空中分解2 #0613の修正
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四章 ラミアとファルル 「どうじゃ、ラミアよ。ファルル殿との結婚の義。そろそろ取り決めようかと思う のじゃが。」 ランベル卿は、とある朝食の後で、目の前のラミアに話を切り出した。 今日はラミアがいるため、ルミアの出番はない。 「ええ。ですが、わたくしとしては、もう少しファルル様の人柄に触れてみたい気 がするのです。」 「そうか。それなら、もう少し待ってもらうように話をするとしよう。じゃがな、 ラミア。先方はお前の事をいたく気に入っておられてな。早く嫁に欲しいと矢のよ うな催促なのじゃ。無論、ワシとしても異存はない。じゃが、お前がその気になら ないことにはな。お前達の意志と無関係に話を進めることも出来ないわけではない のだが、ここで無理をしても決して良い結果にはならないじゃろうと思って、待っ ておるのじゃよ。」 「はい。」 「なあ、ラミアよ。ワシも、そろそろ年じゃ。早く孫の顔など見たいものだな。」 「お父様……。」 ラミアは真っ赤になっていた。 「今日もまた、ファルル殿が見えられることになっておる。ラミアよ。早くその気 になってくれるようにワシも願っておるぞ。」 「ええ……。」 ラミアは曖昧に返事をする。 それにしても、ルミアったら、最初からフロール卿に気に入られてしまった上に、 矢のような催促を受けるほど待ち望まれているなんて、本当に、驚いたものだわ。 その上、身代りであることをお父様やお母様にもまったく気付かせずにいるんだから……。 ラミアは、ルミアの身代りとしての才能に舌を巻いていた。しかし、今はそのこ とに驚いているときではない。 ファルルを出迎えるべく、ラミアは部屋に戻って服を着替え、化粧を施す。 やがて、フロール家よりファルルの一行が到着。ラミアはゆっくりと姿を現わし て、一行を出迎える。そして、今までルミアがしていたように、ファルルと一緒に 過ごしたのだった。 「ファルルよ。浮かぬ顔をして、どうしたのじゃ?」 フロール家に戻ったファルルが、なんとなく浮かない顔をしているのに気付いた フロール卿は、それとなく聞いてみた。 最初のうちは適当に答えていたファルルだったが、何度か同じことを聞かれ、や がてポツリポツリと話し始めた。 「昨日ランベル卿のところから帰って参ったのは父上も御存知ですよね。」 「もちろんじゃが。」 「実は、昨日はなぜかラミア殿が別人のように感じられたのです。以前、何度か訪 ねたときには、そのような感じは受けなかったのですが。」 「じゃが、別の人間をラミア殿に仕立て上げたとしても、それが得策とは、とても 思えぬな。」 「そうなのです。ですが、もしや、何かの事件があってラミア殿が行方不明になっ ていたとしたら、そして、そのことを我々に知られぬようにするために、身代りの 者がラミア殿のふりをしていたとしたら……。」 「うむ。考えられなくもないな。しかし、ランベル卿が、そのような画策をすると も思えぬ。」 「ええ。私も、そう考えました。それで、訳が判らなくなってしまったのです。」 「そうか。じゃがな、ファルルよ。案ずる程のものではないかも知れぬぞ。」 「それはまた、なぜゆえに?」 「女性というのはな、時には気分がすぐれず、ひどく態度が変わることがあるもの なのじゃ。しかし数日もすれば、また元に戻るのじゃよ。」 「そんなものなのですか。」 「不安であれば、数日後に、もう一度訪ねてみればよかろう。おそらくは、ラミア 殿の機嫌も直っておるじゃろうからな。」 「はい。」 フロール卿の忠告通り、ファルルは数日後、再びラミアを訪ねた。 偶然、ラミアは外出中で、ルミアがファルルの相手をしたため、ファルルは元の ラミアに戻ったものと思って、安心して帰途に着いたのだった。 「どうじゃ、ラミア。まだ決心は付かぬか?」 その後、何度かファルルの訪問を受け、そろそろ良い頃だろうと思ったランベル 卿は、再びラミアに切り出した。 「いいえ。わたくし、心の整理も付きましたし、ファルル殿の元へ嫁ぐ決心もでき ております。」 「そうか。では、フロール卿に、そのようにお伝えするとしよう。」 