空中分解2 #0471の修正
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私と向坂は、庭の捜索をしていた山脇達と合流し、急いで屋敷に帰った。玄 関で耳を澄ますと、ざわめきは人形の間から聞こえて来るようだ。当然、そち らに向かう。 「どうかしたんですか?」 と地天馬に成りすました向坂がありきたりな聞き方をしたが、その答えを待つ 必要はなかった。部屋の奥にゴロリと転がっているのは、メイドの服を着た人 形? 違った。 「こ、これは・・・。」 向坂は動揺していた。困るなあ。新聞記者もやった事があるのだから、少しは 死体も見慣れているだろうに。 ゆっくりと室内を見回すと、いるのは秋元老人、太川、進道の三人。もちろ ん、私達や山脇もいるが、野岸は死体を一目見ただけで気分が悪くなったのか、 自室に戻ってしまったようだ。 「あのメイド、でしょうな。」 秋元が言った。こちらは戦争体験があるせいか、ほとんど平常である。 「死因は鈍器による顔面殴打、頭蓋骨陥没といったところですか。」 そんな事は、向坂が言わなくても明らかであった。向坂は名探偵らしい言動を 取ろうとしているようだが、どうもズレている。 「これが凶器のようだぜ。」 太川が死体の側に転がっている斧を指さした。装飾用の物らしく、ちゃんとし た刃は着いていない。それでも重さを利すれば、このように人を殺せるのか。 「指紋を調べたいところですが、ここには道具もなければ、警察も来ません からね。」 向坂は慣れるためか、しゃがんで死体をしげしげとのぞき込みながら、当り障 りのない事を口にした。 死体を見ると、その顔の半分は叩き割られていて、先ほど目にしたきれいな 顔立ちの面影は残っていないが、死体の着ている服、履いている靴はあのメイ ドの物に間違いなかった。まだ赤い色をしている血が飛び散っている。 「誰が殺したのよ?」 太川の背後に隠れるようにしながら死体を見ていた進道が、早口に聞いてきた。 何か安心できる言葉を聞きたいかのように思えた。それにしても、せっかちな ソ問ではある。 「まだ分かりませんが、動機としては有力なのがありましょう。」 いいぞ、名探偵らしくなってきた。向坂に合わせて、私は質問してみた。 「それは何だい?」 「先ほど刑を宣告された四人の方のどなたかが、やられる前にやってやろう と考え、殺した可能性だ。」 「何を言うかと思えば、俺達を疑っているのか?」 「可能性ですよ、太川さん。あなたもエリート社員なら、そのくらいの事は 理解できましょう。少なくとも、この屋敷内にいる人物の中では、刑の宣告を 受けた四人の方が、より怪しいのだと。」 「ならば聞くが、どうして桐場の方を殺さず、メイドを狙ったのかね?」 山脇が開き直った感じで聞いてきた。もう、屋敷からの脱出は諦めたようだ。 「殺そうにも、桐場氏は消失したままですからねえ。仕方がないから、とり あえず、桐場氏の共犯である可能性が強いメイドを殺したと・・・。」 「斧、斧はどこで手に入れたんだ?」 今度は太川。 「そいつは確か、部屋に掛かっていた物じゃないでしょうか。大広間の壁に あった様に思いますが。」 「あとで確かめておこう。」 私はすかさず言った。ここで広間まで往復していると、事態の混乱を招くかも しれない。 「車椅子が・・・。」 不意に、部屋の入口の所で声がした。振り返ると白島と木沢。互いに支え合う ような姿勢である。あとで聞いた事だが、ミステリーファンらしい白島も、本 物の死体を見た時には驚いてしまって、部屋で休んでいたそうだ。木沢はその 付添いだった。 「車椅子がどうかしましたか?」 向坂が聞き返した。静かに答える白島。 「車椅子がありませんわ。」 「そう言えば・・・。」 室内にいる全員が周りを見回したが、確かに車椅子は見あたらなかった。 「私達が桐場氏の消失を目撃した時は、確かに残っていましたよね、太川さ ん?」 「あ、ああ。メイドと一緒にあったな。」 太川は思い起こす風に首をかしげてから答えた。 「桐場さんが、消えたのは良かったけれど、足が悪いから必要だという事で、 メイドさんが持って行ったのではないかしら。」 木沢が解釈をしてみせた。 