CFM「空中分解」 #1470の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
11 この物語の登場人物全てが長いと思った夜は明けた。まさに彼らにとって運命のター ニング・ポイントである。個人としてはどうしようもない時間の流れをここにきて、彼 らは感じているに違いない。 藤田は早速行動を開始した。大学で根気良く中村で待ち続けた。と、中村は小さくな ってやってくるではないか。まだ、そうやって隠れている気なのね。でもね、事態はそ んな悠長じゃないのよ。 彼女は中村の目の前に立ちはだかった。 中村はそのとき、ビクッと一瞬震えた。藤田の胸は早鐘のように響いていた。数日話 さないだけで、こんなにもなってしまうものだろうか。ささいないき違いが、大きな壁 として成長しきってしまったのである。はたして、意志疎通が可能なのであろうか。微 かな不安が彼女を過った。 「おはよ!」藤田から口火を切った。「久しぶりねぇ」何だか変な言い方である。 「………ごめんなさい!」中村は悲痛な声を発し、頭を下げた。「悪戯のつもりだった のよ。いつも貴方が突っ込み役だったから………たまにはやってみたくなって………」 「ゆ・る・さ・な・い」 「え?」彼女は不安気に顔を上げた。「許してくれないの?」 「うん。」藤田の長い髪が風に舞う。「こんなに事がこじれちゃったひとつの原因は貴 方にあるんだからね。」 「………」 「でも、全力で解決しようとしている人間がいるのよ。」 「誰?」 「羅清仲右衛門くん。」彼女は中村と並んだ。「貴方、なんか変に誤解しているンじゃ ないの?あのね、橋本くんという人のことは私が教えたのよ。」 「涼子が?」 「そう。孝子と杉丘の間に入る大儀名分としてね。」 「………でも………」 「彼は必死だった。一生懸命やって裏目に出ちゃったけれどもね。」藤田は相手の灰色 の瞳を見入った。「孝子、貴方しか決断は出来ないのよ。今日は。しっかり、考えてね。どっちにしても、今日で私達の状況は決定するのだから。」 「………涼子ぉ………」 彼女は友人の肩を優しく叩いてやった。彼女は嬉しそうに体を寄せた。 杉丘には微かな罪悪感が漂っていた。 何故だ。俺が悪いことをしたというのか。大体こういったことに悪いもへったくれも ないのだ。きっと、俺は不安に震えているに違いない。何故不安がる必要があるのだ。 数多くこういったことをやってきたではないか。もともと、俺は何の為に??? 「羅清め!!」 彼は意を決するために宿敵の名を吐いた。しかし、奇妙なことに敵意ではなく、親近 感に近いものが浮かんだのである。 “やっぱり、人のことを見抜ける奴なんていうのはいなかったんだよ。” “………もう、反省しているんだからいいじゃない。” 放課になっても彼女はまだ残っていた。7時には、ラグランジュというレストランで 杉丘と会わねばならない。それを実行するか、どうか、まだ決めかねていた。彼女のい る図書館の一角はあいかわらず薄暗い。しかし、その薄暗さが外光とうまい具合に調和 して趣ある風景を作り出していた。中村も、橋本も、この場所がとても好きだった。 “どうするんだよ、行くのか、行かないのか” “そんなに早さないでよ”なんでこの人ははっきり止めてくれないのだろう。“ねぇ?”“何?” “私の事、気になる?” “何言ってんだよ、そういう状況じゃあねえだろう!時間がないんだぞ!” “あと3時間もあるわ”彼女は自分が見るというよりは、彼に見せるという感じで時計 を見た。“正直なところ、よく分からないのよ。” “はぁ?” “杉丘っていう人は出会ってからまもないし、羅清くんも同じようなもので………。人 間てそんな出会いしか出来ないのかしら。あまりに急過ぎるのよ、何もかも。それで、 相手を選ばなくちゃならないなんて!” “しょうがないさ。今回の場合は多分それぞれに特殊な条件があるから−−−” “そうじゃなくって、私がいいたいのは長く付き合っているうちにあるとき分かるもの なんじゃない、そういうことって。” “かもしれない。だけれども−−−” “どうして『だけれども』をつけるわけ!!”彼女はじれったくなった。“私が言いた いのはね、” “行くつもりなんだろ” “え?” “杉丘の誘いにのるつもりなんだろ?”彼は穏やかだった。“大家さんの事だもんな。 間借り人は口を出すべきじゃあねえんだろうな。” “ねぇ………” “頑張れよ” 何よ、あんたに頑張って欲しかったのに!彼女は腐った。 ラグランジュはしゃれたレストランだ。きらびやかな照明と光を交錯する様々なシャ ンデリアが天井にぶらさがり、赤と金を基調とした店内を演出していた。広いつくりの ために、テーブル間はゆったりとしていた。プライベートが守られているのだ。シーン と静まりかえったところよりも、こういう少しにぎやかでしかし話をききとれないとい う方が話し易いというものだ。杉丘は満足気に微笑みを浮かべた。 カランというドアベルの音がして誰か入ってきた。紺のスーツに、白のブラウス。銀 のネックレスがきらりと輝く。髪をひっつめで纏め、とても清楚だ。黒いストッキング の足に黒いパンプス。左手で持ったハンドバックも黒に近い色だ。そういえばスカート のベルトのヘッドは輝いていることから銀か金色なのだろう。これがあの中村孝子なの か。藤田よりも着こなしているではないか。 ボーイに尋ねている彼女に向かって手を上げる。彼女はすぐに気がついてこちらに足 を進ませた。彼はその間に腕時計をサッと見やった。7時0分25秒。25秒の遅刻は 計算されたものなのかな。彼はふふんと笑った。 「どうも」中村はにこやかだ。 「どうぞ。」彼は椅子を進めた。「まずは腹こしらえといきましょう。ここは美味しい ですよ。」 「私、こういうところあんまりきたことないんです。」 「大丈夫。」 「今日は、お願いします。」女はぺこりと頭を下げた。 「楽しい夜になることを約束しますよ。」男の目には感情が無かった。 .
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