ランベル卿は上機嫌だった。が、ラミアは複雑な心境だった。 決心を付けるために、数日前、街に出かけたラミアは、いつものようにフェミル と過ごし、表面上はいつものように振舞いながらも、心の中で別れの言葉を述べて きたのだ。そして、それを最後に二度とフェミルと会うことはできなくなると判っ てはいたのだが、いざ、このように答えてみると、何か心の中に隙間ができたよう な気がして、虚ろな気分になってしまった。 ラミアは自分の部屋に戻ると、シノーラが何やら話しかけてきたことにも気付か ず、しばらくの間、ぼうっとしていた。 「……ミア様。ラミア様! いかがなされたのですか?」 シノーラに何度か呼ばれて、ようやく我に返るラミア。 「あ、ああ、シノーラ。ごめんなさい。何か用?」 「いったい、どうなされたのです? シノーラがいくらお呼びしても気が付かれな かったようですけれど。」 「実はね、いよいよフロール卿のファルル様の元へ嫁ぐことが決まりそうなの。」 「まあ、それはおめでとうございます。」 「ありがとう。でもね、あたくし、ちょっと複雑な気分なの。」 とうとう、ラミア様とファルル様の結婚が決まってしまうんだわ。 ラミアとシノーラの会話を聞いていたルミアは、悲しくなった。 ああ、いよいよお別れなのですね、ファルル様……。 ルミアは、そっと部屋へ戻って、ファルルへ思いを馳せた。 そのころ、ランベル家の使者は既にフロール家へと道を急いでいた。 「ファルル、喜べ。ラミア殿との結婚も、ようやく決まることになったぞ。ランベ ル家からの使者が、そのことを伝えに来たのじゃ。今しがた、承諾の返事を託した から、数日のうちに、婚約のためにラミア殿が参られるじゃろう。ん? どうした のじゃ? ファルルよ。」 ランベル家からの使者に、上機嫌になっていたフロール卿は、ファルルの浮かな い様子に気付き、不審に思って問いただす。 「いえ、ちょっと不審に思ったので。でも、恐らく私の思い過ごしでしょう。」 ファルルはフロール卿に、自分の思い過ごしだと言ってはみたものの、実際にそ うだとは思っていなかった。明らかにラミアの様子が変なのだ。 ここ何度かは特に変だと思っていた。そのうちの何度かは最初に会ったときと同 じように素敵な女性なのだが、残りの何度かは、どうも人が変わったように思える のだ。もちろん、素敵でないというわけではないのだが、ファルルには何か違うよ うに思えてならなかった。 数日後、ランベル卿とラミアの一行が、結婚の義について取り決め、同時に婚約 を行なうためにフロール家を訪ねた。 ランベル卿は到着すると、すぐにフロール卿と結婚の義について話し合いを始め る。ファルルとラミアも同席していたが、なぜかファルルの表情は晴れることがな かった。 やがて、話し合いも終わり、結婚の義について様々なことが決定されると、続い て婚約の儀式が行なわれることになった。が、ファルルの表情は相変わらず浮かな かった。 「ファルルよ。どうしたのじゃ? この期に及んで気後れしたのではあるまいな?」 「いえ、そうではないのですが、ラミア殿が別人のような気がするのです。」 「なんですと?」 その言葉が耳に入ったランベル卿は、思わず大声を上げていた。 「貴殿は、このラミアがラミアではないと申されるのか?」 「いえ、確信はないのですが、以前から何度も会う度に何か違和感を覚えていたの です。最初の頃と明らかに違う別の誰かがラミア殿の名を語っている、そんな感じ がしてならないのです。」 「なんと無礼な!」 ファルルの思いもよらぬ言葉に、ランベル卿はいきり立っていた。 「自分の妻となる女が判らぬような者に、大事な娘をやる訳にはいかぬ! 残念だ が、この話はなかったことにしてもらおう!」 そして、同席していた妻マリカの制止も聞かずに、さっさと席を立つと乱暴に部 屋を出ていった。 「あの若造が! いったい、人の娘を何だと思っておるのだ!」 フロール家からの帰り道、ランベル卿はブツブツと文句を言っていた。 マリカは隣で心配そうに夫の顔を見つめている。 しかし、ラミアは別の事を考えていた。 お父様やお母様には気付かれていないというのに、なぜファルル様に違和感が生 じてしまったのだろう。ファルル様の相手として、どういう態度を取っていたのか、 帰ったらルミアに詳しく聞いてみないといけないわね。 突然訪れた思いがけない顛末に、ラミアは少しショックを受けながらも、馬車の 中でそんなことを考えていた。これをきっかけにして、ランベル家とフロール家の 友好関係にヒビが入るかもしれないなどということは、今のラミアには考える余地 もなかった。 行きの和やかなムードとは反対に、帰りは殺伐とした空気が馬車の中を流れ、ラ ンベル卿の命令もあって、馬車はできる限りの速度で突っ走っていた。 やがて、馬車が屋敷に到着する。ランベル卿は馬車を降りると、さっさと書斎に 引き篭ってしまった。マリカもその後に従って行き、ラミアは一人寂しく部屋に戻 った。 「まったく、あの若造めが……。」 いつまでもブツブツとつぶやいているランベル卿に、マリカがちょっと口をはさ んだ。 「でも、ファルル殿の言われることにも、もっともな点があるように感じるのは、 わたくしの気のせいでしょうか?」 「マリカ。お前まで、そのようなことを申すのか。」 「いえ、ラミアはラミアですわ。ですが、あなたは気付きませんでしたか? わた くし、このところ、ラミアの様子が変だと思うのですけれど。」 「ラミアの様子が変だと?」 「ええ。どう言えばいいのかしら。そう、わたくしにも、何か違和感があるように 思えてならないのです。ファルル殿の言われたのとは逆なのですけれど。」 「何じゃと?」 「確かファルル殿は、今日のラミアは最初に会った頃と違うと言われましたよね? ですが、わたくしには、最近のラミアの様子が、以前や今日のものとは違うように 感じられているのです。今までは、わたくしの思い過ごしかと思っていたのですけ れど、ファルル殿に、あのように指摘をされると、気になってしまって……。」 「うむ……。」 マリカの言葉に、ランベル卿は考え込んだ。 先程はファルルの言葉に逆上してしまったが、しかし、冷静になって考えてみれ ば一理あるようにも思える。ましてや、マリカまでもが似たようなことを言い出す となると……。 「ラミアを呼べ。いや待て、ワシの方から行くとしよう。」 最初はラミアを呼びつけようと思ったランベル卿だったが、ふと気になって、自 らラミアの部屋に赴くことにした。 ちょうど、部屋の中では、ラミアがルミアを呼んで、ラミアの身代りになってい たときの行動を詳しく聞き出している最中だった。 扉の前で、その話し声を耳にしたランベル卿は、ノックもせずに扉を開けた。 ビクッとして振り返るラミアとシノーラ。そして、もう一人、ラミアそっくりの 顔をして背格好までもラミアそっくりの娘が一人。 その瞬間、ランベル卿はすべてを理解していた。 「ラミア。その娘は誰じゃ?」 「お、お父様!」 ラミアは、ようやく声を出した。 「今日、ファルル殿は、お前がお前ではないようだと言った。ワシは、そのとき逆 上してしまったが、今またマリカが同じようなことを言ったのでな。気になって来 てみたというわけじゃ。ラミア、お前は、このワシに恥をかかせおったな!」 バシーン! ランベル卿の怒りの平手がラミアの頬に飛び、ラミアは床に叩きつけられる。 そして、震えているシノーラには目もくれず、同じく震えているルミアの腕を掴 むと、引きずるようにして部屋を出た。 部屋の中ではシノーラとマリカが慌ててラミアを抱き起こし介抱する。 ランベル卿は、そのままルミアを引きずっていき、途中で召使いを呼ぶと、 「フロール家にお詫びの使者を出すんだ! そして、くれぐれもそそうのないよう に、丁寧に詫びさせろ! あとからワシも行くつもりだが、急なことなので、まず 使者に行ってもらうことにする。急げ!」 慌てふためいて使者の手配をする召使いを横目で見ながら、さらに別の召使いを 呼ぶと、ルミアを広間まで引きずっていって、椅子に縛り付ける。 「まずは、お前の名を聞こう。名は何という?」 「ル、ルミアと申します。」 ルミアの声は震えていた。 「なぜ、ラミアと入れ替わって、我々を騙したのだ?」 −−− 続く
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