CFM「空中分解」 #1508の修正
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(3) バスを降りる。 慎は、空を見上げた。 雨なんぞ降りそうにない。 それでも一つ二つ雲が出て来た。 まっ青な空に、まっ白い雲。緑の山に白い雲。 バスから降りた子供達は、まっすぐ合宿所に入っていく。緑の中の白い建物。 −−−病院みたいだ。 慎は思う。 思うと同時に、おなかが痛くなる。 「おい、何してる。さっさと荷物を置いてこい」 太い声が慎を押す。嫌な先生。いつも棒を持って、みんなをせかす。 慎は走って、部屋に向かった。 荷物を置くと、すぐ勉強。夕食後、また勉強。10時まで。そして、就寝。 朝5時起床。そして、登山−−−心身を鍛えるためとか−−−。終わったら勉強。 勉強。勉強。勉強。 「加藤君、急がないと怒られるから……」 佐藤 恵が慎の側に駆けよって来た。 「うん」 慎は気のない返事をしつつ、それでも急ぐ。 「ねえ、天国って空にあるのかな……」 突然、恵がつぶやいた。 慎は驚き、目を見張る。 恵は、塾でも学校でも成績よくて、真面目で、よく母親に比較されて……そんな非現 実的なこと言いそうにない子。そんな印象。 とてもうらやましくって……。 なのに。 「きのうね。おばあちゃん死んじゃった。だから、今日葬式なのに、でも塾に行けって ……」 悲しそうな恵。「おばあちゃん、もう天国行ったかな?天国って空よね。やっぱり」 「雲の上だよ。あのふっかふかのじゅうたんのような雲の上に」 窓の外を見る。白いふかふかの上等な織物のような雲。 きっとあんな雲の上に天国ってあるだろう。 「あたし、勉強って嫌いじゃなかった。何かを知るって、計算を解いて答えを見付ける のって楽しかったもん」 元気のない声。 「けど、今は大っ嫌いっ!」 強い否定。そんなこと言いそうになかった恵の口から出た強い否定の声。 「おばあちゃんとの最後のお別れさせてくれない勉強なんて、大っ嫌いっ!」 「……」 慎はただ沈黙。 雲の上。 まっ白い雲の上。 きっと天国あるだろう……。 (4) 焼香をする。 一礼し、後ろへ下がった。 暑い。 強い陽射しが容赦なく照り付ける。 坊さんの読経の声が低く流れる。 低くて、何を言ってるかまったく分からない。 −−−まっ、分かったとしても意味なんざわかりゃしないか……。 加藤 強は首筋を伝う汗を拭う。 「あ、お久しぶりです、加藤さん」 突然声を掛けられ振り向くと、昔の同僚が立っていた。遠藤 隆。 「あ、こちらこそ。元気だったか?」 差し出された手を握りかえす。 脱サラを目指して、2年前に会社をやめた遠藤。たくましく、やる気に満ちてる。そ んな印象。 「今、何を?」 「店出したんですよ。町の小さな本屋ですけどね」 「本屋かあ。君は本が好きだったなぁ」 「ええ。夢だったんです、自分の店って」 「いいね」 強は、心底うらやましかった。 かつての同僚は、以前の彼よりはるかに生き生きしている。 「あの会社だとよっぽどいい大学出てない限り、出世コースなんてどうあがいても入れ っこなかったですからね。同族会社ですからねぇ」 「確かに。大きいだけに、余計出世なんて難しい。俺も結構いい大学だったが、いって も部長。まあ課長だろうね」 「それだったら、と思いまして」 にこやかに笑う。と慌てて、口を塞いだ。 読経の声がまだ響く。 「ところで、俺ここと遠縁になるんですけど、ここの恵ちゃん、塾にいかされてるんで すよね」 そう言われて強は思い出した。 確か、慎と同じ学年の子がこの家にもいたはずだ。 「恵ちゃん、行きたくなかったらしいですけどね。ここの母親ってのが教育ママでね。 無理やりいかせたんですよ。ったく、いい学校行かせてどうなるっていうんでしょうね ぇ」 遠藤のつぶやき。 そして、強は溜息をつく。 何よりも強はわかってて、それでも慎を行かせてるから……。 「肉親の情より、勉強の方が大事ってのはいただけない風潮ですね」 きっぱりと言い切る彼の言葉に、強は耳が痛い。 確か、このはっきりとした性格が上に反感を買っていたっけ。 強は、再び溜息をつく。 読経の声が響く。 陽射しが微かにかげる。 わずかな雲が、人の世界に影を造る。 人の言葉が辺りに響く……。 ********************************つづく****
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