CFM「空中分解」 #1829の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(2) 夏。 太陽の光が容赦なく、全てのものを照りつける。 故に。 水の季節。 中学2年生の縁は、机に頬杖ついて、ぼんやりと窓の外を眺めていた。 年老いた教師の声が、低く、眠りを誘うかのように響く。 既に、幾人かの生徒が睡魔の犠牲になっていた。 縁は、眠たい目を階下に向ける。 僅かに見える水面。 どこかのクラスが、水泳をしていた。 濃紺の水着が妙に目立つ。 −−−泳ぐのって大嫌い。 水泳の時間、全部雷か何かで中止になればいいのに。 何とはなしに、思った。 縁は、水泳が大嫌いだった。 −−−あんなプールで泳げたからって、一体何になるんだっていうの? 小学校の時から、泳ぎは上達しなかった。 泳げない子の特訓。 何度行かされたことか。 それでも泳げなかったものだから、母親が躍起になって行かせた。 半泣きになりながら、通ってた覚えがある。 −−−あれが、原因よね。 あんな嫌な経験して、水泳が好きになる訳ないか。 縁は、独り納得し、結論づけた。 そして、黒板を見る。 いつの間にか黒板が白い文字で埋まってて、縁は慌てて手を走らせた。 科目は「理科」 一番好きで、成績も優秀だった。 しかし。 それでも母親は怒る。決して誉めようとはしない。 成績が良くても、少しでもそこで停滞する事を許さない。 まして、ほんの僅かでも落ちたりしたら、それこそ怒涛のごとく怒る。 −−−努力が足りない。 と・・・。 教師の走らすチョークが耳障りな音を立てた。 その音で幾人かが目を覚ます。 「・・・そして、水素原子2個。酸素原子が1個出来上がる、という訳で・・・」 目を覚ました生徒達が慌ててページをめくっている。 後ろの子が前の子に、隣り同志で互いに教えあう声があちこちから聞こえる。 「これは、水に電気エネルギーを与え・・・」 黒板の上にある、丸い時計が、音も立てずに時を刻む。 −−−後5分。 祈るような気持ちで、時計を見つめる。 −−−時間がくれば休憩時間。 次の授業は、理科の続きで、今度は実験。 そうよ、実験! 何が楽しいっていったって、これほど楽しいものはない。 そう思うと、早く時がたって欲しいと、縁は心底願った。 しかし、いらいらする時程、時の流れは遅い。 さっきよりずっと秒針の動きが遅いように見える。 −−−はやく、はやく。 教師の声など耳に入らない。 ぺらぺら、意味もなく、ノートや教科書をめくって。 ちらっと見えた図面。 3つの球でできた、水の分子に電気エネルギーを与えられる。 分解された、水素と酸素。 小さな水素と大きな酸素の原子達の図。 それが今日の実験。 −−−はやくやりたい。 そして。 時は、ゆっくりゆっくり、たっていく。 ☆ 白。 全てが白の部屋。 天井、壁。 そして、白い服。 その中で、縁はぼおっと天井を見ていた。 −−−生きてる? 実感がない。 自分がここに存在している実感がない。 看護婦が点滴の容器を取り付ける音がする。 窓の外から人の声。多い。 そして。 右腕から肩にかけて、鋭い痛みが走る。 その痛みに、苦痛の声を上げ、そして、気が付いた。 −−−痛いってことは、生きてるんだ。 と・・・。 −−−理科の実験の時間。 水に電気エネルギーを与え、水素と酸素にする実験。 「危険だから見ているたげだよ」 「つまんない」 「危険なんだよ」 中央の実験台で、交わされた言葉。 −−−それから、どうだっけ? 縁は、妙に雲がかかったようなはっきりしない頭で考える。 −−−装置に水を入れる。 電気のスイッチを入れる。 しばらくすると、泡がぶくぶくと発生した。 そして・・・。 「こっちが酸素だよ」 そう言って、線香に火をつけたものを近付け・・・。 −−−それから・・・どうなったんだろう? 思い出せない。 −−−何か赤いもの。 水の中みたいな世界。 その次に見えた赤い世界。 あれ。どこかで見た事がある。 何だっけ? −−−気がついたら、明かりがいっぱいの所・・・腕が全然動かなかった。 白い服着た人達。あれって、医者だったんだろうか? 怪我したんだって・・・。 生きてる。 あの時、死ぬって思った。 溺れ死ぬんだって思った。 それは覚えてる。 でも、何で? −−−何で怪我したの? あの赤いの何? 一体何が起こったの? 窓の外が騒がしかった。 ☆ 実験の事故。 水素の爆発。 犠牲者は2人。 内、教師1名。 マスコミが騒ぐには充分な事件。 号泣する家族。 怒りの声を上げる家族。 安堵し、同情する家族。 そんな家族達に群がるマスコミ。 怪我をしたけれど、助かった生徒、多数。 ベッドの脇に集まるマスコミ。 難を逃れ、僅かな傷で済んだ生徒達。 警察は、彼らの証言をもとに結論を出した。 「水素と酸素の出口の配管を間違えた・・・」 縁はベッドの中でその話を聞いた。 結論が解答を与える。 判らないけれども、空白部を埋める事ができる。 −−−「こっちが酸素だよ」 そう言って、線香に火をつけたものを近付け・・・。 −−−だけど、それは、水素で。 水素は爆発するから。 割れたガラスの類。 −−−そして、あの赤いもの。 あれは、「血」。 そうよ、他に何があるって言うの? 右手から、出た血だったのよ。 縁はそう思った。 思いこんだ。 −−−そうよ、あれは血だったんだわ。 事故のショックで頭が働かなかったのよ、あの時は。 縁は決めつけた。 −−−そう。 水に浮かんだ金魚が視界いっぱいに広がったように見えたのは絶対気のせい。 でも、あの時。 金魚を見て。 そして。 死ぬのかな・・・。 そう思ったんだ・・・。 *******************************続く*****
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