CFM「空中分解」 #1828の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
(1) 夏休み。 空に月。 赤と白の縞々の模様。 にぎやかな、声。 どんどん、どんどん。 太鼓と訳の判らない歌が、辺りに響く。 小学校3年生 近藤 縁の右手に握られている、針金の把手の先にある白い紙。 目前の水の中に、赤や黒の魚が泳いでる。 とても元気な黒の出目金が、縁の目前を横切った。 −−−あれが欲しい! 思うと同時に、縁の右手が動く。 水に浸けられた白い紙は、瞬く間に柔らかくなって崩れ落ちた。 「はい、残念でした」 はげた頭にねじり鉢巻きしているおじさんが、縁に袋を1つ差し出した。 受け取った袋の中に、赤い金魚が泳いでいる。 縁はその金魚を見つめ、そして、大きな四角い容器に入った水の中を見つめた。 さっきの黒い出目金はどっかへ行ってしまって、もう判らない。 とっても少ない黒い出目金と、それより少しは多い、赤い出目金。 そして、もっともっと多い、赤い普通の金魚。 縁の手の中にある金魚と同じ姿をしている、金魚達。 −−−縁の金魚は、いっぱいいるあの金魚と一緒。 縁の体が、後ろへ押しのけられた。 さっきまで縁のいた場所に男の子が入りこんでいた。 縁は立ち上がり、そしてもう一度、袋の中を見た。 ぱくぱくと口を開けて、水面近くに浮かんでいる金魚。 −−−縁が欲しいのは、黒い出目金だったのに・・・。 縁はぶすっと頬を膨らませ、歩きだした。 人がいっぱいいる広場から少し離れた所。 そこが、縁の目的地、池。 変な丸みたいな形で中が窪んでる。その窪みの真ん中、一番深い所に水が溜ってた。 池というにはささやかで、だから、誰も、ここに柵を造ろうなんて言い出さなかっ た。そんな「池」。 縁は、ずるずると草の上を滑って、「池」の縁まで辿りついた。 左手にぶら下げていた袋から、水がこぼれて、白い浴衣が濡れている。 縁はますます、ぶすっとして、勢いよく袋をひっくり返した。 水沫が、縁の足にかかる。 縁は2,3度足を振ると、透明な袋をぽんと池に投げ捨てた。 「あんたなんか、あたし、いらないんだから。だから、逃がして上げる。さっさと逃げ ちゃいなさいよ」 そして、さっさと池をよじ上り、賑やかな広場へと戻って行く。 −−−今度は何をしようかな。 お店をぐるりと見渡す。 その時。 「ゆかりちゃん!」 「わあ、まみちゃんだ!」 友達が、縁を呼んでいた。 「ねえねえ。これ面白いんだよ」 「ほんとお?」 縁は今日もらったお金を握り占め、おもちゃのお店へ駆けて行った。 ☆ 夏休み。 空に太陽。そして、雲。 赤と白に飾られてた所には、茶色い木の破片が残ってた。 響くのは子供達の歓声。 「時間よ!ほらほら、皆な並んで!」 プールの担当の母親が、子供達を並ばせる。 縁は、仲のいい真美と一緒に列に並んだ。 「ねえ、泳げるようになった?」 真美が聞いて来る。 縁は、笑いながら。 「うん。5メートル泳げたんだ」 「ええ!いいなあ。真美、まだ浮かぶだけでやっとだもん。せっかくお母さんがさ、 5メートル泳げたら、お人形買ってくれるっていったのに、全然泳げないんだもん」 「お人形買ってくれるの?いいなあ。うちのお母さん、欲しいって言ってるのに、全然 買ってくれないんだもん」 「縁ちゃんも何か約束してみたら?」 「うーん、でもお」 縁は、うつむいた。 縁の母親は、決して物を賭けようとはしてくれなかった。 そんな事を言ったら、決まり文句が縁を襲う。 『そんな事、考える暇があったら、さっさとそうなるよう努力なさいっ!』 −−−努力。 努力しろ。 努力しなさい。 いつもそう。 −−−努力すれば、何でもできるって思ってんだ。 