CFM「空中分解」 #1393の修正
★タイトルと名前
★内容(1行全角40字未満、500行まで)
ヘリはサイレンを鳴らし始めたため、走行する車はその銃口を見て脇によ る。奴らからすれば、それは市民に被害を与えない為だったが、我々にすれ ばそれは道幅を広くし走りやすくするだけだった。 バイクを蛇行させながらその銃弾をかわすが、走る道の車線が多くなりす ぎた。障害物がなくなり、ヘリは再び高度を下げ始めた。今のスピードでは 引っ掛けられるだけで終わりだ。彼女もそれを知って道路脇に点々と止って いる車の間を抜け、舗道へと乗り込んだ。がたがたとした路面から伝わる振 動が全身を貫く。逃げ惑う人々、混乱した叫び、私はそれらがもたらす、絶 頂感にも似た快感を味わった。 彼女は急にブレーキを掛け、速度を落とす。そしてバイクは目の前の地下 街へのエスカレータへ飛び込んだ。 地下三階、オート・ワゴン制御通路を走る。路面は磨きぬかれていて、ちょっ と体を動かすとバランスが崩れた。しっかりと前をみつめて、重心が動かな いようにしながら、私は尋ねた。 「きみ、誰」 「アキコ。カオリと同型のアンドロイド」 「なぜ、私を助けるんだ」 カオリと同じなら直樹を殺した側のアンドロイドじゃないか。 「人間じゃなきゃ出来ないことがあるの」 「だから。どういうこと」 彼女を信用すべきか否かなど、私には考える暇などない。警察に捕まるよ りはましなのだ、例えどんな罪でも。 「カオリを助けて欲しいのよ」 「カオリがどうしたんだ」 「坂上に壊されるわ」 「……坂上」 全てはフューチャー・ビークル社が関わっていることなのだ。カオリは自 分の仕事は看護婦だと嘘をついていた。私は脳位図を取っている途中で、う すうす気が付きながらも騙され続けてきたのだ。カオリは野島に使えていた のではなかったか。それを尋ねると、アキコと名乗るアンドロイドは言った。 「野島は私たちにとっては無害な男よ。本当に危険なのは坂上信彦という男 だわ。私の仕えている彼がFV社を仕切っているのよ」 中央通りへと曲がる角で、アキコはバイクを大きく左に傾けた。 「足を出して!」と彼女は叫ぶ。 腰と体は先に流されていくのに、頭と踏ん張る足はそのまま残ろうとする。 再び後輪が路面に喰いつき、バイクはオート・ワゴンの流れの中を北へと向っ た。直進を続けるうち、背後を走るオート・ワゴンが道を空け始める。一般 のオート・ワゴンに混じって後方に警察のパトロール・カートが走ってきた のだ。 そうする間に前を流れているワゴンは故意に私たちの進路を妨害し始めた。 警察が制御路の回線に命令を与えたのだ。地上を走る車と違い、制御路専用 のワゴンには方向指示もブレーキ・ランプもついていない。急に左へ右へ動 くワゴンに何度も挟まれそうになる。 前方に曲り角が見えるたび、そこから前方に回り込んでくるパトロール・ カートをかわす為に彼女は右に左に曲がる。一般のオート・ワゴンとは違い、 パト・カートは台形ではなくタマゴ型をしている。色分けはあのヘリと同じ、 白と黒。不気味な配色をしたタマゴが後に何台も繋がってきていた。だがい くら速度が速くても、道の脇に走るガイドの通りに直線と緩いカーブしか走 れないカートでは、それに縛られないバイクに追いつくことは無理だった。 「警告する。そのバイク、すみやかに停止しなさい」 上の階と違い地下三階は周りは殺風景そのものだった。地下の発電所が吐 き出す蒸気は洩れ放題、パイプの類は覆いもされず、あらゆる方向へ伸びて いる。 一般のオート・ワゴンが少なくなり出すと、バイクの軽やかなモーター音 に混じって空気の震える音が聞える。