CFM「空中分解」 #1474の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
15 《大団円》 (上) 騒動は1時間後には和解していた。ロマンシア側もたいした被害は無かった訳だし、 警察なんかが入ることになったらかえって損害は大きくなってしまう。それに、萎えて しまった羅清を見て奇人ではあるが、悪人ではないということが分かったのだろう。倍 額を払うことで支配人と社会観察クラブ調査隊長は笑顔で握手したのだった。 杉丘はタクシーを取って先に帰っていた。気を失っている中村を羅清がおんぶして、 彼らは戦場を後にした。流石に夜の風は冷たい。あるいは、中が暑過ぎたのかもしれな いが。 「しかし、やるじゃない、見直しちゃった。」藤田は笑った。 「………でも、良かったのか………」 「良かったに決まっているじゃない。きっとあの人にも良かったはずよ。」藤田は自分 でも気がつかないうちに、杉丘のことを“あいつ”から“あの人”と呼ぶように変化し ていた。「そして私にも。」 「う………うん。」 角を曲がったところで道は2つ別れていた。彼女は繁華街へと通じる一方の方に立っ た。 「じゃ、帰らせてもらうよ。」 「え………ちょっと。」奇人は戸惑った。「え………じゃあどうするの、中村さん。」 すると藤田は悪戯気に微笑んだ。「あんたの恋愛対象者でしょ、泊めてやんなさいよ。」「あ……ああ?……ああああああああ!」 「それにねぇ」彼女はトレーナーの裾を引っ張った。「急行してきたからこんな格好で ………一刻も早く帰りたいのよ。こんなところ人に見られたくないわ!。」 「しかし………泊めるなんて立ち入ったことを………。」 「何言ってんのよ、ラブホテル中に響き渡る程絶叫して告白したくせに。」藤田はくる りと背を向けて歩き始めた。「じゃ、また明日。」 「………さよならぁ………」彼は気の抜けた声を出した。 頭上には事が始まったときと同じように、月が冷ややかな光を放出していた。 タクシーの窓の外をネオンの洪水が流れ去る。彼はそれをぼう然と眺めていた。 彼と奇人とは同一種の人間なのだ。最高と最低。この両極端にいるものは条件が違う だけで孤独ということは同じだった。そして、なかなか自分では殻を破れないという点 で。 今、彼は羅清に非常に親近感を覚えていた。すくなくとも、自分と同じように世間に 胸中を理解して貰えずに孤独を味わって生きている人間がいることが分かったのだ。も っとも、これで彼らが歩み寄るということはないだろう。ただ、お互いに超越した理解 をしあって、おのが道を進み、これからは触れ会うことはないのだ。 中村には悪いことをした。彼女には愛情の念は少しもなかった。ジレンマから発生し たフラストレーションが彼女を餌食にしようとしていただけなのだから。 藤田についての考え方も変わった。あいつが嫌がるのも無理は無い。でも、好きなの だ。心の中のマドンナとしてこれからは彼の推進力となっていくであろう。 100%のホモ・サピエンス効果は彼にも現れており、変化が起こりつつあった。 タクシーは明けゆくしじまに消えていった。 家にようやくのこと着き、鍵を開ける。ムッとする空気が彼を取り囲む。取り合えず 換気を良くしながら、布団を敷かなければならない。彼は事務用デスクの椅子に恋愛対 象者を座らせ、パパパッと作業を済ませた。そして彼女を布団に横たえて、ふと困った。 上着は取るのは辺り前だろうが、スカートは?確かにこのまま寝かせたらしわくちゃ になっちゃうだろうし………しかし、立ち入り過ぎているよなぁ………。そうだ、じゃ ベルトと首もとを弛めることで………うんうんそれなら苦しくないし………後でしわが よったとかなんとか言われたら、『気がきかないでごめんなさい』でいいよな。うん。 弛めてやると心なしか顔がなごやかになったようだった。 彼は警備員に撲られてぼこぼこの顔で幸せそうに笑った。 橋本の意識がスゥーと晴れた。しかし、しびれはきている。これがおそらく最期の目 覚めになるに違いない。彼は悟った。 重い目蓋を押しあけると、すぐそこには奇人の顔があった。目を開けたことで彼も驚 いているようで、仰け反っていた。そう言えば、ここはホテルじゃなさそうだ……… 「気がつかれましたか?」彼は彼女の手を握った。「ここは僕の部屋です。朝まで休 んで下さい。汚いところですが、まあ辛抱なさって−−−−」 「羅清くん」橋本の言葉は不思議なくらい透き通ったものだった。「言いたいことがあ るんだ……………」 「はい?」彼は様子が違うことに気がついた。灰色の瞳がなんとなく、違うのだ。同じ 望遠鏡でも見ている人が違うとき受ける感じのように。 「ありがとう。」 「………中村さんこんなことを言っては失礼かもしれないが………」 「言ってください、早く。時間がありませんから。」 「はい。」彼は一瞬ちゅうちょした。「貴方は、別の中村さん、ですか?」 「そうです。」彼女の、いや彼の瞳は穏やかだった。「よく分かりましたね。」 「ええ。」 「私は3年前から彼女の頭に間借りしている人間です。いや、もはや人間とはいえない な。自分の体がないのだから。さっきの貴方の活躍、みていましたよ。私も彼女を守っ ていたんですよ。」 「………。」 「中村さんは強そうだけれど、繊細な人間だよ。内部にいた私から言わせると………こ のところの出来事にもかなり心を悩ましていたよう………そうそう、君のことを相当恐 がっていたよ。私と中村さんがマージングしていることを見抜いてしまっていたと思っ ていたのです。………おかしな話だよなぁ。でも、驚いていないところを見ると……… ま、いい。これから、普通の女の子に戻る彼女を頼みますよ。」 「普通の女の子に戻る?」 「もう、私は消滅するでしょう。その前に大家さんに挨拶にいかないと……」そう言っ て彼は目蓋を閉じようとした。 「ちょっと待って!」彼は呼びとめた。「貴方は一体誰なのです。」 この当然の質問に中村は、いや橋本は微笑んだ。 「孝子さんに恋していた者ですよ。」 そして、スゥッと消えた−−−− (この章、続く) .
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