空中分解2 #0480の修正
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「二つとも、仮面を被っているなんて・・・。じゃ、じゃあ、それぞれの殺 人の犯人は同一人物なのだろうか?」 私はつい、隣に地天馬がいるつもりで聞いてしまっていた。が、隣にいるのは もちろん、替え玉の向坂である。彼からは、色よい答えは返ってこなかった。 「決めつける事はできないが、それぞれに犯人がいるとして、山脇を殺した 犯人がメイド殺しの犯人に罪を擦り付けるため、仮面を被せたか。もしくはそ の逆の場合もあるな。」 この程度の答えであった。 「うーん。山脇を殺した犯人は、崖の向こうに渡れるはずだ。一方、二つの 遺体に仮面を被せた人物は同一人物とみていい。山脇の遺体に仮面を被らせる には、崖の向こう側に渡らねばならない。となるとだ、山脇を殺した人物と、 二人の遺体に仮面を被らせた人物は、同一人物と断定していいんじゃないか。」 私は考えた上で、このような結論を出した。向坂も納得してくれた様子だ。そ うして、向坂が意見を述べた。 @「で、崖の向こうに渡れる人物となると、招待された者は除いていいんじゃ ないかな。何せ、こんな<陸の孤島>に置き去りにされる状況なんて、招待客 には予測つかないのだから。」 「そうだな。ということは、犯人は、少なくとも山脇氏を殺した犯人は、こ の屋敷の者。そいつは桐場とメイドだけだ。メイドは死んでいるから、山脇を 殺したのは、やっぱり、復讐を目的とする桐場と結論できるな。」 私は自分の推理に酔いかけていた。だが待てよ。これでは何の進展もない。山 脇を殺す動機のある人物は、桐場が最有力だと分かっていたのだった。僅かに 野岸である可能性もあるが、彼女が犯人だとしたら、こんな場所に関係のない 者まで呼んで犯罪をするのか、その理由が分からない。 「・・・疲れたよな。山脇氏の遺体があれじゃあ、調査が難しくなった。」 向坂が本当に疲れたような声で言った。私も疲れた。 「打ち切ろう。それより、仮面の事を他の人に知らせておくんだ。」 「いや、驚きましたな。」 秋元老人が、ため息をつくような言い方をした。メイドと山脇の遺体に仮面が 被せられたのを、確認して来たのだ。むろん、他の者も確認しに行って、戻っ て来ている。 「聞かれる前に言っとくが、アリバイなんてないぜ。」 太川だ。それも仕方があるまい。朝食が終わってから昼まで、みんな好き勝手 に動いていたのだ。疑心暗鬼になっているせいもあるだろうが、自分の連れ以 外は、いや連れさえ信用できない心境の人もいるだろう。だが・・・。 「これで、桐場が隠れていて、犯行を重ねている可能性が強まったんです。 我々としては、一致協力して桐場を捜し出すことが先決ではないでしょうか。」 向坂が、「桐場」と呼び捨てにして、自分の考えを述べると、誰もが賛意を示 した。 「桐場の部屋を改めて探る必要があると思うわ。」 進道が言った。彼女と太川は、洗面所へ通じる廊下の途中に、桐場の部屋らし き場所を見つけていたのだ。 「そう言えば、捜索の結果、何もなかったと言ってましたが、その部屋にお かしな点はなかったんですか?」 「おかしい点はないな。ただ、人形の間に似て、何だか変な物が置いてあっ たよな。」 「ええ、鍵はかかっていなかったけど、中には鉄くずみたいなのが、少しあ って・・・。」 太川と進道がやり取りしているのを聞いて、段々腹が立ってきた。 「どうして言ってくれなかったんです?!」 私は思わず、怒鳴った。相手はひょうひょうとしている。 「俺達が関係ないと判断したんだ。そんなこと言うのなら、自分で行きな!」 「・・・よし、行こう。」 私は向坂に促した。すると、白島が、 「私も見に行きたいですわ。」 と来た。いい加減にしてほしい気もしたが、三人で見る方が見落としが少ない かもしれないと思い直し、承諾した。 他の人物の動きだが、太川と進道はどこかに移動して行ったようだ。秋元昭 代と木沢は昼食の準備に回った。野岸は気をしっかりと持たせるためか、自分 から食事の手伝いを申し出ていた。