吸排気ダクトは鳴り止むことなく動き 続けるのだ。例え生物がそこに存在しなくとも。 「逃走中のバイク、停止しなさい」 パト・カートは車両が少なくなった途端、発砲してきた。彼女は弾を避け る為にS字を描くように進んでくれるのだが、バイクを傾けるため逆にグリッ プを失い、加速がままならない。私は振り返り、後方の警察カートから洩れ でた音を聞いた。 「追い込んだぞ……」 何のことだろうか。彼らは射撃をぴたりと止め、後尾数台は反対車線へと まわった。 人のいなくなった地下街のシャッターをダクトが震わせる音に混じって、 空気の振動に関係無い、金属が擦れ合う音が聞えてきた。最初はそれがなん なのか分らなかった。アキコとかいう女はその音を聞くとアクセルをさらに 開けたようだった。 「倒すわよ」 頭をすこし横に出して、前を見る。ようやく音の意味が呑み込めた。北4 番出口のシャッターが下りる音だったのだ。目前で閉まり掛かっているシャッ ターはもはや壁に近かった。すでに私の腰より低い。 「3、2、1」 バイクは綺麗に横倒され、私も仰向けに投げ出された。オート・ワゴン用 の地下通路は滑りがよく、二人はカードを投げたように回りながら床を走る。 私は恐怖のためと、摩擦の少ないようにするため、体を縮める。すり抜け るのは、瞬きを一つする間だった。アキコは寸前で止ってしまい、私は彼女 の足を引っ張って挟まれることは免れた。 「君、怪我をしてる」 その左足をみた私は思わずそう言った。アキコはバイクを倒し込んだとき に足を挟んだらしい。私はその傷口を見て血の気が引いていくのを覚えた。 すぐに傷口から目を逸し、脳貧血で倒れている場合ではないと自分に言い聞 かせた。直樹の死にゆく前の姿を見たときには貧血にもならなかったのに、 この程度の傷を見て気絶してしまう筈がないと。 閉鎖したシャッターは再び開き始めた。制服を着た数名が扉の下に手を突っ 込んで必死に持ち上げようとしている。その努力と無関係に、シャッターは 閉まった時とほぼ同じ速度で上がっていく。後少しすれば、警察はその下か ら滑り込んでくるのだ。 アキコは痛みも感じることがない様子で「「当たり前だ。アンドロイドな のだから「「起き上がりバイクへと走り出した。だが、私の生来の気の小さ さが災いし、あの直樹の姿が繰り返し思い出され始め、彼女の傷口の生々し さも手伝ってか、スウと気が遠くなっていく。頭上の明かりがやけに鮮明で、 彼方の先にあるように見えた。 「警察からの連絡は」 「ございません」 そう答える野島には、狼狽える様子はない。逆に一度に二人の男を殺そう とした、信彦のしくじりを楽しんでいるようにすら見えるほどだった。信彦 はそれを素早く感じ取り、話を切り替えた。 「まさかアキコが動くとはな。やはり、カオリと記憶を連関していることを 甘く見るべきではなかったな」 野島は睨み返す。まるで自分の意見をうのみにした方が悪いかのようだと、 信彦は思った。 「記憶を互いに交換させるだけで、アキコが社に歯向かうとは思えません」 「何が言いたい」 「いえ、ただハード的にも、ソフト的にも、そのような事は在り得ないと申 しているだけです」 野島は坂上失脚を待ち望んでいたのだ。信彦は自分の行動の全てを野島に 掴まれていることに、今まで気がつかなかった。信彦が毎日、アキコを機能 停止状態に追い込んでいることや、ある人からの手紙を待ち望んでいる事ま で。 野島はそこまで知っているに違いない。だが信彦は不安を表情にださない。 付け込もうと待ち構えている奴に機会を与えるだけだ。 「とにかく、社の情報はその二人以外には洩れていないのだな」 「はい。