空中分解2 #0619の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「エックスって、アルファベットのですか? でも確か、現場のホテルはどち らかと言うと、H字に似てるんじゃありませんでしたか」 目を丸くして聞き返す下田達。 「ええ、そうです。Hのまん中にもう一本、横棒を入れた感じです。そいつは 真正面から見た場合でして、横から見ればただの棒、つまりIの字でしょう。 証言してくれた酔っぱらいのじいさんも、横から見たんですね。Iの中程から 斜めに線が飛び出したとか何とか。それでびっくりして、よく見ようと目をこ すっている内に、また元のIになったと言ってます」 「何が何だか分からない」 花畑は頭を抱えてしまった。下田も困惑した表情になりながらも、言葉を継 いだ。 「じいさんがそれを見たと言っておるのは、何時頃ですか」 「酔ってて記憶が曖昧らしいんですが、一応、午後六時頃だと言ってました」 「ははあ。死亡推定時刻には重なりますね。で、そのじいさん、何者なんで?」 「現場辺りをうろついている浮浪者紛いの年寄りです。日雇い労働で得た金の 大半を酒につぎ込むような人物ですから、大抵、酔ってましてね」 「証言として、重視する必要がありますかね」 「さあて、そいつは何とも言えませんなあ」 腕組をして答えた吉田。それを真似するつもりはなかったのだが、同じ様な 格好で考え込んでいた花畑が、不意に言った。 「例の探偵に頼んではどうですかね。しゃくですが」 「例のって、地天馬さんか? あの人は確か、何とか島に招かれていて、今は こっちにいないはずだ」 下田が浮かない顔で答える。吉田は感心したような顔つきになり、 「ほう、そちらにも探偵に知合いがおられますか」 と言い出した。 「そちらもと言われますと?」 「いや、私の方にもね、知合いでいるんですよ。何と言いますか、名探偵が」 「そうでしたか。うん、そう言えば、地天馬さんも自分で名探偵だって名乗っ てましたよ。自信過剰で嫌みなところもあるが、かなりの線を行ってます」 「地天馬とは変わった名前だ。こちらの方は流って言う名前で、これも変わっ てますな。嫌みなところは一緒だが、自信過剰ってことはないですよ。自分で 名探偵だなんて、言ったりもしませんしね」 はははと笑いながら、頭を掻く吉田。そして続ける。 「ま、そういう人達に頼むのは、我々がお手上げになってからでいいでしょう。 どうやら連続殺人事件として、合同捜査本部が組まれるみたいですし、これか らです」 「そうですな。弱気になっても始まらない。花畑君も気を引き締めたまえ」 下田に言われ、あの探偵のせいで叱られた、と逆恨みしたかどうか、花畑は 少しふてくされた。 「柳川さんが撮った写真の中で、一番センセーショナルと言いますか、話題に なったのは何でしょうな」 よく柳川が出入りしていた写真週刊誌の編集を訪ねた花畑は、編集長と書い た席に座っている男に訪ねた。 「いやあ、わしはあんまり知らんのです。全体の編集なんかを受け持つもんで すから」 初老のその男は、鼻の下の白い物の交じる髭を一撫でした。 「ですからね、そんなあなたでも知っているような写真はなかったかと、聞い ているのです」 「そうですなあ。どんなに古くてもいいんで?」 「構いません」 「となると、やっぱり、あれだな」 「あれと言いますと?」 その言葉に反応して、編集長は誰かの名前を呼び、その男に何か耳打ちした。 「今、持って来させますから」 しばらくすると、さっきの男が古そうな週刊誌を持って来た。 「ご苦労ご苦労。ええと、ああ、これだこれだ」 せわしなくページを繰っていた編集長は、週刊誌の丁度まん中辺りを開いて みせた。「東洋丸事故・見捨てられた被災者」とある。大きく2ページを取っ て、溺れている若い男の苦しげな表情。ややピントがあっていないものの、迫 力はある。そして隅に四角くスペースを取り、一人の若い女性の写真。 「これがそうでしたか。