「有り得ますね。だが、逆に考えると、桐場氏が消失した時に車椅子はいら なかったのか、という疑問にぶつかってしまう。別の車椅子を用意しておいて、 何らかの方法で消失したとしたら、ここにあるべき車椅子がない事が説明でき ない。」 lえ考え、向坂は答えた。それを見て、今度は秋元が提案をした。 「どうですかな、地天馬殿。ここはまず、屋敷内にる人物を集めて、殺人の あった時間帯にどこにいたのか、確認するのがよいと思うが。」 「そうですわ。第一、今、皆さん全員が御無事でおられるかどうかも、まだ はっきりしていません。」 木沢が穏やかに言った。この一言で、全員が大広間に集まる事になった。 「全員無事で、何よりです。」 向坂がありきたりな言葉を口にした。招待側の人物がいなくなってしまい、な んとなく向坂が取り仕切る形になっている。 「部屋で休んでおられた方もいるようですが、もう大丈夫ですかな?」 呼掛けに対し、無言で肯定の意を示す該当者達。 「結構。では、事件の検討に移らせてもらいましょう。皆さん、ご存じの事 でしょうが、この屋敷のメイドが殺されました。人形の間において、額を叩き 割られたものです。犯行時刻は、我々が屋敷内外を捜索していた約三十分の間 と思われます。おおよその見当はつきますが、皆さんに改めてお聞きします、 アリバイを申し立ててください。まずは、第一発見者の方から。」 「見つけたのは、わしらだ。」 秋元が言った。当然であろう、人形の間を捜索したのは秋元夫妻なのだから。 「捜索する事が決まってから、わしらはすぐにあの部屋に行った。だが、捜 索と言っても狭い部屋だからな。じきに終わったわい。何もなかった。もちろ ん、メイドの死体もなかった。それで部屋を出て、他の場所の協力に行ったん だが、すぐには誰も見あたらなんだ。そうこうする内に、人形の間で何か音が したように思えたから、わしら二人で戻ったところ、メイドの死体があったと いう訳だ。その後は、太川殿達を捜して、部屋に一緒に行ってもらった。」 昭代は何も付け足す事はないという様子である。 「太川さんに伺いますが、今の秋元さんの言葉に間違いないですかね。」 「ああ、俺や進道みたいに屋敷内を捜索していたのは呼ばれて、一度はあの 部屋に行ったぜ。」 「では、あなたの申し立てを聞きますか。」 「アリバイだな? 進道と一緒にいたとしか言えないな。ちゃんと持ち場を 捜索していたのは、間違いないぜ。何もなかったけどな。」 「それだけですか・・・。」 「身内じゃ、駄目だって言うんだろう? それは秋元さん達や、他の人にだ って言えるはずだ。」 「そうよそうよ。だいたいねー、いっつもアリバイを気にして生きている人 なんて、いないわよ。」 進道が同調する。 「犯罪がいつ起こるか分かっている人だけが完全なアリバイを用意し得る、 という言葉もありますものね。」 白島までもが、こんな事を言った。となると、我々外を捜査をしていた者は、 どうなるのだ? 一応、アリバイが成り立っているではないか? 「どうも徒労に終わりそうだなあ。それでも念のため、聞いておきますか。 木沢さんと白島さんの二人は、どうです?」 「私達も、決められた箇所を見ていただけです。秋元さん達らしい声は聞こ えたのですが、まだ自分の所の見回りが終わっていなかったので・・・。結局、 何も見つかりませんでしたわ。」 「では、山脇さん達はどうです? 庭の捜索ですが。」 「同じである。ずっと二人で捜索しておったが、何も見つからなかった。な あ、野岸さん。」 「ええ。本当に何も見つからなかった。」 山脇の言葉の裏付けをするように、野岸がうなずいた。 「そうですか。皆さんの証言が正しいとすると、メイド殺しの犯人はいな い、となりますねえ。」 「ちょっと待てよ、地天馬さん。大事な事を忘れているぜ。」 太川が挑戦するような口調で言った。向坂は情けない対応しかできない。 「は?」 「あんた達二人だよ。ま、これは聞いても俺達と同じだろうけど、もう一人、 有力な容疑者がいるぜ。」 「誰でしょうか?」 「桐場だよ。あの仮面野郎は、消えてしまった。だからこそ、どこにでも出 没して殺人でも何でもやれる。」 「それはそうでしょうが、動機は?」 