それは、縁にとって苦痛だった。 −−−だって、あんなに頑張ったのに、テスト100点取れなかったじゃない。 いっぱい、いっぱい、努力したのに・・・。 100点取れなかったもん。 努力なんかしたって、100点とれないもん。 いっぱい、努力したって25メートル泳げないもん。 −−−いっぱいいっぱい努力したって、お人形買ってくれないもん。 努力なんかしたって、全然面白くないじゃない! 縁は、機嫌が悪くなった。 ぷくっと膨れた頬。 それが、途端につぶれた。 原因は、男の子の声。 「おーい、金魚が死んでるよ!」 声に導かれ、子供たちはぞくぞくと池の周りに集まった。 「待ちなさい。こら、ちょっと・・・」 大人達の声。それは、子供達には、ずっと遠くに聞こえてた。 池の周りに子供達の垣根ができる。 「ほら、あそこ。あそこ」 最初に見付けた子が、指差す所。 小さな小さな、申し訳程度の水溜り。 ナイロン袋に絡まるように、赤い金魚が死んでいた。 −−−あれ? 縁は、ちょっと首をかしげた。 「ひどいなあ。昨日のお祭りの時のだぜ」 「捨てる位なら、金魚すくいなんて、やらなきゃいいのに」 「ずっと天気がよかったもんな。池、干上がってんのに、こんなとこ捨てる事ないよ な」 いろいろな言葉が、垣根から発せられる。 赤い金魚。 普通の金魚。 −−−あの赤い金魚、いっぱいいたもん。 だから、あれ、縁が逃がしたのじゃないや。 縁が、逃がしてあげた時は、まだまだ、水がいっぱいあったもんね。 縁は、ちゃんと水の中に逃がしたもん。 だから、あの金魚は、縁のじゃないもん。 「かわいそうだね。あの金魚」 白い腹を見せて浮かんでる金魚を見ながら、縁は真美につぶやいた。 ☆ 歓声が響く。 水沫が宙を舞い、音を立ててコンクリート上に落下した。 きらきら光る水面に、いくつもの白い帽子が見え隠れする。 縁は、せいのっと壁を蹴った。 水中の足は、思うように動かない。 思い切り蹴ったつもりでも、2メートル程進んだだけ。 しょうがないから、ばたばた足を動かす。 とっても重い。 誰かが足を引っ張ってるよう。 5メートル行かないうちに、息が苦しくなって、縁は顔を上げた。 途端に、足が沈んで床につく。 顔についた水を、両手で拭って、縁は後ろを向いた。 −−−あーあ。やっぱり進んでない。 縁の位置からプールの壁まで、ほんの少ししか距離がない。 本日幾度目かの挑戦は、失敗に終わったのだ。 今日のプールの時間は、後僅かであった。 −−−また、お母さん、怒るよ。 縁はプールサイドへ上がると、うんざりとした表情で座り込んだ。 −−−お母さんてば、何にも買ってくれないのに、いっつも何メートル泳げたって、 聞いてさ。 それで、前より進んでないと、すぐ怒るんだ。 進んでたって、やっぱり怒るんだ。少ししか、進んでないじゃないかって・・ ・。 努力しないからだって! 縁、ちゃんとやってるもん。 だけど、泳げないんだもん。 努力なんかしたって、泳げないんだ。 縁はますます、機嫌が悪くなった。 プールの中から、真美がうれしそうに手を振っていた。 その時、縁の頭に赤い金魚の姿が浮かんだ。 白いお腹を見せた金魚。 −−−お魚ってちゃんと泳げるのに死んだじゃない。 あんなの嫌だ。 金魚みたいに死んじゃうんだ。 嫌だ。 縁、もうプール来たくない。 −−−もう、縁は泳がない。 *********************************続く****
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「CFM「空中分解」」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE