空中分解2 #0607の修正
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9 俺は、それを作りながらあの日の出来事を思いだしていた。喫茶店を出るとす ぐに、金井に電話を入れ一件を報告した。金井は、 「吉元の作品を読んでからぼくの意見を言わせてもらう」 とたったひとことだけ言っただけであった。続いて山田に電話をしたが「仕事で 手が離せない」と電話を切られてしまった。そんな彼らの対応ぶりを繰り返し思 いだしながら、俺は作業を進めた。 俺は、小さい頃から結構器用で、だからというわけでもないだろうが、悪戯が 大好きであった。小六の時に作った「竹製手留弾」は、われながら傑作であった。 庭箒を節のところから25センチほどの長さに切り、節のあるほうを底にして、 まず3センチ位の鉄筋の切れ端を入れる。次にチリ紙をひとにぎりほど丸めたも のを押し込み、そしてBB弾(爆竹)を揉み解して火薬だけを取り出し、これに 詰める。このとき、絶対につついたりしてはいけない。その上からまたチリ紙を 丸めたものをそっと押し込む。そしてもう一個鉄筋の切れ端を入れ、布切れで蓋 をして出来上りである。 軽く手に持ち、ガタつかせないように注意しながら反動をつけて遠くに放り上 げるのだ。地面に触れたとたん、ショツクで爆発し、竹はバラバラになって四方 に飛散する。鉄筋は5メ−トル以上もふっとぶ。 しかし、俺が井上謙に送り届け、奴にお灸をすえてやろうとして作っていたの はそれではない。 除草剤をドリンクかなんかに入れ、これを奴に飲ませることを考えなかったと いったら嘘になる。やはり小学生の頃、そんないたずらをして成功したことがあ った。だが、俺が作っていたのはそれでもなかった。 次の日、俺は駅の宅配ボックスを利用して「それ」を井上の自宅に送った。も ちろん、送り主の名前は吉元にしておいた。 それを済ませると、俺は旅行カバンを手に改札口に向かった。俺は、家族の者 に内緒で退職願いを出し、二日ほど前に相当額の退職金を手にいれていた。旅行 カバンには、その半分ほどが入っていた。 俺がどこへ行こうとしているのかを知っているものは、誰一人としていなかっ た。 * 「文芸界」最新号が発売されるや、吉元の久々の書き下ろし作品「時代の虚蝉」 は、大評判をとった。新聞、雑誌の書評欄は争って吉元を絶賛した。毎朝新聞な どは、「次期芥川賞候補か」などと持ち上げる始末であった。 「あなたは、『しかし』を省いた。いや、書き得なかった。いかし、吉元はあな たの作品に、『しかし』を入れることで自分のものにした。そして評価を得た。 あれは、吉元のモノ(作品)ですよ」 俺は、ボンヤリと窓の外に目をやりながらそんな金井の電話を、ずいぶん昔の ことのように思いだしていた。 その時だった。 「お客さん、失礼します」 入り口の向こう側で女中が声をかけてきた。この温泉宿に荷を下ろすなり、俺 は宿の女中にワ−プロ用のインクリボンとプリンタ用紙それに下書き用の原稿用 紙を買ってきてくれるよう、頼んでおいたのだ。 おわり 1990.09.08
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