空中分解2 #0612の修正
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三章 フェミル 「やれやれ。どいつもこいつも、結局は金目当てなんだよな。」 ニコニコと媚びへつらいながら御機嫌伺いをする連中。過度の色気を振りまいて 誘惑しようとする女達。金欲しさに集まってくるロクでもない人間達の態度にうん ざりしながら、フェミルは一気に酒を流し込んだ。 そこまで判っているんだから、いい加減に遊び歩くことなどやめればいいと自分 でも思うのだが、かといって、お堅い雰囲気のフロール家にじっとしているのは我 慢できない。 はっきり金目当てと判ってる連中と付き合ってる方が、相手の心が判る分だけま だマシかな、とフェミルは思った。しかし、やはりうんざりする。 そんなときだった。フェミルの目に一人の女の姿が目に入ったのは。 その女は、遊び慣れたふうでもなく、かといって場違いなほど真面目そうな態度 というわけでもない。しかし、何かアンバランスな感じがしていた。そして、フェ ミルが近付いても、特に意識した様子もなく、店の隅に座ったまま、ただただ面白 そうに辺りを見回しているだけだった。 「お嬢さん、暇でも持て余しているのかい?」 「そうね。まあ、暇っていえば暇なのよね。」 「それじゃ、少し俺と付き合ってみないかい?」 「あら、それも面白そうね。」 結局、この女も金目当てか……。 自分から声をかけておいて、フェミルは内心、舌打ちをした。 「それで、この後、どうするの?」 「まず、外に出ようか。」 「ええ。」 女は飲物を一気に流し込むと、すっと立ち上がって、フェミルに介入する隙も与 えず、自分の飲物の代金を払った。 フェミルは慌てて女の後を追った。 「おいおい、お嬢さんよ。金ならいくらでもあるんだぜ。それくらい、俺に払わせ てくれよ。」 「あら、自分で飲んだ物なんだから、自分で払うのが当り前じゃない。」 「そりゃ、理屈はそうかも知らないけど、俺の立つ瀬ってものがないだろ。」 「あら、何で私が自分の飲物の代金を払ったら、あなたの立つ瀬がなくなるの?」 「そりゃ……。」 フェミルは言葉を失った。 この女、少しおかしいんじゃないのか? 今まで遊んできた女達は皆、俺に払わ せてたぞ。それが当り前だと俺も思ってたし、そうしないと男の体面ってものが保 てないじゃないか。 「それで、これから、どうするの?」 女の声でフェミルの考えは中断した。 「そうだな……。」 フェミルは、その女を連れて、いろいろと回ってみた。女はいろいろなことが初 めての体験だったらしく、大袈裟に思えるくらい喜んで、はしゃいでいた。 「そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。なんて言うの?」 「ルーラよ。」 「そうか。俺はラフラっていうんだ。また会えるかな?」 フェミルは偽名を名乗った。 「ええ。でも、あまり多くは会えないわ。」 「なぜ?」 「だって、この街に来ることが、あまりできないんですもの。」 「この街の人じゃないの?」 「ええ。でも、この街の近くには住んでるのよ。それじゃ、また会えたら一緒に遊 びましょうね。」 その女は手を振って、そのままいなくなった。 結局、その女は最後までフェミルに媚びることなく、なんとなく健全な時を過ご してしまった。 不思議な娘だな。あのルーラっていう娘は。 フェミルの心にはルーラの面影が焼き付いて離れようとはしなかった。 「あのラフラって人、なかなか面白い人だったわね。また会ってみたいけど、でも、 無理ね。あたくし、簡単に出かけるわけにはいかないもの。あーあ、誰か、あたく しの身代りになってくれる人、どこかにいないかしら……。」 フェミルの前でルーラと名乗り、楽しい一時を過ごしたラミアは、ジュンの街か らお忍びでランベル家へ帰る途中、一人つぶやいた。 今日はお父様もお母様もお出かけだから、シノーラに後を託して、こうして出か けることができたけど、こんなこと、そうめったにあるもんじゃない。 そう思ったラミアの目に、二人連れの若い女性の姿が飛び込んできた。最初は気 にも止めなかったラミアだが、そのうちの一人の顔が自分に似ているのに気付いて、 ハッとなった。 その娘は、あまり豊かな暮らしぶりではないらしく、粗末な服を着てはいたが、 着飾ればきっと自分と同じように綺麗になれるに違いない。それに、なんとなく体 型も似ているようだし、身長も変わらないみたいだし……。 ラミアは、そこまで観察して、機会があったら、その娘を身代りにすることを考 え始めていた。 それから数週間後、公的な用事で出かけたラミアは、その帰り道、再びジュンの 街で、その娘の姿を見つけ、父であるランベル卿には知られないようにして、馬車 で連れ帰ったのだった。 「ルーラ、久しぶりだね。」 久しぶりにお忍びで街へ出かけたラミアは、後ろからフェミルに声をかけられて 振り向いた。 「あら、えっと、ラフラっていったかしら? お久しぶりね。」 「しばらく会えなかったけど、どうしてたの?」 「なかなか家を出られなかったの。でも、これからは、うまくすれば抜け出してく ることも可能になったわ。」 「へえ、それは良かった。それじゃ、これからは何度も会えるね。」 表面にこそ出さなかったが、フェミルはラミアと会ってから、ずっとそのことが 忘れられず、一日も欠かさず街に出てきてはラミアの面影を追い求めていたのだっ た。 