私も見ました」 「そりゃ光栄だ。この写真は、ウチの独占だから、この本で見たに違いありま せんや。ワハハ……」 豪快に笑ってから、編集長はいきさつを話し始めた。 「……という訳でしてな。この前死んだ村松君が柳川君から買ったもんです。 最初見たとき、こいつはいける! と思いましたねえ」 「ははあ。それでこちらの女性が、ホテル社長の娘で、冷たい女だと言われた 人ですか。何て名前でしたか」 「お忘れですか? そいつはひどいな。曳間了子、ですよ。曳間ホテルの社長 の一人娘で、それはもう我がままに育ったとか何とか。いや、わしらも本当の とこ、ほとんど何も知らんのですが、世論に合わせるために色々とでっち上げ たりしましてな。こんなこと、刑事さんの前でする話じゃないですかね」 だが、もう花畑は、後半はほとんど聞いていなかった。曳間? 何と言うこ とだ。こんなところでつながっているとは! 「どうかしましたか?」 花畑が黙ってしまったので、顔をのぞき込むようにする編集長。 「あ、いえ。それで冷たい女だとか何とか言われてましたが、本当のところ、 この女の人はこの男を好いていたんでしょ?」 そうじゃないと困る、と言わんばかりの勢いである。 「さあ、どうでしょうかねえ。確かに、対面のためとかで、曳間の社長がそう 仕向けたと言われたりもしましたが、実際はどうだったんでしょうね」 編集長の答えを聞き、頼りにならんなと判断した花畑。 「協力、どうも。ここらで失礼します」 と早々に退出した。 「そうだったか。十年前の事故写真を撮っていたのが、柳川英明だったとは」 感嘆してしまったかのような吉田警部。 「そうだったんです。その写真を買ったのが村松と来りゃ、これはもう、曳間 了子ですよ!」 興奮した口調でまくしたてた花畑であったが、それを下田が押さえる。 「待て待て。確か、了子はその写真の男なんて知らんと言ったんじゃなかった か?」 「内海を知らないと言ったのは、了子の親父がホテルの対面のために言わせた かもしれないんです」 「そうか。とりあえず、曳間了子のアリバイを調べるか」 下田は断を下した。 「あらら、私のアリバイ調べだなんて、警察はよほどお困りのようですわね」 ころころと喉を鳴らして笑う曳間了子。口を押さえた手のマニキュアが目立 つ。 「そうなんです。もうどうしようもなく、行き詰まってましてね。私としては こんなことは本意じゃないのですが、上からの命令で、関係者全員のアリバイ を洗えって」 浜本刑事は下手に出ながら、様子を窺う。 「まあ、お仕事とは言え、大変ですわね。そうね、午後五時から七時でしたわ よね? 六時までは会議が続いていましたわ。六時から十五分だけ休憩をとり ました。そしてまた会議を続けましたわ」 「会議中は皆さんと一緒ですね、もちろん。それじゃあ、六時からの十五分間 に、どなたかと一緒にいましたか」 ここぞとばかりに切り込む刑事。 「そうですわねえ……。最初のほんの一分でしたら、幹部の人と一緒におりま したが、その後、一人になりたいと私から言いましたので、一人でした」 「ははあ。それで、お一人で何をなさってましたか」 「別に……。お化粧をなおしたり、ぶらぶら歩いてみたり」 「どうも、結構です。あ、それとですね、ツインホテルの事件の一週間前二週 間前のことなんて、分かりますかね」 「ちょっと、難しいと思いますわ。スケジュールが残っていれば、分かるので すが、大抵はすぐ処分してしまいますので。一応、調べさせておきます」 「どうもすいませんね。これで本当に結構です。失礼しました」 浜本は慇懃な態度で一礼して、部屋を出るふりをした。そう、ふりである。 彼はドアの所で立ち止まると、今、思い付いたんだという風に片手を上げて振 り返り、切札をぶつけた。 「あ、もう一つだけ、知らせときますか。十年前の東洋丸沈没事故、ご存じで すね? その事故でここの従業員が溺れている姿を写した人なんですがねえ」 「それが……どうかしまして?」 