CFM「空中分解」 #1523の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
唐傘一本 おや、いらっしゃい。 あらあ、どこぞの貴族かというようなりりしいお方で。 何かお求めで……? はあ……。 そうですね、この唐傘なぞどうですか……。 とても良い品ではございます、丈夫で……。はい。 それはとてもお安くなってはおります。 は、理由……ああ、品の良さにしては、値段が安すぎると……。 そうですね。ま、私共の品は全て安いというのが、取柄と申せましょうか。 ええ、はあ、やはりそれなりの理由がある訳ではございますが……。 は、お聞きになりたい。まあ、それはお話ししておいた方が良いでしょう。 こちらも、商売とは言え、やはり私にも良心というものがある以上、お話し する必要を感じる次第でございます。 あ、よろしいですか。 では……。 *** この唐傘は江戸時代の物でございます。 何故、判るかと言われますか。 それはもう話の本筋にかかわる訳でございますが、この唐傘には一つの話が 決して忘れられることなく、付いてまわっておりまして、その話の内容と申し ますものが江戸の町が舞台なんでございます。 この最初の持ち主といいますと、男性の方でございました。 それはもうたいそう男前であったという事で……もお、お客さんそっくり。 いやあ、ご謙遜を。 ところが、ですね、これがまたお坊さんだったりする訳でして……。 ええ、この頃の坊さんというのが、女人禁制という……。はい、世の男性諸 君にしてみれば、ライバルが一人減ったというところでしょうか。 私のような、ぶ男にとてみれば、いやあラッキーてなもんで。 あらま、失礼。ははは。 こほん。 ところがですね、例え坊さんといえども、世の女共はやはり、顔の良いのに 弱い訳です。連日大勢の女性が、願かけやら法事の打ち合わせとかで、押し掛 けて来ていたということです。はっ? いえいえ。この坊さんはたいそう身持ちの固いお方で……。はい、誰にも手 を出さなかったとか……。 いやあ、確かに。うらやましいの一言に付きますな。私でしたら、連日連夜 肉布団の上で……あ、いやいや、失礼。 えー、どこまで。 ああ、肉布団……いえ、女性が押し掛けるというところでしたな。はい。 で、まあ、たいそう熱心な……仏門にですよ……に熱心なお坊さんで、門主 様というんでしたかね、お寺のお偉いさんにですね、気に入られてたんです。 ところがですなあ、いつの世にも嫉妬深い奴というのがいましてねえ。 はあ、同期の坊さんの一人でして、名前を仮に、¥さんとしておきましょう か。ああ、最初の持ち主の坊さんは、$さんということで……やはり舶来物は 人気が高いということで。いやあ、はははは。 でこの¥さん。惚れた女がいた訳です。まあこの¥さんという奴は坊さんの くせして、大の女好きでして……。ええ、毎夜のように、いろは茶屋っていう 坊さん相手の遊郭みたいなやつに行ってた訳です。で、そこの女に惚れたって いうところがどっこい、いつものパターンという訳で……。 はいはい。女は$さんに惚れてた訳です。 で、¥さんは嫉妬に狂い、しかも$さんは門主さんの覚えめでたく、どんど ん出世コースを行っている。 これはもう¥さん怒り狂って、何としても蹴落としてやろうと、あの手この 手を考えた訳です。 で、¥さん、ピンときたところが……『これはこれは、寺社奉行様……御機 嫌麗しく……』だった訳です。 え、何で¥さんが寺社奉行と親しいかって? そりゃあ、それがセオリー……いえいえ、実はですね、寺社奉行さんも¥さ んに負けず劣らずの女好きだった訳です。 つまり、『例の女、お奉行様の元に遣わす換わりに……』という訳ですよ。 お、もう、お判りで……さすがですなあ。 つまり、お奉行さんは、寺社方だっていうのをいかして、そこの門主さんに そっと耳打ちした訳ですよ。 『そこもとの$という輩、女犯の罪ありとの訴えがあってな……』 まあ門主さんもまさかとは思ったんでしょうが、なんせお上のお役人には逆 らえぬという事で…… で、この$さん、お奉行さんの特別なお計らいとか何とかで、晒し者にはな らなかったそうですが、でも、女犯の罪ってのは仏門では大きいですからね、 破門を言い渡された訳です。 で、この坊さんの破門っていうのが、唐傘一本だけ背負って追い出される訳 ですよ。 まあ、いい男だったっていうのが不運の始まりで……。 つまり、その時の傘が、これな訳です。 で、これからが話の本筋……聞いてますか? お客さんてば。 実は$さんがですね、後になってさすがに¥さんの悪巧みに気付いた訳です。 で、温厚な$さんも怒った怒った。真面目人間がひっくり返ると恐ろしい事 で、$さんときたら、南蛮渡来の黒魔術とか言うのに手を染めて、唐傘に呪い をこめて秘かに¥さんに送りつけたと……。 で、その呪いが恐ろしい事に、傘の持ち主は決して異性にもてぬ、というや つで……付き合う片っ端から壊れて行くという不幸も不幸、こんな不幸なこと はない。 この世の男にとって、女にもてぬ程不幸な事はないっ!! ¥さんは、世の全ての女に嫌われて、絶望して自殺してしまったとか……。 まあ、自業自得な訳でして……。 *** は、お買いになられると……そんな珍しい傘だったらぜひ手に入れたいと。 はあ、そうですか、ぜひにと言うのなら、お売りしますが、返品は決してお 受け致しませんよ。それでも欲しい、と? はい、代金をお受けします。はい、確かに、品物を……。 しかし、お客さんももの好きですねえ。女にもてたくないんですか? は、今もてすぎて困ってるから、もてなくなりたいんだと……。はあ。そり ゃまた随分ぜい沢な悩みで……。え、いやいや。 ええっ!何ですと? なんと、お客さん、ご紹介者有りの口で。 いやあ、こりゃまいった。 それならそうと最初に言ってもらえれば、私の小噺なんぞお聞かせしません でしたのに。 ああ、いやですね、あの噺ってのが紹介者無しのお客さん相手のもんでね。 はい、大丈夫。効果は抜群でございますよ。はい、絶対確実。効き目ばっち り なんせ『効果抜群、絶対確実、祈願必勝<野呂易乃小道具>店』がモットー でございますから。 −−−−「傘」−−−− (唐傘一本) 舞火 ****************************END****
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