CFM「空中分解」 #1520の修正
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霊能力研究所の杉野森弥三郎が三本松を訪れたのは冬の寒さもようやくやわらごうとしていたある日のことである。 立ち並ぶ旧家の中に「梅田」という表札をみつけ、呼び鈴を押す。引戸をあけて出てきたのは和服姿の妙齢の美人であった。 「あなたがお手紙をくださった梅田手児奈さんですね」弥三郎は挨拶もそこそこに切り出した。「こちらに霊能力者がおいでになるとか」 「どうぞお上がりください」手児奈は弥三郎を招き入れた。 「実は霊能力者と言うのはうちの祖父なんです」畳の香りとお茶の香りのほどよくまざった部屋で手児奈は語った。「祖父は……書道が好きでよく硯に向かっているのですが……ときどき狐がついたように未来のことを書き始めるのです」 「予知能力ですね」 「私には難しいことはよくわかりませんが……おそらくそういったものではないかと」 「わかりました」弥三郎は立ち上がった。「非常に興味深い事例です。ぜひ、おじいさまに会わせてください」 弥三郎は離れの一室に案内された。障子の隙間を通して、老人がひとり書をしたためているのが見える。 「祖父の喜三郎です」手児奈が説明した。 弥三郎が障子をあけて中に入ろうとしたときである。不意に喜三郎が一声叫んだかと思うと、くねるように体をよじらせながら筆を紙にたたきつけ始めた。弥三郎が驚き見守るなか、突如筆を落とすと激しくけいれんして動かなくなった。 「いつもこうなのです」やけに冷静な手児奈の声が響いた。 弥三郎は障子をあけると中に飛び込んだ。とにかく、老人が何を書いたのかを見届けなければならない。喜三郎は書き上げたばかりの紙の上にうつ伏せに倒れている。弥三郎はもどかしげに老人の体を起こした。 紙には巨大な傘のマークが書かれてあった。 「ただの天気予報じじいじゃないですか馬鹿馬鹿しい」弥三郎はすぐさま荷物をまとめにかかった。 「あなたは祖父の本当の力をご存知ないのです」弥三郎の背中に手児奈のうつろな声がかぶさってゆく…… その夜、三本松全域に傘が降った。 [完]
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