CFM「空中分解」 #1490の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
「高所恐怖症の鳥達」 作 美樹本震也 あっ、章子ちゃんだ。 幸平は、小柄なショートヘアの女性を見つけて、そう呟いた。 丁度彼女は、出ていく所だった。 幸平はあわてて、食器を流しに放り込むと、彼女の後を追ったのだが……。 「おい、幸平。美智子が探してたぜ」 幸平が学食から出た所で、和弘と鉢合わせになった。 「ちっ、ろくな用事じゃないな」 幸平は、露骨に嫌な顔をした。 きょろきょろと見回した幸平だったが、章子の姿はもうなかった。幸平は邪魔者の 和弘を睨んだが、和弘は蛙の面にしょんべんだった。 「お前達、どうしてそんなに仲が悪いんだ。同じ屋根の下に住んでるってのに」 「へっ、マンションが同じ屋根の下か。笑っちゃうね」 「幼なじみだろ。美智子って結構いい線いってるじゃん。どこが気にいらないんだ」 「それじゃ、お前にやるよ。あいつをどっかに連れてってくれ」 幸平は沢山だというふうに手を振った。 美智子は、幸平と同じマンションに住んでいる。幼稚園、小学校、中学、高校、そ して信じられないことに大学まで一緒だった。小学校までは一緒に遊んだが、成長す るにつれて、幸平は美智子を避けるようになっていた。 美智子は幸平と歳が同じくせに、あれこれと小うるさく姉さん風を吹かせることが 多い。しかも、とびっきりの我が儘だった。 「あーら、あんた達、ここにいたの」 真っ赤で派手なミニスカート、同じく真っ赤なブーツ、上は白いブラウス姿のわり とスタイルのいい女の子がやってきた。 あちゃーっ。噂をすれば美智子である。幸平は右手で顔を覆った。 「ねえねえ、幸平。相談があるんだけど」 「あっ、悪いけど。俺、これから経済学の講義なんだ。また、またね」 幸平は美智子に手を振ると、急ぎ足でその場を立ち去ろうとした。 「ちょっと、逃げることないじゃない」 美智子は幸平の腕を掴むと引き止めた。 「放せよ。あの教授って遅刻にうるさいんだぜ。禿げ頭を真っ赤にして起こる姿なん か見たくもないよ」 「へへへ、経済学は今日は休講ですよー。掲示板見てないの?」 まっ、まさか。仕舞った。いかん! 幸平は慌てた。 「おい、和弘。お前、近代思想史のノートをコピーさせてくれるって言ってたよな」 とっさに幸平は、和弘に助け船を求めた。 「なんのことかな?」 和弘は知らぬ顔で手を振ると、二人を残してさっさと図書館の方に歩み去った。 「覚えてろーっ、和弘。この前の麻雀の貸し、返せーっ」 マンションの屋上は、人気がない。それにしても、昨今の御時世に屋上のドアが開 いているのも不思議なことである。 屋上は昔から、二人の遊び場であった。 このマンションの周りには、他に高いビルもなく、街の景色が見渡せた。 川縁にあるマンションは見晴らしが良かった。 子供の頃、よくここに登って来ては、空を翔ぶ鳥の姿を飽きずに眺めたものだ。 「ねえ、わたしたちも鳥みたいに飛びたいわね」 「でも、おっかないよ。ぼくらのおうちだって、こんなに高いんだ」 「幸平ちゃんて弱虫ね。鳥はもっと高い所を飛んでるのよ」 「やだよ」 「だいじょうぶ。私がついてるもん」 美智子はニコッと笑った。 あの頃はまだ美智子も可愛く、幸平の大の友達だった。 だが、いつの頃からか、美智子は幸平にとって疎ましい存在となったのだ。 「お前なー。俺は、お前の召使でも、何でもないんだぞ」 高いネットの付いた屋上の手すりに、幸平はもたれていた。 案の定、美智子の話は彼の頭に血を登らせるのに充分だった。 「ねっ、お願い。助けてよ。手が足りないんだ」 「嫌だ。誰がそんなさらし者になんかなるか」 「あーら、大丈夫よ。ぬいぐるみ被っちゃえば、誰だか分かんないもん」 美智子は、「カトレア会」という同好会に入っている。 これがとんでもない同好会で、幼稚園や養老院やいろんな施設を回って劇を見せる ことを生業としている。生業とは言ったが完全にボランティアである。 何が面白くて、人に下手な劇を見せているのか、幸平には理解できなかった。 この週末、大学の側の保育園を訪れ、劇を見せることになっているのだが、カトレ ア会の桑田という男性メンバーが、急に参加できなくなったというのだ。 そこで、幸平にお鉢が回ってきたという訳だ。 「ねえぇ〜ん」 美智子は長い髪をなびかせて、甘い声で幸平に擦り寄る。 「やだ!」 「ふ〜ん。実は、今度、野村さんがメンバーに入ったんだけどなあ〜」 「野村? 野村って、あの、野村章子のことか」 美智子はにっこり微笑んだ。 家政科の野村章子は、美智子と違い、おとなしく清楚な感じのする子だ。 何度か幸平もお茶、映画、コンサート、ディスコ、テニスと考えられる限りの手で 章子を誘ったのだが、彼女はいつも恥ずかしそうに彼の誘いを断った。 そして、よりによってそんな現場を美智子に目撃されていたのだ。 この機を逃す手はないということで、幸平は渋々、代役を引き受けてしまった。 (続く)
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