CFM「空中分解」 #1565の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
昭和六十二年、七月。下関の高級料亭、春帆楼に於いて、二人の青年が、 ふぐさしをつつきながら、議論していた。 −−この、ふぐというやつは、漢字で書けば、河の豚だ。馬鹿々々しい。 −−うむ。 −−この様な由緒正しき料亭でふぐを食うのは気分もいいが、スーパーで 売っている、ふぐ茶漬け等は、頂けない。 −−うむ。 −−第一、あのテレビでやっているコマーシャルが、まずいじゃないか。 下関出身の無名に近い作家を、壇ノ浦の岩場に立たせて、その後、画面は 薄汚い原稿用紙の大写しになって、なにやら書いてある。草稿のつもりな んだな。 −−それは知っている。あの文章は、よく見ると、全くの無意味だ。下関 のふぐは云々というやつさ。 −−新聞の投書欄で読んだが、どこか遠い県から下関に来て、料亭でふぐ を食ったら二万円取られた、これは高過ぎるのではないかという男が居た。 よそ者はあれだから困る。相場を知らないんだ。 −−うむ。 −−関係ないが、軽薄に生きる事は、幸福かね。笑っちゃあいけない。 −−笑いをこらえて言えば、幸福だ。にせものでも、幸福は幸福だ。けれ ども、単純は、不幸だね。 −−待てよ。それは性質によるじゃないか。単純な楽観主義者は、幸福だ。 −−いや。それは君の推測に過ぎないよ。単純の苦悩は、単純にしかわか らないだろう。 −−そうかも知れぬ。苦悩は、その内容が馬鹿くさいほど、かえって苦し いものだからな。 −−ちょっと、醤油、下さい。 −−そこにあるじゃないか。いいですよ、あります。 −−いや、ない。ありませんよ。持ってきて下さい。 −−あるじゃないか。ほら、これ。 −−それはラー油だよ。ラーメンに入れる香辛料だ。 −−いいじゃないか。ラーメン食ってるんだから。 −−しかし、ふぐさしラーメンという名前なんだから、醤油を入れるべきだ。 と言っても、ふぐさしの形に切った かまぼこ だけどな。レプリカさ。 −−もう出ようじゃないか。ここは暑くてかなわん。第一、春帆楼だなんて、 ラーメン屋の名前にふさわしくない。のれんに書いてある高級料亭という文 字も、誇張が過ぎる。 −−そうだな。おじさん、勘定お願いします。 −−二人合わせて六百四十円か。この店、高級料亭にしては安いな。 −−うむ。 二人はその屋台を出た。
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