CFM「空中分解」 #1559の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
『田宮自動車販売、自動車販売部』 快晴の新宿副都心。一台の観光バスがしなやかに減速し、高層ビルのど真ん 中、高架橋の脇に停車する。ドアが開くと、新人らしく初々しい化粧をしたガ イドの女の子が下りてくる。しかし、明るくなければならない表情が、どこか 強ばっていた。その怯えの理由は、バスの中を見れば分る。 「よーし、荷物をもって外に三列横隊で整列だ! 急げ!」 「きゃっ」 後から押されたガイドは不意に水たまりがあったように、腕をWにして飛び 退いた。 「もたもたするな」 運転手は帽子の下に手を入れ、頭をかいている。 「まったく、この連中ときたら……」 ガイド嬢は手の置場を考える余裕もなく、ちょこんとのった帽子を茫然と押 えている。彼女は、わけ知り顔の運転手に尋ねる。 「なにをはじまるの? ねっ、なに?」 乗客はバタバタとバスを下り、次々隊列に加っていく。そして、隊列が整う と、四十半ばと思われる男が列の正面に立った。 「いいか、お前ら。まだ研修期間中だからって畏縮したり、固くなったりする なよ。今日は研修だと言うことは忘れておけ。お前らは田宮自動車販売のセー ルス・エリートなんだ。自信をもって行動しろ。この三ヶ月、叩き込まれたこ と全て出すんだ」 こんな都会では、けばけばしく思えるグリーン地の迷彩服を着込んでいるそ の男が再び口を開いた。 「坂本五郎! 我々が接客において貫くべき概念はなんだ」 「はい! 人間は恐怖で動くものである」 きびきびと発音し、きびきびと動く。彼ら新入社員もまた、販売攻撃部長、 中島進と同様に、迷彩服を着て、ヘルメットを着けていた。 「そおーだ。造れば売れる時代は古代の話だ。そして、客に媚を売る時代も終っ た。顧客は安易に騙されなくなり、消費者団体も力をつけてきた。説得する時 代から、納得してもらう時代に入ったのだ、だが「「」 彼は一段と声を上げ、 「これからは、脅して買わせる時代だ」 外にいるバスガイドは、彼が大声を出す度に目をぱちくりさせる。 「今日、各班に与えられた目標販売数(ノルマ)は何台だ、鈴木信一!」 そう呼ばれた男は、隊列の奥でのそのそと動いた。 「各班、スタンダード・モデルを五台です」 「きびきびとしろ、やり直し!」 信一は涙目になりながらも、もう一度背筋を伸して、 「各班、1600・スタンダード・モデルを五台です」 「よし。目標五台をクリアしたら、次は十台、次は二十台だ。単に、ノルマを こなしただけで満足するんじゃないぞ。我が社のシェアはまだまだ低いんだか らな」 後に手を組んで、いかにも、といった調子で一人一人の顔を眺めた。 「高岡一平、狙うべき人物はなんだ」 一平のヘルメットはサイズが合わず、眉毛まで被っている。姿勢を正す瞬間、 目に当たり、顔に手をやる。 「馬鹿が! 装備は常に調整しておけ。ヘルメットからそんなことでは、撃ち たい時に撃つことも出来ないぞ。マシンガンにエアは入っているか? 予備の ペイント弾はしっかり持っているか? そういったことをもう一度俺に言わせ るつもりか。きさまら」 「申し訳ありません」 部長はつかつかと歩みより、まがったヘルメットをこずいた。 「三人の部下を指揮する班長が、そんなことで、ど・う・す・る・ん・だ・よ ええ、高岡。ペーパー良くても実戦に弱い、じゃあ、仮の班長とはいえ失格 だ」 部長はその横のサングラスを掛けた男に目をやる。彼は高層ビルを眺めなが ら、タバコをふかしていた。 「難波、いい態度じゃねぇか……えっ」 部長は踏み込み、難波祐二の胸倉を掴む。 「お前が班長を引き継げ。今から高岡班は難波班とする。班長に限らず、この 事は憶えておくといい。この世は全て戦場だ。力のある奴が生き残る」 その位置から全体をなめるように見回し、 「目標は中流の下の、車に無知な連中だ。相手が免許を持ってないと言っても 聞き入れるな。他社の自動車を保有していたら、その価格によっては買い取る こともしろ。たかけりゃ、我が社のを押しつけるだけだ。 そして、契約書を交わしたら、トレード・オフされないように、顧客には十 分に警告を与えておけ。警告とは何か、分るな?」 肩を叩かれた男は答える。 「十分な脅しをかけることです」 「それから、一人で手柄をたてようなどと思うなよ」 ちらりと難波を見やり、 「このなかには、一匹狼的なフリーランスのセールス・ソルジャーに憧れて入 社したものもいるだろうが、現代は一人の英雄より、組織行動できる人間が重 要なんだ。