で誰かが起き上がるの を感じて目を覚ました。 いつの間にか朝になっていて、爽やかな光が窓から飛び込んでくる。おかみさん は着替えを済ませると、台所に立った。 あたしは、昨日脱いだドレスを再び着ようとした。と、おかみさんが戻ってきて、 「あ、そうそう、忘れてた。ちょっとお古だけどさ、この服を着ておいた方がいい だろう。」 そして、わりと地味な服を出してくれる。 「そのドレスを着たあんたも可愛いけどね。でも、この辺でそんな格好してたら、 まるっきり襲ってくれって言ってるようなものだからさ、そのドレスはしまってお いた方がいいよ。」 「はい。」 「あ、それからね。なるべくならすぐに女の子だってことが判らないような格好を した方がいいよ。道中はとにかく物騒だからね。その髪も上げて帽子の中に隠した 方がいいと思うよ。」 そして、髪を隠すための帽子も出してくれる。 「本当に、いろいろとすみません。」 そして、あたしは服を着る。少しだぶつき気味なズボンをはいて上着を着ると、 そこにはもはや女の子のあたしはいなかった、なんてのは言い過ぎね。 でも、だぶつき気味の服のおかげで胸は判らないし、体型もうまく隠せてるみた い。これで髪型を変えたりすれば、本当に男の子に見えるかもしれない。 服を着終わった後、顔を洗ってから、おかみさんの台所仕事を手伝った。とは言 っても、できた料理をテーブルの上に運ぶだけだったけど。 「やっぱり、女の子が家にいるってのはいいねえ。お前も早いとこ嫁さんをもらい なよ。」 「うるせえな。判ってるよ。」 「どうせなら、この旅の途中でもいいからさ、働き者で器量良しの娘さんでもつか まえてきな。」 「なあ、お袋はいったいどういうつもりで俺を旅立たせるんだ? 薬が欲しいのか? それとも嫁さんを見つけて来いってことなのか?」 「おや、今ごろ気付いたのかい? もちろん、嫁さんの方に決まってるじゃないか。 なんてのは冗談だけどさ、なるべく早いとこ行ってきておくれ。」 「判ってるって。」 そう言いながら、スクルトは旅支度をしている。 と、おかみさんは、あたしの方を向いて、 「ちょいと邪魔になるかもしれないけどさ、このスクルトも連れていっておくれよ。 ちょうどね、キサラっていう街に薬を買いに行ってもらうことになってたのさ。途 中でソーラ王の城下町を通るから、それまでずっと一緒に行くことになるんだけど、 何かの役には立つかもしれないからさ。」 「おい、そりゃちょっとひでえ言い方じゃねえか?」 「まあね。とにかく、そういう訳だからさ、こいつのこと、よろしく頼むよ。」 「あ、あたしこそ、よろしく。」 −−− 続く
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