CFM「空中分解」 #1833の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
シンパサイザー 彼がアクセスしたネットには電子掲示板があった。その日、彼は一枚の掲示を読 んだ。 明日、私と同じ事をしてくれませんか。ただし、次にあげる項目に該当す る方だけにお願いしたいのです。 車:アルト。詳しい形式はこだわりません。要、カー・ステレオ。 BGMのためのカセット:ニューオーダー、『ブルー・マンデー』 (30分カセットに、この曲を片面二回づつ四回録音したもの。これ は今から用意しても可。友達から借りたレコードまたはカセット、 及び貸しレコードは使用禁止) 白いTシャツ、黒いジーンズを着る方。 (ともにメーカーにはこだわりません) 自宅から、南側に海がある。(ただし、車で20〜30分程度の距離) 一人っ子であること。 (年齢と性別にはこだわりません。両親とも健在なのが好ましい) そして、明日して欲しいこと。 11時、起床。目覚し時計等で起きるのはなしです。 食事をして下さい。できれば、トーストとコーヒー程度の。 12時、エンジン始動。海岸に向かう。(カセットをかけて) 12時半、海岸到着。海の見える位置に車を止めてから、浜辺に立つ。 夕日が見えるまで、そうして海を見ながら、浜にいる。 (疲れたら座ったりしていいです。絶対立っている時間は最初の30分 とします。誰にも声をかけてはいけません。誰にも返事をしてはいけ ません) 19時、止めた車の中で、カセットを聴く。 20時、自宅へ向かう。 21時、親が作った食事をとってください。父、母、どちらの作ったも のでもいいです。その間、親と会話しないでください。テレビも 不可。 22時〜24時、あなたの感じたことを、ここのボードに書いてくださ い。 (些細な注意ですが、カセットを聴く時、無録音部の早送りはなしです) これで終わりです。重要なことは、あなたがこれをする事を誰にも話さな いことです。これは絶対のルールです。 では。明日。私と同じ事をしましょう。 あみや ネットから抜けると、彼はカセットを用意した。レコードから、テープに落とす。 もう一回、かけ直して、テープに落とす。カセットを裏にし、もう二回、それをし た。 床につき、ぼんやりと彼は思う。もし起きれたら、やってみよう。 彼は11時に目が覚める。変だと感じる。今日は日常と違う気がする。 自分は会社に行くのを忘れるほど、疲れて、眠たかったか? 彼はトーストとコーヒーを前にして、ぼんやり思った。 浜について、彼はぼんやり海を見た。 空は雲っていて、夕日は見れそうにない。 右手の弓なりに浜が曲がっているその先に、一人男がいた。 縁のない眼鏡をかけた、白髪の老人だった。 なら、違うんだ。 昼間なのに、波もそんなにないのに、サーファーが戯れていた。 また右手方向を見ると、男がいた。 その男は、白髪の老人ではなかったのだ。 さっきは、老人にみえただけだ。 「おい。中村だろ?」 彼の後ろで、彼を見つけたように誰かが言った。その呼び掛けた男は、彼の前に まわり、しゃがみこんでいる彼の顔を確かめるように見た。 「中村じゃねぇか。どうして返事しないんだよ」 高校時代の彼の同級生だった。ただそれだけの男で、高校時代も含めて、話した ことは一度か、二度だった。 「ひさしぶりだな」 ボードに書いてあった約束だ。話をしてはいけない。彼はそう考えると、とても 気持ちが落ち着いた。自分を知っている人間と会うのは、とても緊張する。まして や、話をするなど、もっての外だ。そうなれば、もっと動揺するし、もっとイライ ラする。 「……中村、どうしたんだ。気分でも悪いのか?」 前を塞ぐ人影を抜いて、彼は海を見た。 「中村、今どうしてんの? 大学行ってんの? 働いてるの?」 彼にはその声は聞こえない。 「なんなんだ。お前、気が狂ったのか? それとも、なんか悪いこと効いたか?」 右手方向の男も、座って、海を見てる。波の音だけが、繰り返す。 「それより、なにやってんだ? サーファーの友達でもいるのか?」 彼の目の前の男は砂を蹴って、言った。 「じゃあな。さいなら」 彼は髪の上に掛かった砂を払った。 彼はアルトの中で、『ブルー・マンデー』を聞いた。完成されたダンス・ナンバ ーなのに、とても暗い曲に聞こえる。彼がどこかで読んだ、このバンドの解説が影 響している。彼がこの曲の批評を読んだ所為なのだろう。 都合、八回聞いて、彼は家に向かう国道を走り出した。 家には、誰もいなかった。 全部、壊された気がした。 彼は冷蔵庫から、冷えた炒めものを取り出した。 これも、親の作ったものであることに違いはない。 なら、いいんだろう。 彼は、親と食事しながら、しかも会話しないという事に、なにか意味を感じてい た。だから、親が家に居ないことで、今日一日が無駄になったような気がしたのだ。 思い出してみると、別に、親と食事してください、とは書いてなかった。 だから、いいんだ。別に、約束破りじゃない。 彼はアクセスして、メッセージを書いた。 あなたと、今日、同じ事をしました。 タクヤ おわり
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