空中分解2 #0552の修正
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「ハツ様。ウェルダンからの使者が参っております」 従者の一人が、透明感のある服を纏った女王に告げた。 「・・・急ですね。何のことづてもなく尋ねて来るとは」 女王ハツは、曇り顔になった。いや、曇り顔をしてみせた。 「追い返すことはできないのですか」 「それが、問題の者達は強引ですので、難しいかと思います」 「そう。しかたがありませんね。通しなさい」 眉をひそめるようにして、不承不精に言うハツ。従者は黙礼をして、女王の 部屋を出た。 「これはこれは女王ハツ様。御久しぶりですな」 ある種の皮肉を込めた口調で、ワイリの使者・ヘックスが言った。本来、ウ ェルダンの役人が、他国の長に対して、「王」「女王」なる言葉を口にするも のではない。 「何か」 ハツは無表情をつくって応じた。巫的な言葉遣いに徹しようとする。 「それはまたご挨拶なお言葉で・・・。視察というヤツでして」 「視察ならば、定期的に行なっていよう。この度の臨時の視察、なに故か?」 ハツの治める国は、ウェルダンにその独立をある程度認められている皇国の 一つである。ウェルダン側としては、何か緊急の事態が発生した場合に、かつ ての皇族の名を利用してやろうという魂胆があっての処遇であり、完全に支配 下に置くために、視察を定期的に行なっているのだ。 「クローナスが攻め落とされたのは、知っておられるかね」 「正式な形ではないが、聞き及んでおる。シャムファットは逝ったそうである な」 「確かに、シャムファットは死にましたがね。その部下で、こざかしい軍師、 ロハンが生き残っているらしいんでさあ。シャムファットの息子たるケムロッ クと共にね。それはご存じで?」 「いや、知らぬ」 知っている訳がないではないか。ハツは苦々しく思った。ウェルダンに反抗 する国を、ドグマ率いる精鋭軍が出向いたにも関わらず、生き残りを出したな どということを、皇国の者に伝えるはずがない。 だが、そのような事を、何故、ヘックスは口にするのか・・・。 「まあ、そこがワイリ王の不満のタネでして、ケムロックとロハンに協力して 不遜な動きをする皇国がないかどうか、そのための臨時視察という訳」 「今更、ウェルダンに反旗を翻す皇国なぞ、あるものか。そのような苦難の道 を歩んでまで己が身を頂点に据えなくとも、今の安穏とした暮しで充分。それ よりおぬし。ヘックス殿は何故、それを私に告げるのだ」 「へへ。別に他意はありませんや。では、ここらで切り上げさせてもらいます か。ちょっと町を見回ったら、帰りまさあ。視察なんて、形だけ」 うすら笑いを浮かべて、大儀そうに退室していくヘックス。 「・・・あやつの考えておる事は読めぬ」 ハツは心で言った。 「何? シャムファットがやられた?」 部下の報告に、玉座に収まっていた髭の男は、思わず立ち上がった。巨漢で ある。 「ドグマ率いるウェルダン軍に攻勢をかけられ、地の利で一時は優勢なるも、 ドグマの勢いに形勢を逆転され、君主シャムファットは死亡。その息子ケムロ ックと軍師ロハン以下数名が敗走した他は、壊滅状態になったとの事です」 「ケムロックらの行方は?」 「それがボック様、分かりません。少なくとも、相手側からは何の連絡もあり ません」 「うぬぬ・・・」 ボックは自慢の髭をなでるようにして、少し考えていたが、それをやめると、 元の席に座った。 「どういうことだ。生き残ったのならば、何等かの連絡があってしかるべき。 正式な盟約を結んでいた訳ではないが、我らとクローナスのどちらかが窮地に 陥ったときは協力を惜しまぬことになっておった」 「すでにウェルダンの追っ手にやられてしまったのでは」 「ならばウェルダンが、その事を大々的に報じるであろう。それがないという ことは、どこかに潜んでいるはずだ」 「なるほど」 「それよりも、クローナスを落としたウェルダンは、次に我々を狙ってくるで あろう。すぐには仕掛けてこんだろうが、用心にこしたことはない。すぐに準 備に取り掛かれ」 命を受けた部下が飛び出して行くと、ボックは地図を広げた。今度の戦いの 作戦を練ることもあろうが、ケムロックらがどの辺りにいるのかを検討してみ る意味もあった。連絡しようにもできない状況なのか、できるのにしないのか それだけでもはっきりさせたかった。 「何をしているの」 「何だポウ。起きていたか。こっちに来るか」 ボックに言われて、ポウと呼ばれた少女は、足早に近付いて行った。 「何だ、また戦。面白くない」 「面白くなくても、やらなければならん。ワイリのやり方は酷すぎる」 「それは分かっているわ。でも、それならば、前から言ってるけど、ポウを戦 わせてくれないのはどうして?」 「女には無理だ。救護隊の手が足りんのだから、そちらでがんばってくれ」 「いつも同じ答え。いやになっちゃう」 ポウはぷいと横を向いてしまった。その横顔を見て、ボックは心中、思う。 「大事な妹に、そんなことさせられるものか・・・」 ポウというのは愛称で、少女の本当の名前はポックという。 ドグマは苛ついていた。表面には出せない怒り。 「ドグマよ。今度の失態、どう始末をつけるかな」 ワイリ王が言った。クローナスとの戦いで、ケムロックやロハンらを逃して しまった責任に関して、ドグマはワイリ王に呼びつけられたのだ。 「・・・」 何も言わない。これが一番の方策だとドグマに教えたのは、ドグマの伯父で ある。 「・・・シャムファットの息の根をとめた功績と相殺し、とりあえず、何の処 罰にも問わないでおいては」 大臣の一人、ギェリーが申し出た。 「ちゃんと追っ手を放っていますし、ここでドグマ将軍の、将軍位を取り下げ たり、どこか僻地に閉じ込めてしまっては、ウェルダンとしても損失だと考え ます」 「ふむ、一理あるな。よかろう。ドグマよ。ギェリーに免じて、今回の事はと がめないでおく。しかし、二度とこのような事は起こさぬことだ。」 ワイリ王の言葉に、ドグマは内心反発しながら、 「ありがとうございます。以後は不手際のないよう、心がけます」 と頭を下げたまま、答えた。 「よし、退がってよい」 ドグマは怒鳴り出してしまいたい衝動を押さえながら、さっさと退出した。 その後から、ギェリーがついて来る。 「よかったですな、何のとがもなくて」 やたらと笑みを浮かべながら、大臣は話しかけてくる。 「・・・先ほどはどうも」 警戒しつつ、ドグマは礼を言った。 「礼など結構ですから、私に何かあったときは、お願いしますよ」 いつまでもへらへら笑っているギェリー。言いたいことを言い終わると、そ そくさと立ち去ってしまった。 「うるさい雑魚だな。まあ、俺がウェルダンを治めるようになったら、その末 席くらいには置いてやるさ」 ドグマは胸の中で吐き捨てるように言った。 「それよりもユークの奴は何をしておるのだ。連絡が一向に入らないとは。ま さか、あっさりとやられたのか?」 ドグマは戦のために忘れかけていた、もう一つの憂欝なる雑事を思い出して いた。 「ドグマもまだ若造じゃ。早く、将軍たり得る者を他にも育てぬと、不安でし ょうがないわい」 顔には少しも不安を示さずに、ワイリ王が言った。 「その一人として、ヴィノ、おまえを早く一人前にしたい」 「それは自分としても、望むところです」 ヴィノはまっすぐワイリの方を向いて、きっぱりと言った。 だいぶ面構えはよくなったな。だが、精神の方はいささか心許ないわ。と、 我が子を観察するワイリ。 「おまえにその気があるのであれば、すぐにでも、誰か現役の将をつけてやろ う。退役した者から習うだけでは、頼りないからな」 「ならば、私自身、希望があります。ある人物にお教えいただきたく思ってお ります」 「ほほう、誰かな?」 「その人物の名はワイリ」 「な・・・」 ワイリはかなり驚かされたが、やがて笑いだした。 「わしか」 「そうです。父上、お願いします」 「・・・よかろう。父の持つ全てを授けてくれよう。ただし、厳しくいくから 覚悟しておれ。ワッハッハッハハ・・・」 「ありがとうございます。明日から、いや今日、今からでも私はよろしいので すが、父上はいかがですか」 「もちろんすぐにでも鍛えてやりたいが、残念ながら王陵建築の視察があるの だ。明日からだな。心意気は買うぞ」 「分かりました」 ヴィノは、親子関係にある者同士とは思えぬ馬鹿丁寧さを持って、深々と頭 を下げた。 父上。あなたの全てを吸収し、何があなたを今のようにしたのかを探って差 し上げます。 ヴィノは思っていたのだ。 ロハンは申し訳なさで一杯であった。 「ケムロック様、私の不甲斐なさにより、このようなことになってしまい、申 し訳」 「もうよい」 ケムロックは、ロハンの言葉を遮った。まだ幼さの残る顔で。 「おまえがいくら言い訳しても、父王が生き返るものではない。それより、ど うしたのであるか。山賊のボックとかいう男の所へつなぎを取るということに なっていたはずだが」 「ただ今は、ワイリも我々を捕らえようと神経を尖らせているでしょうから、 下手な動きはできません。こうしてこの島に隠れ、追跡の緩むのを待つのが得 策かと考えております。つなぎを取るのはその後ということで・・・」 ロハンの言葉にあるように、彼らは今、離れ小島に身を隠していた。ドグマ 軍に攻め込まれたとき、ロハンはケムロックを連れ、少数で海から脱出した。 そして最初は条件劣悪な島にたどり着いた。何のためかと言えば、海岸から近 いものの条件はよい島は、追っ手に真っ先に捜索されるのは目に見えていたの で、それをやり過ごすためである。追っ手が島を調べ尽くし帰った後に、ロハ ン達は島を移動したのだ。一度調べた場所は、二度とは調べないという理屈だ。 「だがいずれ、この島にあるだけの水・食糧では足りなくなろうぞ」 「それは充分承知の上でございます。時が来ればすぐに行動を起こします」 ロハンが言った。ただ、彼としてはボックに助けを求めるつもりはなかった。 山賊風情と一緒にされてはたまらないという気概があるのだ。 何とか我々の手だけでクローナスの再建を・・・。 「ユーク。大丈夫なのか」 キッドはマニマニを操りながら、前を行く男に声をかけた。レジュンやエア には聞こえぬように低い声で。 「ドグマに命令されていたんだろう? このキッドをしとめるようにと。かな り時間が経っているが、大丈夫なのかって」 「今はシャムファットの所と戦をしているようだから、気にも止めていないで しょうが、それが終われば危なくなりますね」 「何にしても、道を急ぐに越したことはないと・・・」 ルイコウが静かに言う。彼ら五人は今、ルイコウの旧友の所へ協力を求めに 行く道中であった。目立たぬように山道ばかり選んで来たので、かなり時間を 取ってしまった。 「何をないしょ話しているのよう?」 ルイコウの前で、日差しの暖かさに眠っていたエアが、目を覚ましたようだ。 「お目覚めかな。もうすぐ、村に着くから、今晩はそこで泊まろう」 「わぁーい。久しぶりにちゃんとしたところで眠れるのね」 @エアがあんまりはしゃいだので、マニマニの背から落っこちそうになった。 それを見て慌てて駆け寄り、下に手を差し出すユーク。 「ユークさんは、ずっと歩きっぱなしだけど、大丈夫なんですか」 レジュンが聞いた。マニマニは三頭しかいなく、大人を二人も乗せられない ので、一人は歩かねばならない。 「平気ですよ。慣れていますし、私の方が勝手についてきたのですから」 ユークが答えたとき、彼らの横を旅人らしき二人がすれ違った。 「ドグマ将軍も大したもんだなあ。クローナスを壊滅にするとはねー」 「ああ、これでウェルダンの太平は永久的に続くだろうな」 二人の会話を耳にしたキッドらは、おおいに驚かざるを得なかった。 −つづく−
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