空中分解2 #0635の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
誰もが、特に、現実的に考えようとする江守と浦上が疑心暗鬼に陥っている ようでした。顔を合わせても、ほとんど話をしません。そういう状態で迎えた 夕食でした。 「……大杉さんがいない」 誰かがこぼしました。そう言われると、そうなのです。大杉老人の姿が見え ません。夕食をひとまずおいといての、捜索とあいなりました。 屋敷内だけでなく、その周辺まで、ついには吊り橋の落とされた谷の辺りま で見に行きましたが、どこにも大杉の姿はありません。 「おかしい。どこに行ったんだろう?」 「井戸にも落ちてませんでした」 結局、大杉老人は見つかりませんでした。 陰うつたる雰囲気の中、遅い夕食は終りました。 「浦上さん」 部屋に戻ろうとしていた浦上に、会長が声をかけます。 「こう、互いに疑いあっていてもしょうがない。現実的に考えている私とあな たとで、善後策をこうじませんか」 「結構ですね」 「それはどちらの意味の<結構>ですか?」 「あん?」 ぽかんとした浦上でしたが、やがて言葉の意味を飲み込むと、笑いながら答 えました。 「承諾の意味ですよ。どうします? あなたの部屋に行きましょうか」 「ん……。いや、浦上さんの部屋がいい。会長の部屋には、色々と邪魔が入り そうですから」 「停電が直ってよかったですね。それにしても他の人はみんな、呪いのせいだ と考えているようですねえ」 江守がぼやきました。浦上も同調の意を示します。 uそう。何がなんでも、超常現象のせいにしたいらしい。困ったことです」 「よほど、好きなんですね、この類のことが」 「そうとも取れますが、違うかもしれませんよ」 浦上は意味ありげに言います。 「何ですか? 気になりますね」 「いえね、自分が犯人なものだから、超常現象のせいにしたがっているとは考 えられないかと」 「ああ、なるほどなるほど。そうなれば、犯人にとって好都合でしょうね」 しきりに感心する江守です。 「となると、我々は容疑の枠から除外ですかね?」 「さて、難しいですな」 二人はひとしきり笑ってから、また静かになりました。 「失礼ですが」 不意に浦上が言いました。 「江守会長。会長が犯人ならば、今ここで名乗ってください。誰にも言いませ んから」 「困りましたな」 癖なのか、江守はまた苦笑します。 「私としては、違うとしか言いようがない。それにその台詞は、そっくり、あ なたにもお返しできる」 「……それは理屈ですねえ」 黙り込む二人。 「こういう場合、信頼が大切です。今、こうして相談するからには、我々二人 は犯人ではないというのが大前提です」 会長がゆっくりと言いました。少し考えるようにして、浦上も言いました。 「……分かりました。そうしましょう。いや、失礼なことを言って、すみませ ん」 「いや、構いません。それで、善後策ですが、ここはやはり、皆さんの安全を 考えるべきでしょう。次の犯行がある可能性が高いですから」 「全員が一緒にいれば、新たな犯行は防げると思いますが」 「それは私も考えました。ですが、我々はともかく、他の女性二人は、どうも うまくいきそうにありませんな」 「それは言える。あ、今、思い付いたんですが、料理のこと、心配していませ んか?」 u料理? ああ、女性のどちらかが犯人で、毒を入れるということですか?」 「そうです」 「分かりませんが、犯人が彼女達のどちらかで、全員を殺すつもりであれば、 ナ初から全員の食事に毒を入れとけばいいと思うんです。それをしていないと いうことは、彼女らが犯人でないか、毒を入れるつもりがないか、全員を殺す つもりはないかのいずれかです」 「彼女達のどちらもが犯人でないとし、我々のどちらも犯人でないとすると、 誰が犯人です?」 「大杉さんとなりますかなあ。あの人はいなくなっただけで、死んだと決まっ た訳じゃありませんから」 「そうか。そうだった。 大杉さんが犯人の可能性も捨てられないなあ」 今度は浦上の方が、感心します。 「今のところ、犯人を絞り込むに至りませんね」 「このまま無駄に夜更しするのも、考えものですよ。万が一のときに体力がな 驍「とね」 そういう訳で、江守は浦上の部屋から退出しました。お互い、鍵をかけるこ とを確認しあってから。 翌朝、三日目です。さわやかな朝でしたが、またも惨事が待ち受けていたの です。 「あ、ああ……」 午前九時近くになって、やっと起きてきた峰岸は、庭にそれを発見して、う めきました。死体でした。 「会長! 江守会長!」 死んでいたのは江守でした。墜落死したようです。 「これは首の骨が折れてるな」 遺体を見た浦上は、気持ち悪そうに言いました。 「どこから落ちたのかしら?」 「恐らく、屋敷の屋上ですね」 浦上は見上げました。屋上には手すりも何もありません。 「誰でも上がれましたわよね。屋上には」 峰岸が深刻な言い方をしました。 「峰岸さんは、呪いのせいだと言ってませんでしたか? 屋上に出れるかなん て、関係ないでしょう」 「やっぱり、犯人は人間かなとも思ったのよ」 少し怒ったのか、峰岸の声が高くなりました。 「とにかく、戻りません? 食事もまだですし」 寺山は二人を止めるように言いました。 「私、思うんですけど」 食事が終ると、寺山が言い出しました。 「柔道をやっていた江守さんを突き落とすなんて、犯人はどんな力の持ち主で しょうね?」 残りの二人は、顔を見合わせます。この女性は何を言いたいのだろうといっ た表情です。 「考えられるのは、江守さんに対抗できる力あるいは技の持ち主、つまり大杉 さんが怪しいと思うんです。あの人は剣道ができるのですもの。ですから、こ の後もう一度、捜しませんか」 uそれはいいですね。しかし、大杉さんが犯人となると、こちらの身が危ない なあ。かたまって捜索しますか」 「いえ、それでは効率が悪いですわ。私は構いませんから、一人で屋敷の中を 捜します。浦上さんと峰岸さんは外をお願いします」 「……僕はそれでいいですが、峰岸さんは?」 浦上が峰岸の方を振り返りますと、 「いいわ。私も外を捜します。ただし、一緒にね。そうじゃないと不安だから」 と言いました。 「いないですねえ」 浦上が言いました。彼と峰岸の二人は、再び谷の方を捜しているのです。 「どこに行ったんですかね」 黙っている峰岸に、浦上はしきりに話しかけるのですが、それでも彼女は口 を開きません。 「……帰りますか。見つからないですから」 浦上は仕方なく、そう言いました。 ところが帰ってみると、寺山の姿が見あたりません。屋敷内を捜すと言って いた人が、消えてしまったのです。 「これはいったい……。峰岸さん?」 どんどん先に進んでいた浦上は、背後でまだ黙っている峰岸に、苛立ちを感 じながら問いかけました。 振り返った瞬間、浦上は腹部に激痛を覚えました。 「み、峰岸、さん?」 眼鏡が落ちました。がちゃんと短い悲鳴をあげて。 「あなたが犯人なのね! 私も殺そうったって、そうはいかないわ!」 叫ぶ峰岸の両手には、しっかりと出刃包丁が握られていたのです! 峰岸は包丁を構え直すと、倒れた浦上の胸に突き立てました。それを苦労し て引く抜くともう一度! 血が峰岸の顔に飛び散ります。それがまた、彼女の内なる恐怖に衝撃を与え るのか、包丁をめった刺しにするのです。顔を血で赤くした、狂った女のその 様! 見た者でないと、この恐怖は到底分からないでしょう。鬼。赤鬼のよう なのです! 浦上にはもう息はありませんでした。それでも峰岸は手を止めません。死の 舞のようです……。 「あなたしかいないのよ! 人形を細工できたのは、やっぱりあなただけ。外 に出ていたあなたが何かしたのよ! 大杉さんをどうかして殺せるのも、江守 さんを突き落とせるのも、残った人の中じゃあ、男のあなたしか考えられない 驍! 私まで殺されてたまるもんですか!」 狂ったように叫び続ける赤い女でした……。 しかし。彼女は寺山が消えた理由には、思い当たっていなかったようです。 今、峰岸の前には、輪になったロープがあります。天井の梁からぶら下がっ ているのです。 峰岸の足元には、椅子があります。椅子を踏台にしているのです。 峰岸は自分の首を輪の中に入れました。そして、踏台を蹴りました。 二分後、呪われていると言われた屋敷には、生きている人間の姿はなくなり ました。 |CONTIN.
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「空中分解2」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE