CFM「空中分解」 #1396の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
二人の体が焼きつくされてから、警備員は自動消火装置がオフになってい たことに気付き、慌てて作動させた。温度の一番高い箇所へ消火剤の泡が吹 き付けられ、邸内全体の天井から水が吹き出した。 私とアキコは慌ただしく動き回る邸内の警備員たちをぼんやりと眺めなが ら、坂上の屋敷の外へ出た。涙はもう涸れていた。と言うより、もう泣く理 由が無くなってしまったのだ。全てが消え去ってしまったのだから。 だが、アキコの方はそういう整理の仕方ができないようだった。彼女に与 えられた感情移入の能力によるものかも知れない。彼女の足取りは不安定で、 力が尽き果てた「「もっともそんなことがあるわけはないが「「という感じ だった。 「少し分らないことがあるけど、聞いても大丈夫かな」 「大丈夫じゃなきゃならないんです。私はアンディーなのだから」 「自分のことをそんなに卑下しなくてもいいさ……聞きたいのは、菖蒲崎圭 子という人の事なんだけど」 「信彦さんが唯一、好きになった人だったんです。初めは彼のお父さんの勧 めで、お見合いをするはずだったのですが……仕事の都合で不可能だったの です。それで、取り合えず話しだけでもということになり、彼と圭子さんは 手紙を交わすようになりました。何故かは分りませんが、信彦さんは映話と かがお嫌いでしたから、手紙しか方法がなくて……」 不意にアキコは手で顔を覆った。頭の中で「「アンドロイドの脳の中で激 しい電位差が巻き起こり、彼女を責めつけているに違いない。 「私はなんていう事をしてしまったのかしら。ああ、私が信彦さんを殺した のだわ」 白石の庭のなかを半分ほどきた辺りで、アキコはしゃがみ込んでしまった。 まるで全身の力が抜けていくように、すうっと。 「そんなに気にすることないんだよ」 そんな慰めが彼女に通用するはずもないことを私は知っていた。強化され た心の機能によって、アキコの脳はもう取り返しがつかないほど変異してい るだろう。私はそう思った。もう彼女は、今までのようにアンドロイドとし ての能力を発揮することができない。主人が死ぬのを目撃しながら、助けよ うともしなかったのだから。 「違うの……あれは、あれは……」 アキコは良く耐えている方だ。いや、タフ過ぎる。確かに、本来は看護ア ンドロイドである特種の彼女たちは、看護していた患者が死んだ場合なら、 気を失ったり、機能の一次停止が起こる事は多い。だが、彼女たちが主人を 失った場合、つまり仕えていた医師が死んだとなれば、機能不全に陥りその 殆どのアンディーは再生不能になる。アキコの任された秘書という職業で言 えば、信彦の死とはすなわち医師の死と同じのはずだ。 奇妙な考えが頭に浮かび、私は忘れかけていた自分の臆病なこころが動き 出すのを感じた。 アキコは憑かれたような声をだした。 「『心中したかったのよ。』 違うわ、違う。カオリ、あなたはそんな酷い 事なんか考えていない。酷いのは私の方よ」 その声はまるで、二つの意志が絡み合っているようだった。もしかすると、 これは彼女たちに強いられていた<連関>に関わっているのではないだろう か。極端に複雑化したカオリの脳と接触して、互いに共鳴してしまったとし たら……アキコの頭にカオリがいたとしても不思議はない。だが、そんなこ とが実際にあるわけが…… 「私は信彦が憎かった。毎日、彼は私を機能停止に追い込んだわ。だからあ の時、カオリを利用して信彦さんを……」 私に話しているというより、アキコは自分と会話しているようだった。彼 女は頭を抱え、何度も体を揺らした。それは機能不全の兆候にも、彼女の頭 の中にこびり付いたカオリという記憶の亡霊がそうさせているようでもあっ た。 「信彦さんにあの手紙の本当の主を教えれば、こうなると分っていたのに… …わたしは言ってしまったのよ。そうやって信彦さんが死ねばいいと思って」 再び大きな震えが彼女を襲い、その姿に霊的なものを感じて私は怯えた。 「『いいのよ、アキコ……もうそんなことは。私はあの人と一緒に死ねて本 望なの。おかしいわね。アンディーのくせに”死ぬ”なんて。”破壊”と言 うべきよね、藤原さん。』 私の為に嘘をつかないで、カオリ。あなたは信 彦さんに生きていて欲しかったのに」 カオリの「「だがアキコが発した私への言葉が、自分がカオリを所詮アン ドロイドとしてしか扱っていなかったことを思い知らされた。長年アンドロ イドと暮らしているせいで、麻痺している私は、心の底から彼女を人間のよ うに扱えなかった。美しい思い出の日々として記憶しているカオリとの一週 間は、彼女にとってみれば激しい恋愛の間にあった、いっときの休息に過ぎ なかったのだ。 私は涙を流すまいとして、空を見上げた。陽が沈んだばかりの西空には、 夕陽が残した僅かな赤の切れ端が残っていた。 再びアキコに目を向けた時、三度目の頚攣が起きていた。彼女はまぶたを とじていた。 震えがおさまったアキコの瞳には、生の炎が消えていた。た だ機能だけはそのままだった「「言葉を解し、反応し、動きはするのだ。し かし、それはこころのない人形だった。 私はその人形を立たせ、坂上の屋敷を出た。そして、谷に広がる胎児と女 性の石像のところで、アキコという一人の女性だった機械に、その場に永遠 に立っていろと命じた。おそらくそれは何時までもそこに立ちつくすだろう。 永遠に。 そしてそのアンドロイドがもつ意味も永遠に消えないだろう。この谷に立 つ彼女の体は、死んでいった人間の「「信彦と直樹とアキコ、そしてカオリ の墓碑なのだから。 おわり
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