個人の能力が問われるのは、戦術マニュアルを理解し、それが出来 るようになってからの話だ」 部長はヘルメットに手をやり、隊列の前に立った。 「最後にひとーつ。我が国最大手の尾張自動車販売を見つけたら、容赦なく撃 て。間違っても額に赤ペイントを付けて、とぼとぼ社に戻って来るなどという まねはするんじゃねぇぞ。一般人だって、ペイント評点方式は知ってるんだか らな。我が社の恥を世間に晒す事になる。やられる前にやるんだ! よし。各 班、割当て地域に散開しろ!」 全員がエア・マシンガンを携帯した10個の班は、それぞれの目標へと走り 出した。 「俺の班は、バスにのり込め」 部長はそういって、手で合図した。 「あのー、これは一体、何なんですか」 バスガイドは、のんびりとタバコを吸っている難波に訊く。 「田舎から出てきたばっかりだね、君。これは自動車販売ってやつさ。もっと も、俺たちはその研修だけどね」 「へ?」 「難波、さっさと行け!」 部長が怒鳴る。 「自動車買う気があったら、ここに電話しな。じゃあな」 難波はそう言い紙切れを渡すと、新宿駅方向へ走り出した。 「祐二、こんな店入ってどうすんだよ」 一平は班長を下ろされても落ち込むこともなく、逆に緊張がほぐれたようだっ た。 「きさま口の利き方に気をつけるんだな。それから、難波班長って呼ぶんだ。 高岡」 「班長、販売作戦に移らなくてよろしいのですか」 難波は目の前に並べられたサングラスを手に取りながら言った。 「お前たちの目は、やさしすぎるんだよ。すごみが足りないんだ。だから、全 員サングラスを買うんだ」 一平たちは顔を見合せた。 「誰が金出すんだよ」 「庄司、きさまも「「」 「すみません。金は誰がだすのでしょうか?」 言い直したものの、小林の口は不満げに歪んでいる。 「俺が出す。効果があれば、経費として認めてくれるさ」 あれこれと選んでいる難波を見た店員は、口許に愛想笑いと迷惑そうな目を している。「それから、お前たち、タバコは吸わないのか?」 「タバコ? あんな健康に悪いもの、今どき吸う奴いねぇよ」 「そうそう」 「金田もか?」 「いえ、私は吸ってますが」 「名柄は?」 「何で、そんなこと訊くんですか」 面倒くさそうに難波は振り返った。 「いいから、答えろ」 「ソフティー・ライト」 「そうか……よし。今日から、全員外国製の強めのタバコを吸え。そうだな… …アメリカのが好ましい」 難波はふくれっ面をした三人を指差して、 「命令だ」 と言い、 「《強いアメリカ》って感じを身に付けた方が、脅しが利く。無精髭を少し生 やしてれば、もっといい。我々田宮セールス・フォースとしちゃ、アメリカを 真似ることには非常に意味があるはずなんだ」 迷彩服の四人が、ミラーグラスを掛けアメリカもののタバコを吸いながら駅 周辺の雑踏を歩いている風景は、明らかに異様だった。彼らはサングラスの奥 から、気の弱そうな自称中流家庭のサラリーマンを狙っているのだ。 彼らの戦略としては、周りを歩くファッショナブルな若者たちは、販売の対 象となっていない。もちろん、ヤーさんも、金で太ったような見るからに金持 タイプでもうまくない。なぜなら、金持にはもっと利益率の高い、高級モデル を売りつけたいし、外車とスポーツ車志向の若者には結局トレード・オフされ てしまうからだ。そしてヤーさんには脅しが出来ないし(単純に怖いからだ)、 彼らの欲しがる車(ステイタス)は、決して田宮自動車の製品ではないからだ。 いくら脅して売るにも、それなりの理屈は必要なのだ。 ありったけの注意を傾けて通りを見回しながら、彼らは歩き回る。しかし、 それらしき人物は見つからない。難波は二、三度銃を向けて話しかけたが、脅 しにかかるような人間ではなかった。オバさんと東京見物らしき爺さんで、反 対に珍しがられて、写真を撮られてしまった。 「くそ、なんてカンが悪いんだ」 そう言って、難波はタバコを靴で踏みつける。本当はヘルメットを叩きつけ たいほど悔しかった。難波は写真を撮られる時、愛想笑いしてしまったため、 自己嫌悪に陥ってしまった。これじゃ、示しがつかん。 彼らが明るい日差しに満たされた通りにかかった時、庄司が言った。 「俺、段々はずかしくなってきた。こんな格好、もうやだよ」 「なにが恥かしい」 「皆じろじろ見て笑ってるじゃないか」 「そうか。かたまって歩いてるから警戒されるんだろう」 ちょっと違う気がするな、と小林は考える。 「それじゃあ、ここらで散開して個別に行動しよう。カモを捕まえたらすぐ無 線で位置を知らせろ。30分しても誰も発見出来なきゃ、ここに集合だ。作戦 の練り直しをする。よし、散開」
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