CFM「空中分解」 #1397の修正
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風が吹いていた。 しこたま儲けた桶屋の喜三郎は稚内の駅に一人降り立った。春とはいえ、稚内の風はまだ冷たい。こごえる手で煙草に火をつけながら、今までのことをふと思い出す喜三郎だった。 仕事に明け暮れた毎日。忙しくはあったがまた充足した日々でもあった。だが、久しぶりにゆっくりできるようになると今まで心のどこかに沈んでいた思いが徐々に、強く表に浮かびあがってきた。 確かに今の俺の生活は昔に比べて豊かになっている。すばらしい家具や高価な電化製品もそろえた。でもそんなすべてが色あせてみえる。物質的にも精神的にも恵まれた生活の中で、何が足りないというのだ。 「宝もの」 その一言に思い当たって喜三郎は心に溜っていたものが取れたような気がした。俺の欲しかったのはこんなただ高いだけの平凡な品々じゃない。何か自分だけのもの、この世で自分一人しか持っていないもの。 喜三郎は有名な宝石店に行った。だが、美しい光をもつダイヤモンドも、怪しく輝くルビーも彼の心を照らさない。見事であればあるほど、もっとすばらしいものを誰かが持っているに決まっているという思いが離れない。 喜三郎は次に有名な美術商に行った。だが、心洗われるような名画も体中を揺さぶるような彫刻も彼の心に響かない。 皆が価値を認めるものは、もはや自分だけのものではない。たとえ自分の持ち物でも、決して一人だけの宝ものにはなりえない。 「稚内に行こう」 彼は北へ向かう夜行列車に乗った。 煙草の火を消すと、彼はゆっくり歩き出した。やっと俺は自分一人だけの宝ものを見つけることができた。誰も他に持つ者のない、俺だけの宝。それが今やっと手にはいる。 一歩一歩あゆみを進め、彼は出札口の前に立った。 「六ヶ月定期、鹿児島まで」 [完]
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