それは確実です」 「その言葉、忘れるなよ」 信彦は窓を透かし、夜景を見ながらそう言った。 「カオリの始末はどうなさいます」 「そっちは間違いなく処理する。それとも、私を疑うのか」 「社長の趣味は残酷ではありますが、確実性には欠けるようですので」 「なんだと!」 「申し訳ありません。いまのことは聞き流して下さい。ただそんな気がした だけで」 その言葉で一気に頭に血がのぼり、信彦は野島を睨みつけた。野島は謝っ ているようには見えるが、こころからそうなのではない。野島はわざと信彦 が気に触ることを言って、観察から何かを読み取ろうとしているのだ。 「私は宅にもどるから、後は頼む」 信彦は精一杯冷静な口調でそう言った。これ以上野島と顔を会わせても無 駄だった。 「承知しました」 心地好いモーター音が右耳に強く響く。その心地好さは側頭部を打ちつけ たことで壊れた。私は不意に彼女を探した。だが、頭を上げてもアキコとい うアンドロイドの姿は見えない。 「見えない!」 彼女の声に私は頭を下げ、彼女の視界を妨げないようにする。私は情けな いことに、気を失ったのだった。女を後に乗せているのならまだ格好がつく が、女の前に乗せられる事は、みっともいいものではないな、と思った。 私は頭を主バッテリー・カバーに押し付けながら左右を見渡す。どうやら、 無事地下道を抜けたようだった。そこは太った胎児をデザインした岩が散ら ばる谷で、両脇のエロティックな女性の裸体と、見知らぬ生き物のパイプの ような骨が絡み合った風景を作り出している。坂上の邸宅はこの先にあるら しい。 周りを見ている内に、頭上を動く明かりに気付いた。追いかけられたヘリ ではない。高度のせいか、静かすぎるし、僅かに認識できるボディの色は違っ た。 「なぜヘリは撃ってこないんだ」 「坂上が自分の谷を傷つけたくないからよ」 「こんな気味の悪い谷を持っているのか」 両脇に並ぶ胎児の岩は、どれ一つ同じ格好の物はなかった。坂上はよっぽ ど悪趣味な奴か、それとも母の愛が薄かった人間ではないか。私はそう推測 した。別段、はっきりとした理屈ではないのだが、ねじくれた胎児と悪魔の ような母性をイメージしたこの谷の様相が尋常ではないからだ。 アキコが不意にブレーキに手を掛けたので、前方になにかがあるのが分っ た。私はバイクのバッテリーカバーに顎を擦りつけるようにして見た。巨大 な門だった。十二メートルはあるだろうか、まるでその奥に大仏でも安置し てあるかのような、無意味に大きな門だ。その扉の表面にはドラのような丸 い浮き彫りが入っていて、それはまるで曼陀羅だった。 「ここからが邸宅よ」 「でかいな。それに、何か魔術めいてみえる」 「内部もかなり複雑なの。大きさと同じくらいに」 「これ以外の出入口はないのか」 「ないわ」 サイド・ステップが土に食い込み、二人が下りたバイクはそのまま倒れた。 ヘリは上空から消え去っていた。 「入りましょう」 決然とした、厳しい口調だった。そして、アキコは扉に向って一連の手順 で腕を振り回した。呪文を切っているのだろうか。まさか、と私は思った。 ここはフューチャー・ビークルの代表取締役の邸宅だ。そんな非科学的なロッ クであるわけがない。彼女の仕草はもっと電子的、暗号的なものだろう。 アキコは眉間の前に両手を合せ、次に両方の人指し指と親指の先を合せた。 指が型取る菱形の間をなにか稲妻のようなものが走った。それは錯覚にも思 える、神秘的なものだった。事実、私はそれを信じなかった。 だが、それら一連の動作によって、扉は内側へ開いた。
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