空中分解2 #0525の修正
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お光の心配をよそに、幼子たちの歩みは遅かった。水たまりに足をつっこんだ り、摘んできた菜の花を頭にかざしては「オシラサマ、オシラサマ」などときゃ ぁきゃぁ言って、その辺りを走り回ったりした。 雷は、確実にお光たちの近くに迫っていた。急に雨足が止まると、生温い風が 付近を巻いた。「?」幼子たちの声がやんだ。それまではゴロゴロ低く鳴ってい たのが、稲妻が走ると同時にカリカリとひときわ甲高くとどろいた。 「姉さっ」 幼子たちがお光に飛びついた。次の瞬間、お光たちをパッと稲光が包んだ。ド ォンというにぶい音がした時、お光たちは地べたにころがっていた。 再び雨足が強くなり、お光たちの身体を激しく叩いた。稲妻は次第に遠ざかり ゴオゴオと低く鳴り響いた。そして、雷雲は現れた時とおなじようにするすると 姿を消していった。 お光たちが雷に打たれて倒れているのを見つけたのは、お光の次兄・市次の幼 な友達の長次であった。野良仕事からの帰り道に倒れている子どもらを見かけた のである。 「なんと!」 大きい子を中心に、幼子たちが十メ−トル四方ほどに散らばって転がっていた。 どの子の着物もボロボロに引き裂かれ、落雷のすさまじさを物語っていた。 「お光じゃねえか。おっ、こっちは吉のところの妹、・・・これはお杉、お初・」 幸いに、長次が抱き起こしてみると、どの子も息があった。ただ、吉のところ の妹が、肩に大ヤケドを負っており、虫の息でうめいていた。 しばらくして、幼子たちを心配して捜しあぐねていた家族の者たちが来合わせ 、大騒ぎになった。大人に混じってかいがいしく子どもたちの介抱にあたる吉の 姿が人目を引いた。 4 お光が気がついたのは、夜になってからであった。目を開けてみると、自分の 家の中だった。 「うっ」 頭がヅキヅキ痛んだ。お光も頭に軽いヤケドを負っていたのだ。それに、耳な りもひどくした。 お光の様子に家族の者が気がついた。 「ほお、案配はどうだ」 太市が枕元に寄ってきた。 「おらあ、・・・」 それ以上言うと、泣きだしてしまいそうであった。母親がお光の両脚を布団の 上からさすっていた。ずっとそうしていたに違いない、お光はそっと布団の衿を ひいて顔を隠した。 「おっ、お光、いいのか」 どこかへ行っていたのであろうか、ちょうどその時、市次が外から戻ってきて お光の枕元に座った。 「したけどはぁ、どのわらっすっこも無事ではぁ」 (えっ) お光は市次の言葉を聞いたとたん、体がぎゅっと縮こまり次に思いっきり緩ん でいくような感じが全身に広がっていくのを覚えた。がまんしていたものが、ツ ツ−と頬をすべり落ちた。 しばらくして、お光はこわごわ口を開いた。 「したけど、・・・ケガしたべ」 「なぁんも。お光が心配すっことねえべ」 市次が笑った。 「せば、吉んとこの妹っこが肩ばひどくやられて・・・」 母親の口からつい愚痴が出た。 「かっちゃ!」 太市が割って入ったが遅かった。お光は布団の中に潜り込むと、全身をばたつ かせた。 「吉ちゃに、頭っこ下げねば」 お光は何度も繰り返した。そんなお光の様子に市次はニヤリと笑みをもらした。 「お光」 布団がもそもそ動くだけであった。 「んではぁ、お光はなじょしてそんなに吉んとこの妹のことを気にするべか」 そんな弟の言葉に、ほぉ、というように太市が市次の顔を伺った。 「お光、兄さが吉のところさ行ってくるべか」 「ないっ」 お光が布団の中で叫んだ。二人の兄が、声を合わせて笑った。お光が蹴飛ばす ように布団をはね上げた。 「布団の中は、さぞ熱かべ」 市次がからかうように言ったのを合図に、兄たちはお光のそばを離れた。 5 あった。古老たちもほっとした。 お光の傷もすっかり治り、吉の妹は歩けるところまで快復し、晴れ着を着せろ と言ってむずる程であった。 ところがそんな平穏も束の間、松の内だというのに、大変なことが起き、正月 気分を吹き飛ばしてしまった。 雪が訪れたのである。昼過ぎに、白いものが空からちらちら降り始めると、急 激に温度が下がった。正月に雪が降るなど、言ってみれば当り前のことで驚くこ となどではない筈だが、その年ばかりは暮れからの異常な暖かさが続いていただ けに、誰もがびっくりした。 夜になると、大雪になった。急な寒さにオロオロするばかりであった。冬仕度 がおろそかになっていた事を誰もが思い知らされた。 それでも、どうにかこうにか冬仕度にかかりながら一息ついてみると、人々は 正月に雪が降ったことに一種の安堵感さえ覚えた。 「これで良いのだ」 古老たちは寄るとそのことばかりを口にした。 しかし、それはいつもの冬に戻った事の知らせなのではなかった。新たな異変 の始まりであり、悲劇の幕開けを告げるものに他ならなかったのであった。 まず、年始の挨拶回りをしていた人々の多くが雪に閉じ込められ、急に襲った 寒波のため次々と凍死していった。それまでのあまりの陽気に、冬の用意のない ままに出かけたのが災いしたのであった。 その初雪は、二日間降り続いた。いつもの冬にも増して大雪であった。そして、 雪が止むのを待っていたかのように、身を切るような強風が吹き荒れた。 お光の母親が軽い風邪で横になった日、近所の家で事故が起きた。雪降ろしの ため屋根にあがった年寄りが風に飛ばされて庭先に転落したのだ。幸い、足の骨 を折っただけで済んだが、雪がなかったら死んでいたところだった。 「こりゃはぁ、油断なんねえ」 かの年寄りの見舞いから戻るなり、太市が言った。 「この様子はただ事でねえ」 大慈寺の雪降ろしの手伝いに行って、一足先に帰っていた市次が相づちを打っ た。 「せば、長次の話っこでは、盛岡の方で町方の人が寒さでずいぶんやられ、はぁ、 亡くなったらしいっけ」 お光の用意した番茶をはぁはぁすすりながら、太市はそんなことを話した。 「このまま寒さが長引いたら、年寄りやわらすっ子が危ぶねえな」 「それではぁ、ともかく寄り合い開くべえ話っこまとまった」 市次の話では、大慈寺の雪降ろしに集まった連中の間でも、方々で突然の大雪 と強風によって犠牲者が出ていることが話題になり、さっそく晩にでも寄り合い を開くべえということに決まった、と言うのである。白岩の秀助や東舘の佐助は じめ、長次なども出てくるらしい。 「兄さも出てけろ」 「うむ。行かねばなんねべ」 そんな兄たちの話を聞いていたお光だったが、いつの間にか横になると軽いい びきをかき始めていた。昼間の雪降ろしで、すっかり疲れてしまったのに違いな い。 つづく
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