一方、ルミアを身代りにして、久しぶりに街へ出てきたラミアは、特に何をする でもなく、前回、フェミルに声をかけられた時にしていたように、またジュースで も飲むつもりでいたのだった。 一緒に歩き出した二人は、まず喉を潤すつもりで小さな店に入った。フェミルは 当然のように酒を頼んだが、ラミアは、これまた当然のようにジュースを頼んでい た。 「おいおい、ルーラ。ここへ来てジュースはないだろ?」 「だって、あたし、お酒なんて飲んだ事ないんだもの。」 「へ?」 「まだ未成年なのに、お酒なんて飲んだりしたら、お父様に叱られてしまうわ。」 おいおい、いったい、どこのお嬢様なんだよ。いまどき、酒ぐらいで騒ぐ親なん ていねえぞ。 フェミルは内心、頭を抱えていた。 フェミルの沈黙に、ラミアもさすがにまずいと思ったのか、 「冗談よ、冗談。まだお酒飲むには時間が早いと思っただけ。」 「そうかね。そんなに早い時間だとは思えないけどな。」 ラミアのとんでもないブリッコ攻撃にダウンしかかっていたフェミルは、なんと か立ち直る。 実際、外はもう既に暗い。そして、酒を呑ませる店では、それぞれに酔っぱらい の騒ぐ声が響き渡っている。 だいたい、酒呑むのに、時間もくそもねえと思うぜ、実際。 フェミルは心の中でつぶやいた。 「じゃ、あたしもお酒、頼んじゃおうかな。」 さっそく、フェミルと同じものを頼んだラミアは、それが来ると、フェミルと同 じように喉に流し込んで、次の瞬間、思いっきり咳込んでしまった。 「おいおい、大丈夫かよ。」 慌てるフェミル。 フェミルはラミアの背中を叩いて落ち着かせると、自分のグラスに残っていた液 体を一気に喉へと流し込んだ。 「酒の呑み方も知らないお嬢さんが無理するんじゃないよ。ルーラにはジュースの 方がやっぱりお似合いみたいだな。」 そして、ラミアのためにジュースを一つ頼むと、ラミアの飲みかけていた酒を、 これまた一気に飲み干してしまった。 「あ、あたしのお酒。」 「だめだ。まだルーラには早いよ。無理しないで、ジュースにしときな。」 「大丈夫だっ……あらら……。」 思わず憤慨して立ち上がったラミアだったが、飲み慣れないお酒を飲んだため体 の方はすっかり参ったらしく、フラフラっとよろけると、そのままテーブルに突っ 伏してしまった。 「え? うそ、なんれ立てないの〜?」 自分でも気付かぬうちに酔っていて、そこで急に立ち上がろうとしたため、酔い が一気に回って、ろれつも回らなくなってくる。 「ほら、落ち着いて、ジュースでも飲みなよ。」 ラミアは勧められるままにジュースを飲み干すと、そのまま、くてっとテーブル に頭を落として、突っ伏したまま静かに寝息を立て始めた。 フェミルは酒を追加注文すると、ルーラの寝顔を見ながら静かに呑んでいた。 これが遊び目的の女だったら酒に慣れてるだろうから、こんなこと絶対にないだ ろうけど、前にも酔った勢いで行くとこまで行ったこともあるくらいだから、こん な状態になったら、絶対、その手の宿に連れ込むくらいのことはしてしまうんだが……。 フェミルは酒を呑みながら、そんなことをとめどなく考えていた。 しかし、なぜかルーラに対して、そんなことをしたいとは思わない。いや、全く 思わないわけではないのだが、しかし、ルーラにはそんなことできない。 変だな。今までは、こんなこと考えたことなかったのに……。 フェミルは頭を振って様々な考えを振り払うと、呑み代を払って、ルーラを背負 って店を出た。 本当に、いつもだったらこのまま、その手の宿に連れ込んでしまうところなんだ が……。なぜか、背中で寝息を立てているルーラが可愛く思えて、絶対に変な真似 なんかできない。それどころか、このまま目を覚まさないんじゃないかと思うと気 が気ではない。 そのまま夜の街を歩きながら静かな場所を探し、その近辺を散歩する。ラミアは フェミルの背中で、すうすうと気持ち良さそうに寝息を立てている。 やれやれ、困ったお嬢さんだな、とフェミルは苦笑しながら思っていた。が、決 して嫌な気分ではなかったし、なんとなく嬉しさも感じていた。 しばらくして、ラミアは目を覚ます。 「あれえ? ここ、どこなのぉ?」 眠そうな目をこすりながら、ふわふわと欠伸をすると、あたりをキョロキョロと 見回す。 「盛り場から道一本外れたところさ。ルーラが眠ちまったから、静かな方がいいか と思ってね。」 「あ、そうか。あたしってば、いつの間にか寝ちゃったのね。ごめんなさい。」 「たまにゃ、そういうのもいいさ。」 フェミルはラミアを降ろしながら言う。 「しかし、ルーラの寝顔ってのも、結構可愛いもんだな。」 「えっ? やだぁ。」 ラミアは顔を赤らめると、 「あたし、今日は帰るわ。」 そう言いながら駆け出した。 「えっ? おい、待てよ。」 「今日はごめんなさい。また今度ね。」 ラミアは振り返って、そう言いながら手を振ると、暗がりに姿を消す。 「やれやれ、どんでもない娘だな。」 フェミルはラミアの姿の消えた方をしばらく眺めながら、一人つぶやく。 その後、幾度となくラミアはフェミルと一緒に過ごした。互いにすっかり意気投 合してしまい、時にはフェミルの住む屋敷の御膝元、ミナツの街まで数日かけて一 緒に出かけることもあった。 −−− 三章終わり
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