CFM「空中分解」 #1771の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
1.グラシーおばさん @ 草原の朝は、降り止んだばかりの雨を慕うように、空へと立ち昇ってゆく靄(もや) とともに明けた。芽吹いたばかりの、少女の肌のように軟らかな若葉の上を、小さな水 滴がかけまわっていた。 ヘルマーは、朝露に素足を濡らしながら、草の踏みしだかれた小道を歩いていた。十 一才の華奢な少年にはすこし大きすぎる、ブリキのミルクタンクを引き摺りながら。森 の中の彼の家から、牧草地の向うの農場までの往復が、ヘルマーの朝の日課だった。 道脇の堤にある巣穴から、一匹の野兎が鼻面を突きだしてひくひくと臭いを嗅いでい た。野兎は、ヘルマーがずるずるとタンクを引き摺って通り過ぎてしまうと、そっと穴 から抜け出して糞をした。人間とほんの少ししか離れていないというのに、野兎はまっ たく気にしていないようだった。 小道から五歩ほど離れた草薮の中の巣に、雌のヨタカがうずくまっていた。彼女は卵 を四つ抱えていたのだが、ヘルマーが通って行くのを、昼間はよく見えない目で、じっ と見守るだけでべつに逃げようとはしなかった。たまたま、真正面からヘルマーに出合 ってしまったカナヘビだけが、驚き慌てて叢へ逃げ込んでいった。 草原の生き物たちはどれも、ヘルマーをあまり怖がらない。それは単に彼がまだ子供 であるためかもしれなかったが、いつもどこかしら上の空で通り過ぎて行くこの少年を、小さな動物たちもそれほどの脅威とは思わなかったのだろう。 実際、ヘルマーは何に対しても危害を加える気などなかった。家から農場までの約半 マイルを、毎朝、彼は空想に耽けりながら歩いた。北方の氷の山に住むエルフたちのこ と。ノルマニア城の中庭で飼われているというユニコーンのこと。それから、黒の森に 巣くう様々な怪物たちのことなど。みんな、ランソン農場のグラシーおばさんに聞いた 昔話に出てくる生き物ばかりだ。 でもグラシーおばさんは、それらはただの伝説ではないと言っていた。 「北の氷の国には本当にエルフが住んでいるそうだし、ヘルマー、あなたの住んでる森 よりも、もっと深い森の中では不思議なことがたくさん起るのよ。それに・・・」 と、グラシーおばさんはそこで言葉を切った。 「今でも、黒の森に入る人はほとんどいないでしょ。よほどその必要がない限りはね。 そして、どうしても入っていかなきゃならないときには、こうやってお呪(まじない) をするのよ」 おばさんはそう言って、顔の前で空中に八角形の星型の線を描いた。 + + ++ ++ + + + + + + + + +++++++++++++++++ + + + + + + + + + + + + +++ +++ + + +++ +++ + + + + + + + + + + + + +++++++++++++++++ + + + + + + + + ++ ++ + + それは、”エレリアの星”と呼ばれる破魔の呪(まじない)の印しだった。 ヘルマーはときどき、「おばさんは本当は本物の魔女なんじゃないかしら」 と思う ことがある。グラシーおばさんのお呪(まじない)はなんでもよく利くし、悪戯をした ときもたいていすぐに見つかってしまう。ときには、ヘルマーの考えていることを見透 せるんじゃないかとさえ思う。おばさんはあんなに若くて綺麗なのになんでも良く知っ ている。ほんとうに不思議な女(ひと)だ。
メールアドレス
パスワード
※書き込みにはメールアドレスの登録が必要です。
まだアドレスを登録してない方はこちらへ
メールアドレス登録
アドレスとパスワードをブラウザに記憶させる
メッセージを削除する
「CFM「空中分解」」一覧
オプション検索
利用者登録
アドレス・ハンドル変更
TOP PAGE