動揺したように見える了子。 「いや、あなたの恋人だと噂された内海さんて人のことですよ」 浜本は曖昧に答え、出て行った。手ごたえはあったと思う。 「……ということでして、結局、関口春美殺しと村松殺しのアリバイはないで すね。事故の話を持ち出したときは、かなり動揺したみたいなんですが」 「問題は柳川殺しか」 浜本刑事から報告を受けた吉田は、顎を撫でながら言った。 「十五分間あれば、何とか殺せるんじゃないですかね」 楽観的な言い方をするのは、花畑刑事。 「六階からエレベーターで一階に降りて、一分ぐらいでしょう。昇るのにも一 分で残りは十三分。十分あれば殺せるんじゃないですか」 「それがだめなんですよ。エレベーターは改装工事中につき、動いていないん です」 浜本が言ったこの言葉は、衝撃を与えるのに充分であった。 「何だって? 本当か?」 「本当ですよ」 「となると……」 今度は下田警部が口を開く。 「足を使って階段六階分をかけ降りるのに、二分三十秒は見るべきだろうな。 登りはもっときついだろう。女だと、三分と三十秒かな。足して六分。残り九 分で殺しはできるかな」 「六分じゃありませんよ」 口を挟んだのは吉田。 「今の時間は全力で走ったと考えてのものでしょう? そんなに全力で走った りしたら、息が切れて怪しまれますよ、会議の他の人に」 「じゃあ、少なくとも帰りは歩くのか」 「いえ、降りるのだって、息を切らしてちゃ、柳川が変に思います。それに息 を切らした女が男を殴り殺せますかね」 「それは後ろからガツンとやったとして……。うーん、それでも苦しいな」 またも頭を抱え込む刑事達。 「階段の手すりをすーっと滑るのはどうでしょう」 「あ、花畑刑事、それもだめなんです。改装工事中でしょう。色々塗料とかあ って、服が汚れます。これまた怪しまれる元になりますよ」 浜本が否定したのに続いて、下田が言う。 「だいたい、あの了子がそんなことするか? 想像できんぞ、私には」 「とにかく、十五分じゃあ、無理でしょう」 と吉田が断定的に言った。 「それなら、誰かに頼んだかな。会社の誰かにでも」 「しかし考えてもみたまえ、花畑君。柳川があそこに来ていたのは、了子が呼 び出したからだろう。了子は個人的動機で柳川を殺そうとしたはずだ。そんな 犯行に、会社の者が手を貸すかね」 下田は単独犯行説らしい。 「了子は犯人じゃないんですかね」 浜本がぽつりと漏らした。動機を考えれば、一連の犯行に最も適合するのは 了子に違いないのだが、どうも肝心の柳川殺しがこうでは、犯人じゃないのか もしれない。そういう雰囲気が、刑事達の間でできつつあった。 「どうですの、その後の進展は」 興味がないような調子で聞いてくる了子。 「さっぱりなんです。これはもう、どうにもなりません。それでですね、曳間 さん。あなたとしては誰か有力な容疑者に思い当たりませんか」 「そうねえ。そう言えば刑事さん、この間来たとき、内海なんとかって言って いたわね」 「はい! それが?」 了子の言葉に、餌に食いついたかと色めきだった浜本であったが、次の彼女 の言葉は違った。 「内海の恋人が私だなんて言ってらしたけど、大違いよ。確かねえ、彼の恋人 は野坂美也子って言うのよ。何だか友達を売るみたいで嫌なんだけど、彼女な ら動機はあるわ」 「野坂美也子ですね?」 字を聞きながらメモをとる浜本。 「それでどういう関係でしょう」 「大学での友達だったの。今は彼女、銀行に勤めていますわ、多分。まだ独身。 あ、これは私もだけれど」 「住所とか、分かります?」 「ええ、ちょっとお待になって」 そうして野坂美也子の住所や電話番号等を聞き、浜本はメモをした。 「いやあ、助かります。これで上から叱られずにすみそうだ」 「どういたしまして。もうお越しにならないことを願いますわ」 了子の皮肉を込めたような言い方が、浜本の耳に届いた。 −以下4−
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