秋元老人の方は、外に出たらしい。 全員にひっついて、アリバイを確認したいな、という衝動に駆られたが、所 詮不可能だと思い、すぐに諦めた。そして桐場の部屋に向かう。 「何が、何もない、だ。」 向坂が不満を口に出した。私の思いも同じである。 「そうですわね。こんな奇妙な物があるのに・・・。」 白島がその「奇妙な物」を手にしようとしたが、はっと思い直したようなそぶ りをし、手を止めた。 奇妙な物−それはT字型をした長い棒である。大きながんじきを想起させる それは、長さが三メートルと少しあった。さらに室内には、砲丸投げ用の鉄球 が二十個近くかたまって置いてあった。両方とも、少し土が付いている。 「これは最近、使われた物ですね。泥は外のだ。」 「でも、何に使ったんでしょう? この長さでは、崖の向こうに届くはずあ りませんし・・・。」 白島の言う通りである。五メートルから七メートルの幅があるのだ。それに鉄 の球は何に使うと言うのだ? 「・・・分からないな、残念ながら。でも、これらを使って向こう側に渡っ たのは間違いないと思うんだ。」 向坂が無難なところを口にする。と、ふと、私は思い付いた事があったので、 言ってみた。 「抜け穴はないな。」 「え?」 「いや、桐場が隠れているとしたら、ここぐらいしかないんじゃないかと思 うんだ。」 「そうか・・・。」 という事で、抜け穴がないか徹底的に捜してみたが、どこにも抜け穴があるよ うな細工はなかった。 「抜け穴がないのなら、そこの勝手口みたいなのが怪しいな。」 向坂は気取った手付きで、部屋の隅を指さした。そこには左右に開くタイプの 扉があり、部屋の内側から鍵がかかっていた。それを開けて外を見てみると、 すぐに外に通じている。足跡みたいな物があるのだが、判然としない。渇いた 土だから、ほとんど残らないのだろう。 「この錠は、鍵さえあれば外からでもかけられるのね。」 「そうですね。これなら、出入りは自由だ。」 向坂の言う通り、これは重要ではないか。今、ここに桐場がいなくても、どこ かに潜んでいるのかもしれない。そして夜になれば、この部屋に戻って来るの だ。 と思ったが、それなら今はどこに隠れているのか、それが問題になってくる。 それに桐場は足が不自由なはずだ。足跡が残るなんて、有り得ない。さっぱり 合点がいかない。 「ついでと言えばなんですが、他の場所も見ておきたい。」 向坂が言った瞬間、昭代が呼びに来た。昼食の時間である。 「やっぱり、和風がいいの。」 ナイフとフォークを手にし、秋元老人が言った。目の前にはハンバーグステー キ。朝もトーストにハムエッグだったから、たまらないのであろう。 「次は和食になると思います。材料がそうなっていますし・・・。」 木沢がすまなさそうに言うので、老人は慌てて言い直した。 「あんたのせいじゃないんだから、そう言わんでくだされ。」 その様子を見て、昭代が少し、秋元老人をにらむような目付きをした。初めて 見せる表情。 「早く食べたいのだが、太川さんははどうしたんでしょうかね?」 向坂が進道の方を向いて聞いた。進道はしばらくふてくされた表情をしていた が、すぐに考え直した様子で答えた。 「あの人、どこかに行っちゃったのよ。」 「何?」 「だから、お昼前に、<ちょっと調べたい場所がある>とか言って、急にど こかに行ってしまったの。」 「どうしてそれを・・・。いや、そんな事はいい。いなくなってから、何分 くらい経った?」 「どうかなあ。一時間くらいは経っているかしら。」 「そんなに! それはやばいんじゃないかな。どっちの方に行ったかも分か らない?」 「そうよ。外から見て回ってたみたいだけど、あとは知らないわ。」 まるっきり話にならないな、と私は向坂と顔を見合わせた。 桐場はいなかったのだから大丈夫だろうと、とにかく全ては昼食後になった。 これが間違いの元であったのだが・・・。 「何か、音がしなかった?」 昼食中、野岸が言った。私も聞こえた。そう、我々の部屋がある方向だと思え たが。 「わしも聞こえたぞ。」 「私も。」 広間にいた全員が同じ事を口にした。向坂が判断を下す。 「よし、僕が見てきます。皆さんはこの部屋から出ないでください。君も来 てくれるね。」 彼が私に呼びかけたところ、白島が異議を唱えた。 「私も見たいわ。あなた方を疑う疑う訳ではありませんが、身内同士だけが 見に行くのは・・・。」 そういうのって、疑っているって言わないの? と私は思ったが、それも道理 だと思い、承知した。進道も行きたそうだったが、あまり大勢で行くと混乱す る。 行くと言っても、すぐそこだ。時間的には、ほとんどかからなかったに等し い。が、問題の廊下には生きた人間はいなかった。生きた人間、そう、生きた 人間は見あたらなかった。死んだ人間ならいたのである。 廊下に出た途端、何か変な臭いがした。肉が焦げた臭い・・・。それなのに、 廊下の床は何故か、湿っていた。特に玄関に通じる側が、濡れているのがはっ きりと分かるほどの湿り具合いであった。 廊下の端、詳しく言えば、庭に通じる方の端の扉が閉まっており、そこに、 車椅子に掛けたままの格好で血塗れになっている死体があった。その顔には例 の仮面が・・・。 「太川さん・・・?」 白島がか細い声で言った。向坂は車椅子に近付きながら、仮面に手をかけた。 「これは酷いな。太川だ。」 仮面の下の顔は、間違いなく太川であった。ただし、その顔は一部、焼かれて いた。 「桐場が自分の身代りに見せかけるため、こんな事をしたのかな?」 私は言ってみたが、信じていたのではない。向坂もすぐに否定した。 「違うだろう。こんな事をしても、すぐに見分けがつくぜ。ただの見立てじ ゃないかな。」 仮面を戻し、白島も加えて遺体の観察に移る。車椅子は桐場の物のように思え る。それに縛り付けられた格好で、太川は死んでいた。背中からの出血が激し いので調べてみると、ナイフが刺さっていた。登山に使うような鋭いナイフだ。 車椅子の背もたれに穴が開いており、そこにナイフは固定してある形だ。 「そうか・・・。犯人は他の者が広間に集まっている間に、単独行動を起こ していた太川を捕らえ、車椅子に縛り付けたんだ。そして後ろから背もたれ越 しにナイフを突き刺し、殺した。車椅子を放り出しておいたのは、我々を脅す ためと、血塗れになった車椅子は用なしになったからだろう。」 「それじゃ、桐場が困るだろう。足が不自由なんだぜ、奴は。」 私が言うと、向坂の代わりのように、白島が答えた。 「本当に不自由なのでしょうか?」 「え?」 「だって、おかしくはありません? 私達、メイドから桐場氏は足が不自由 だと聞いているだけで、実際に歩けないかどうかは知らないのですわ。」 「そうだった。これはうかつだったな!」 向坂は本当に感心した体である。これしきの事で、感心しないでもらいたい。 犯人追求のみに全力を注ごうと思ったが、これではあまりに地天馬が気の毒だ。 でも・・・。 「と、とりあえずですね、広間で待っているみなさんに、事実報告と行きま しょう。」 私はそれだけ言うのが精一杯であった。 「太川さんが死んでいた、ですって?」 私達の報告を聞くと、進道が真っ先に反応を示した。激しい反応である。いき なり彼女は立ち上がったかと思うと、廊下に向かって駆けだそうとした。慌て て止める私と向坂。 「何するのよ! 放してよ! 何の権利があって・・・。」 「見ないほうがいいんです。こんな事、言いたくありませんが、太川さんの 顔面は焼けただれていて、見れたものではありません。」 向坂と私は、このような意味の事を替わる替わる、繰り返して言った。その内、 進道がおとなしくなったように思えたので、手を放した。しかし、その瞬間、 彼女は廊下に飛び出たのだ。慌てて追いかけたが、遅かった。 「太川さん・・・。」 車椅子のある方に寄って行き、その顔に被せられた仮面をとる進道。その直後、 形容し難い叫び声が、屋敷内に響きわたったのだ。言わないことではない。私 は仮面を元の位置に戻し、他の人に来てもらって、やっとの事で、泣き崩れて いる進道を彼女の部屋に寝かしつけた。 −以下7−
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