空中分解2 #0611の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ルミアは、いつ何時、身代りであることが発覚するかもしれないと思うと、内心、 ビクビクしていたので、この言葉はまさに渡りに舟だった。 ルミアは庭へ出ると池のほとりをファルルと共に歩き始めた。ここもシノーラに 何度か連れられて来ているので、今では広い庭も自分の家の中のように知っている。 池のほとりを歩きながら、しばらくの間、二人ともおし黙っていた。ルミアは今 まで若い男性とあまり話をしたことがなく、どのような話をすれば良いのか判らな かったし、また、貴族の娘が殿方とどのような話をするのか知らなかったためであ る。 互いにチラチラと相手を見ては再び目を伏せるということを繰り返しながら池の ほとりを歩き続ける。まるで、夕べのダンスが嘘のように、二人きりでいることが 恥ずかしい。と、一瞬、互いの視線がぶつかり合って、相手から目をそらすことが できなくなってしまった。互いに相手を見つめたまま立ち止まる。 その時にはもう、ファルルの存在はルミアにとって、単に素敵な人ではなく、愛 しい人に変わっていた。そして、まだあまり言葉は交わしていないものの、ファル ルこそ自分にとって唯一の人であることをルミアは悟っていた。 ファルルの瞳も愛しげな表情をたたえてルミアを見つめている。やがて、ファル ルの顔がルミアに近付く。ルミアは硬直したかのように身動き一つできず、ファル ルが近付くのに任せる。 そして、二人の唇が重なり合い、ルミアの目から一筋の涙が頬を伝って落ちた。 ルミアにとって生まれて初めてのキス。ファルルはそれに気付き、我に返ると慌 てて唇を離した。 「ああ、私はなんということをしてしまったのか。どうか、泣かないで下さい。」 ファルルは慌てて片膝をついてルミアの手を取り、頭を下げて謝罪をした。 「今の罪に対する罰なら、喜んでお受け致します。」 「いいえ、あなたは何も悪いことなどしていませんわ。」 ルミアは首を拭って、涙で濡れた顔をファルルに向ける。 ファルルは思わず立ち上がってルミアを抱き締めた。 ルミアは、自分が自分でなくなっていくような感覚を覚えた。ラミアという仮面 をかぶっていたからこそできたことなのかもしれないが、しかしルミアはファルル と過ごす時間が幸せだった。 ルミアはファルルに抱き締められながら言った。 「これほど人を愛しいと思ったのは生まれて初めてですわ。ファルル様。」 「私もあなたを愛しています。」 ファルルがルミアの耳元でささやく。 「あなたに出会えたことを父上に感謝したい。そして、世の中のすべてにも。」 ファルルは想いのすべてを言葉に詰め込んだ。 「結婚してくれますね? ラミア。」 ラミアと呼ばれた途端、ルミアは現実に引き戻された。ルミアはルミアであって、 決してラミアではないのだ。今は単にラミアの身代りとして、ここにいるだけなの である。 ルミアはファルルの言葉に肯定の返事をしたかった。しかし、今のそれはラミア としての返事になってしまい、ルミア自身がファルルと結ばれるということにはな らないのだ。 「返事はしばらく待って頂けますか?」 ルミアはファルルから離れると、さんざん迷った挙げ句、苦し紛れの返事をした。 「なぜ? 他にどなたかいらっしゃるのですか?」 「いいえ。わたくしにはファルル様しかいらっしゃいませんわ。本当はすぐにでも 『はい』とお答えしたいのです。でも……。」 「ああ、これは私達二人だけのことではありませんでしたね。私としたことが性急 過ぎてしまいました。」 「いいえ。」 ルミアは首を振った。 「知り合ってから、まだそれほど経っていないのに、こんな気持ちになるのは自分 でも不思議だと思います。でも、本当に愛しているのはファルル様、あなただけで すわ。」 ルミアは再びファルルに寄り添う。 「私もですよ。ラミア。」 ファルルにラミアと呼ばれるたびにルミアの心は痛んだ。そして、ルミア個人と してファルルと結ばれる日は永遠に来ないのだと思うと、切なさに涙があふれた。 「泣かないで下さい。あなたに泣かれると、私はどうしたらいいのか判らなくなっ てしまいます。」 「ごめんなさい。お気になさらないで下さい。これはファルル様のせいではないの ですから。」 しかし、ルミアはしばらくの間、涙を止めることができなかった。 二人で肩を並べて過ごす至福の時間は、あっという間に過ぎていき、夕刻になっ てフロール家の一行は帰っていった。ファルルとラミアとの再会を約束して。 「どうじゃ、ラミア。結婚相手として申し分ないであろう。フロール卿も、是非に と言うておられる。こちらとしても承諾するつもりでいるが、よいな?」 夕食時、ランベル卿は上機嫌でルミアに告げた。 「ええ。」 ルミアは複雑な気持ちになりながら、うなずいた。 「では、明日の朝、一番に使者を出すとしよう。それで、婚約成立じゃ。ラミア。 結婚までに必要な準備は早めにしておくのじゃぞ。」 「あ、お父様。申し訳ありませんけど、この話、もう少し待って頂きたいのです。」 「ん? なぜじゃ?」 ランベル卿は不審そうな顔をしてルミアを見る。 「わたくしも、ファルル様は素晴らしい方と思っております。ですが、今日初めて 会ったばかりで、まだ気持ちの整理が付かないのです。」 「うむ、そうか。では、フロール卿には、うまく伝えておこう。だが、ラミア。こ の話が気に入らぬということではないのだな?」 「いいえ。ただ、気持ちの整理を付けるだけの時間を頂きたいだけなのです。」 「うむ、判った。」 ランベル卿は大きくうなずいた。 次の日、ラミアがこっそりと、久しぶりに戻ってきた。 「まあ、ラミア様。今までどちらにいらしたのですか? これほど長くお出かけに なられたのは初めてですわね。本当に……何度、ラミア様を探しに人を頼もうと思 ったか判らないくらいですわ。」 「心配かけてごめんなさいね、シノーラ。でも、簡単には戻れなかったのよ。ちょ っと遠くまで出かけたものだから。それより、何かあったの?」 シノーラの困ったような顔に、さすがにラミアも気付いたのか、声を潜めて言う。 「昨日、フロール卿が訪ねて来られたのですわ。卿の御長男でフロール家の跡継ぎ でもあるファルル様もそろそろお年頃ということで、その相手としてラミア様が候 補に上がっているそうなんです。昨日はルミア様がうまく相手をして下さったので すけど、ファルル様もフロール卿も、いたくお気に召したようでしたわ。」 「まあ……。」 「ルミア様もさすがにお疲れになったと見えて、今もお部屋の方で休んでおられま す。それにしても昨日はシノーラにとっても驚きの連続でしたわ。ルミア様に、あれほどまで貴族の娘らしい振舞いができるなんで、思ってもいませんでしたから。」 しかし、ラミアは既にシノーラの言葉を聞いてはいなかった。 どうやら、ラミアがフロール家へ嫁ぐ方向で話は進んでいるらしい。 貴族の娘として、まだまだ自由に振舞えると思っていたラミアは、この話に強い ショックを受けていたのだった。 −−− 二章終わり
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