「そんな物、分かるものか。俺達に恐怖感を味あわせるためかもしれないし、 自分が犯行をする上で邪魔になったのかもしれない。そいつは、探偵のあんた が考える事だ。」 「ふむふむ。」 向坂は本当にこんな声を出してうなずきながら、考えをまとめているらしかっ た。こいつに替え玉を頼んだのは、失敗であった。どだい、名探偵の役を素人 が務めるなんて、不可能なのだ。名探偵の役ができるのは、名探偵しかいない。 「さし当っての問題は、食事だと思う。」 野岸が唐突に発言した。 「今、ここに列んでいる食事は、あのメイドが用意した物でしょ? 作った のもあの人だったと思うんだけど、次からは誰が作るの?」 「そうだな。確かにそうである。」 へんに納得した表情で、秋元老人が言った。 「あの・・・、私達を信用くだされば、お作りしますが。」 木沢が言った。どうやら、白島も同意見のようだ。 「それは助かるが、皆さんはどうですか?」 山脇が見回すようにして、全員に聞く。 「私も手伝います。」 おずおずと手を挙げるようにしながら、秋元昭代が静かに言った。 「うん、お願いします。木沢さんと白島さんの、互いに知合いのお二人だけ では不安だという方も、昭代さんが加わることによって、安心できることでし ょうから。他の女性の方は如何ですかね?」 向坂が皮肉を込めて言った。二人の若い女性は、口口に拒絶反応を示した。 「そんなー、私はイヤよ。面倒だわ。」 「そうそう。第一、女性だからって、食事の用意をさせるってのは、偏見だ と思う。」 ものは言いようである。食事の話題を持ち出した野岸がこれだ。何はともあれ、 食の問題はカタがついた。風呂の話も出たが、水が不足するかもしれないので、 なるべく沸かさない事になった。水は、庭に貯水タンクみたいなのと、小さな 池があるだけなのだ。ガス・上下水道はなく、電気だけが完備されていた。 夕飯時にもう一度、広間に集まる事にし、それまでは自由にしてみようとな った。できれば、アリバイがはっきりと申し立てできるように、と注釈をつけ てはみたが、当てにはならない。 秋元昭代と木沢、白島の三人は調理場に行って、食事の前準備を兼ねて、何 があるのかを見に行ったようだ。 秋元老人は、一人で部屋にいたり、外を歩いたりして、落ち着かないようだ。 案外、寂しがり屋なのかもしれない。 太川と進道は部屋にこもって、二人でいちゃついていたようだが、私も最後 まで聞く元気はない。後になって、部屋の外に出た音は聞いた。 山脇はまたも外に出ていた。脱出を諦めてはいなかったのか。あの執着ぶり は、ある意味では見習うべきかも。 野岸は部屋に入って、静かにしているようだった。で、私達である。 「もう、バレているんじゃないか。」 向坂が静かに言った。まだ両隣に人がいるようだから、声を落とす必要がある。 「かもしれん。でも、大丈夫だろう。とことん、貫くんだ。用が終われば、 本物の地天馬に来るように言ってはあるんだから、それまではもたせよう。」 「俺、自信がないよ。単に、屋敷に行くだけかと思っていたから、引き受け たんだぜ。なのに、本当に事件が起こるなんて・・・。」 「泣き言、言うなよ。夕食の後、何等かの推理を披露しなくてはならないと 思うんだ。そっちの方を考えよう。」 「メイド殺しのか? 別に招待客が殺されたんじゃないんだし、構う事はな いと思うんだが。」 「そんな無茶な。名探偵なんだから、どんな事件でも解かなくては駄目だ。 君が思うに、誰が犯人だと思う?」 「そうだな。まず、僕と君は除外できるな。」 当り前だ。呆れている私を後目に、向坂は続けた。 「目の前で消えた桐場は判断しかねる。山脇と野岸の二人は犯人じゃないだ ろう。俺達が外回りを捜索していた時に、庭から声が聞こえてきた。あとはど うもな、決定する条件がない。それに、メイドの遺体が人形の間に出現したの があまりに急すぎる気がするんだ。」 このように推理する内に、夕食の時間になった。外は暗くなり始めていた。こ の屋敷に来て、初めての夜である。無事では済みそうにない予感があった。 −以下4−
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