CFM「空中分解」 #1466の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
7 駅から吐き出された人々はメガロポリスの各自の目的の場へと散らばってゆく。しか し、それは跡切れることは不思議と無い。どこにこれだけの人間がいて、どこにこれだ けの人間が行く場所があるのだろうか、考えさせられる。社会観察というのは、こうい ったことを追求する分野だった。 しかし彼がここに朝っぱらから立っているのは研究の為では無かった。 羅清は日頃から群衆を観察する訓練をしている瞳によって、ターゲットをうねる波の 中から発見した。彼女は首をすくめ、バッグを抱えてうつむき加減に足早に大学方面に 進んでいる。奇人は隠れていた駅の柱から離れると、群衆の波の中に紛れた。 何を一体、恐れているのだろう。 彼は、一歩々々スピードを上げていった。 中村は一心に足を進めていた。こんなふうに避けていられるのも数日がいいところ。 涼子とは奇麗に仲直りしたい気分だった。しかし、このように事態を進展させてしまっ ている以上、困難な話だ。それに、彼女と接近すれば羅清とも距離が近付くことになる。彼のような洞察力優れた人間なら勘づいてしまうに違いない。ぶーむで初めてあったと きにあんなことをすらりというのほどなのだから。 しかも、あのときはまだ当事者が2人だったから良かった。今度は1人で、橋本の分 まで責任を被らざるを得ない。 しかし考えようによっては今彼がいないことは好都合なのかもしれない。何故なら、 もしばったり会ってしまっても、普通に過ごすことが可能だからだ。いくら奇人でもい ないものを見ているとはいえまい。 少し安心して彼女に笑顔がよぎる。しかし、それも束の間だった。彼女を呼び止める 声が背後でしたのである。 「中村さぁ〜ん、僕ですよ。」 奇人は気軽に声を掛けたつもりだった。しかし、振り向いた彼女の顔には何故か恐怖 の色がうっすらとにじみ出ていたのだ。それをみて流石の彼も顔をどういうふうに作っ たらいいかわからず、表情はニュートラル・モードに戻ってしまっていた。と、彼女は 破顔させ、脱兎のごとく走り出した。群衆の波をものともせず、たいあたりしてゆく。 その凄さに羅清はしばしぼう然とした程だった。しかし、見送っている場合ではない。 「あっ待って!!」彼は追い出した。 なんであの人がいるわけよ!!まるで映画みたいじゃない!! 中村はテニス部時代にかね備えた脚力を爆発させた。そこらじゅうにサラリーマンと いう障害物が動き回っている。極めて不規則な運動をしながら、道を移動する障壁。彼 女はシューティングゲームよろしくこれをクリアしなければならない。時には、かきわ けることさえ−−−− どーん、という衝撃が走って彼女は前につんのめる。それを必死に制動しようとして 手が突き出される。しかし足は滑り、手が路面を擦る。勢いよく吹き飛んだ彼女はそれ でもなお止まることが出来ずに小さくバウンドしてようやく止まった。 ててぇ……… 中村が振り返るとそこには中年の男が蒔き散らした書類を茶封筒に回収している姿が あった。どうやら、彼にぶつかって弾き飛ばされたらしい。ぶつかった腰の部分に鈍い 痛みがあった。 君、拾いなさい。その声がった瞬間、追ってきた羅清が視野に現れた。まずい!彼女 にどこにそんな力があったのだろう、操り人形のごとく飛び跳ねるようにして起き上が ると再び駆け出した。サラリーマンの憤慨しきった声が背にささるがそんなことはどう でもよかった。 ひっくり返っていながらも逃げ出した彼女をみて驚いた。何故にそんなに恐れるのか 嫌いなのであったらあしらえばそれで済むであろう。しかし、それとはあきらかに違っ た反応である。 腰をかがめ書類をぶつくさ言いながら中年男をひょいと馬飛びして、彼は彼女を追っ た。 中村は怪我を追っていた。手の平と膝小僧は凄いすり傷だ。はしってから暫くしてズ キンズキンと痛みだしてきた。切る風が傷口を刺激し、走るときに肉が引っ張られ痛む。息もハプニングで乱れたのか、苦しくなってきた。足の方もおぼつかない。ひっくり返 りそうになりながら彼女は逃走を続けていた。 後ろから追ってくる足音が耳にまとわりつき出した。それは次第に大きくなってくる こちらは限界を迎えつつある。じきに捕獲されてしまうだろう。そしたらどういう態度 をとればいいのだ。 大体、声を掛けてきてさければ諦めるものだ。それがこんなにしゃかり気になって追 ってくるなんて!!尋常じゃない。きっと、私と橋本くんのことを知っていて、それを 確認しようとしているんだわ!もしかしたら、もう既に橋本くんの事故のことまで調べ ているかもしれない。何せ相手は−−−− 「奇人ですもの!」 そのとき、彼女の視野に飛び込んできたものがあった。 彼がようやく追い付いてきたとき、彼女は乗客を飲み込んで今まさに出発せんとして いるバスに飛び込んだ。彼がアッと思った瞬間にはドアは閉められ、ホォン!というバ ス特有の可愛らしいクラクションを鳴らして出発されていた。そして彼の目の前を悠然 と走っていったのである。 しかし、完全な逃走とはいえなかった。そういう状況に追い込んだのは彼だった。だ けれどもそれは殆ど偶然といってよかった。それに対する微かな疑問を抱いた青年を残 してバスはスピードを上げて街角へと消えた。 彼にはしっかり読むことが出来た。そのバスは大学とは反対方面の都営公園行であっ た。 藤田が大学の正門のところで中村を待っていると、羅清がとぼとぼとやってくるのが 見えた。どうやら、彼女には気がついていないらしい。 「おはよぉ〜!」 「あっ!」奇人は飛び上がらんばかりに驚いた。「なんだ………驚かすなよ、こんな時 に。考え事をしているのぐらい分からないのか。」 「見て分かる人間いるかしら?」 「すくなくとも僕は分かる。」彼は肩をすくめた。「誰か待ってたの?」 「うん、孝子をね。」中村は奇麗に肯く。「ね、見なかった。」 「都営公園方面へ行った。」 「ええ?」女は男の袖を取って引きとめた。「だって、こっちと反対よ、方向。あの子 そんなに方向音痴だったっけ?」 男は優しく手を払って言った。 「原因不明の逃避行実行中なのさ。」 橋本の意識をからめる鎖は既に無かった。精神力も記憶もかつて通りになっていた。 外で起こっている状況が彼のいなかった間に急転していることを知ってあせるとともに、これを見極めるまでまだスタメン復帰は見合わせることにした。 .
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